徐々に頭がハッキリしてきて目覚めてくると、隣から零時の匂いがしてきた。
そうだ、昨日はリビングに布団を敷いて隣同士で眠ったんだった。
でもどうしてこんなに近くに感じるんだろう……それに布団とは違う温かさが自分を包んでいるように感じる。
なんとなく彼の布団に潜り込んでいた時のことが頭をよぎり、恐る恐る瞼を開いていく。
すると、やはり目の前に零時の顔があり、彼の腕の中に収まっていたのだった。
「~~~~っ!!」
大きな声を出してしまいそうなのを必死に堪えるために、自分の口を両手でふさいだ。
なんっっでこんな体勢で寝ているんだ?!!
寝る時は確かに別々の布団で寝ていたはずなのに!
よく見てみると、俺の布団に零時が入り込んでいたのだった。
そうか、そういうことか……自分から兄のところに潜り込んだわけではなくて、ホッと胸を撫でおろす。
でもこの状況……!
安心している場合かっ!
体が密着しすぎてるし、何より零時の顔が!
近い!!
昨夜、小学校時代のわだかまりも解決したのもあって、零時を拒否する理由がなくなってしまったんだよね。
それは喜ぶべきことなのに……今までずっと拒否していたから、こういう時にどうすればいいか分からない。
もともと彼は距離感がバグっているからこんなこと、日常茶飯事なんだろうけど——。
ふと、目の前の存在が真に同じことをしているところを想像してしまう。
いや……いやいや、いくら零時でも真にはそんなことをしないでしょ……他の友人には?
クラスの女子には?
色々と想像すると、なんだか気分が悪くなってきた気がする。
きっとこの体勢が良くないんだ。
「せーいご。 なに百面相してるの?」
「わぁぁぁっ!!」
起きてるとは思わず、零時に声をかけられて思わず大きな叫び声をあげてしまう。
「起きてるなら言ってよ!」
「ん~~だって物凄い勢いで表情が変わるから、しばらく見ていようと思って」
「悪趣味……それに離れてよ!」
「なんで? 温かいからもう少しこのままがいい~」
「俺は嫌だっ!!」
俺の叫びを聞いて零時はスッと腕を離し、こちらをジッと見つめてくる。
「な、なに……?」
滅多に見せないような真剣な表情をしてくるので、一瞬心臓が跳ねた。
そしてふいに表情が緩み、柔らかい笑顔を向けてくるので、こちらの方が視線を外してしまう。
なんだよ、その顔……それが弟に向けるような表情なのか。
零時の手がこちらに伸びてきて、俺の髪を一筋拾い、柔らかく撫でてくる。
「ふふっ。 柔らかい……昨日手入れしてよかった」
朝陽が後光に見える。
眩しすぎる笑顔に、どう言葉を返していいか分からなかった。
零時とは良い兄弟でいたい。
仲良し、とまではいかなくてもお互いに助け合って、両親が安心するような兄弟に——。
「今日はすっごく天気がいいよ!」
そう言いながら立ち上がり、リビングのカーテンを開く零時は青空に吸い込まれてしまいそうだった。
なんて綺麗な兄なんだろう。
純粋にそう思った。
家族想いで、努力家で、なんでも出来て……でも距離感ゼロで、すぐに可愛がりが始まる兄。
本当に「いい兄弟」でいられるのだろうか……?
胸に一抹の不安が過ったけど、かき消すように立ち上がった。
「布団、片付けちゃおう」
動いていれば余計なことを考えずに済む。
考えるな、俺。
新婚旅行は二泊三日なので今日も両親と圭吾は帰ってこないから、昼間も零時と二人きりになってしまう……そう考えた俺は適当に出かけようと思ったんだけど。
「ダメ。 どうせなら一緒に出掛けようよ。 父さんたちに写真送ったら喜ぶかもよ」
「…………それは……そう、かも」
確かに二人で出かけてる写真を見たら母さんも凄く喜ぶだろうなと思うと、断る理由がなくなってしまう。
「じゃあ、どこに行く?」
「一緒に行ってみたいところがあるんだ」
というわけで零時に導かれるまま連れて行かれたのは、小学校の修学旅行でも行った、市営の水族館だった。

