最悪なブラザー。~大嫌いだった先輩が、ひとつ屋根の下で兄弟になりました~


 君を笑わせたい。

 君を甘やかしたい。

 もっと、もっとって気持ちがどんどん大きくなっていく。
 
 
 「まだまだ食べるでしょ?」

 「うん。 俺、自分で出来るけど」

 「だめ。 僕がやりたいから」
 
 「零時って……俺のこと、甘やかしすぎじゃない?」

 「そう?」

 「だって、普通、兄弟でここまでしないから。 度々甘やかされてるなーって感じるというか」


 痛いところをつかれ、焦りで声が上ずってしまう。

 でも彼が次に発した言葉は、僕を凍りつかせたのだった。

 
 「小学校の時は俺のこと、避けてたでしょ」

 「それは……っ!」


 やっぱりその時がきたかという気持ちと、今の幸せな時間を壊したくない気持ちがせめぎあい、言葉が出てこなくなる。

 早く謝らないと……僕の言葉が、態度が原因であんなことになってしまったのに。
 
 自分の意気地のなさに俯く僕に、誠吾はとても優しく丁寧に言葉を選んで語り掛けてきた。

 
 「違うんだ、責めてるわけじゃない。 ただ何でなのかなって……知りたかっただけで」

 「…………誠吾は優しいね。 あんな風に君を傷つけた僕のことを気遣ってくれるなんて」
 
 「ただ、理由もなしにそういうことする人間には見えないっていうか……」

 
 君は優しいよ、本当に。

 僕をそんな風に見てくれていたなんて……嬉しくて今にも涙が溢れてしまいそうだった。

 でも今ここで泣くのは違うから。

 とにかく本当のことを話さなくてはと、自分の気持ちを交えながら話した。

 僕の話を聞きながら、誠吾は怒るわけでもなく、反論もせず、とにかくじっと耳を傾けて聞いていてくれた。

 もうそれだけで十分だったんだけど、君が僕を喜ばすようなことばかり言うから。

 僕の発言が周りの奴らを助長させたのに。

 避けないでほしかったって……可愛かったって言ったのも褒めてくれたんでしょって……。
 
 
 「けっこう嬉しかったんだよ」

 
 物凄く傷つけたと思ってたのに。

 嬉しかったって言われるとは思ってなかった。

 やっぱり僕があの時、君を避けないでもっと話しかけていたら……こんなに君を傷つけることはなかったのに。

 
 「ごめん……っ、ごめんね、誠吾……っ!」

 「うん」

 「ありがとう……」

 「うん」


 ありがとう、誠吾。

 大好き。

 涙でボロボロの顔は学校のみんなには見せられないほど酷い有様だけど、君が笑っているからそれでいい。

 あんまり嬉しかったからどさくさに紛れて一緒に寝る方向へと話を持っていった。

 そして今に至る……今日は本当に濃い一日だったな。
 
 すっかり寝落ちてしまって全く起きそうになかったので、いつもは拒否られてしまう事をしてみたくなる。

 誠吾のすぐ近くに寝転がり、彼の顔を至近距離で見つめた。


 「誠吾……」


 当たり前なんだけど、呼びかけてみても返事はない。

 
 「はぁ……可愛いな」


 指で唇を触ってみてもまったく反応がなく、相変わらず寝息を立てて眠っている。
 
 前に彼が間違って僕の布団に潜り込んでいた時も、僕が後から布団に入っても全く起きなかったんだよね。

 一度寝入ったらなかなか起きないタイプなんだろうか。

 キメの細かいすべすべの肌を触り、そっと起こさないように抱き寄せた。


 「……本当に君が好きなんだよ」


 気持ちが昂るたびに好きって伝えているけれど、誠吾には全く伝わってないのは自覚している。

 もとより彼はノンケなのだから、僕が恋愛的な意味で言っているとは思っていないだろう。 

 兄弟のままでいたい。

 好きになってもらおうとは思わない。

 せめて一番近くにいられれば。

 そう思っていたけれど————一緒にいればいるほど彼が可愛くて、彼の人間性も僕の心を捉えて離さないから、自分の欲を抑えておくのが難しくなっている。

 触れてしまえば手放してあげられないことも分かっているのに。
 
 こうして腕の中に収めて僕のことしか考えられないようにしたくなってしまう。


 「でも……君も悪いんだよ。 僕を簡単に赦すから……もっとなじって僕を悪者にしても良かったのに。 君が笑うから——」


 抱きしめる腕に力を込めた。

 君がとても優しいことも分かっていた。

 その優しさに付け込んで、君の兄として家族の一員として無視できない存在になり、拒否できないように外堀を埋めていくことで傍にいようとする。

 そんな浅ましい想いを持つ自分という存在が、本当に嫌いだったんだけど。
 
 でも君が赦してくれたから、ほんの少しだけ好きになれた気がする。


 「いつか僕が野球見に連れて行ってあげるからね」


 自身のお父さんとの話をしている時の彼は、本当に幸せそうな表情をしていた。

 僕もその思い出の中に入れてほしい。

 そんな想いを抱きながら、愛しい存在を腕におさめて眠りに就いた——。