中間テストも無事に終わり、両親が圭吾を連れて新婚旅行に行く日がやってくる。
この日をどれほど待ったか……圭吾には申し訳ないけど、誠吾と2人で過ごせる貴重な二日間。
目いっぱい楽しむんだ……!
まずは自分のスキルを十分に発揮する為に手料理をふるまおうか……と考えていた。
でも、ふと誠吾がエプロンを着用している姿を想像してしまう。
可愛すぎて震える……!
これは一緒に作った方が一石二鳥かもしれない。
「せっかくだし、一緒に料理しようよ」
「え?! でも俺、包丁握ったことないし……!」
突然の提案に驚き戸惑う誠吾……すぐ表情に出るのがたまらなく可愛いんだよね。
あたふたしている姿に顔が緩むのを必死にこらえた。
「それは僕が教えるよ。 父さんと二人暮らしだったから僕も料理担当していたんだ」
「……そっか」
これは本当のこと。
母親がいなかったから最初は父さんが料理を頑張ってくれていたけど、小学生になって包丁の使い方を教えてもらい、僕も料理を少しずつ出来るようにしていった。
料理をするようになって、父さんがどれだけ頑張ってくれていたのかも分かったし、やって良かったと思ってる。
毎日フルで働きながら、僕の分も作らなきゃならないのはとても大変だっただろう。
でもあまりお惣菜を買ってくることもなかったので、母親はいなくとも親に恵まれたと思ってる。
この二日間は誠吾と一緒にいられるチャンスだけど、父さんには新婚旅行をしっかり楽しんできてほしい気持ちも強い。
だから僕は相当浮かれていたんだと思う。
彼が好きなものは何でも作ってあげたくて。
「うーん。 簡単なところで肉じゃがを作ろうと思ってるんだけど……もう一つ何か作りたいなぁ」
「肉じゃが作れるんだ?! すごい……!」
誠吾の目がキラキラと輝いている……彼が肉じゃがが好きなことを知っていて作ろうとしている、僕の邪な気持ちなど考えもせずに。
母さんが作る料理を食べている誠吾を見て、彼の好物はいつもチェックしているんだよ。
だからもう一品もすでに決めていた。
おもむろにキャベツの方へ進む僕を不思議そうに見ている可愛い弟。
「キャベツって肉じゃがに入れないよね?」
「ふふっ、そうだね。 さすがに入れないかな」
質問がすでに可愛い。
本当に何を作るのか分かっていない顔……全部顔に出るんだなぁ。
もう少し会話をしていたくて、すぐには教えてあげない。
でも僕がなかなか言わないから彼の方から聞いてきたので、今度は正直に教えてあげることにした。
「何に使うの?」
「コールスロー作ろうと思って」
「コールスロー……」
彼が大好きなおかず——彼の頬がどんどん赤く染まり、表情が明るくなっていく。
「いいね、コールスロー」
「誠吾、コールスロー好きだもんね」
「うん、好き」
か、かわよっっっ!!!!
素直か!!!
なに、この生き物は?!!
また口を尖らせて恥ずかしそうだけど好きな気持ちが駄々洩れで……!
僕が沢山飽きるほど作ってあげるよ!!
「ちょっ! 入れすぎだよ零時!!」
「だって誠吾が好きって!!」
「バカ零時! アホ兄貴!! 加減ってものを知らないの?!」
「もっと好きって言って、誠吾!!!」
「~~~っ! やっぱりお前なんてキライだっ!!」
「そんな~~~!」
僕の悲鳴は店内に響き渡り、お客さんみんなに笑われたけれど、そんなことはどうでも良かった。
誠吾が好きって言ってる。
その好きが僕に向けられたものだったらいいのに、と思わずにいられないけれど、ひとまず可愛いので僕の頭の中は僕が作ったコールスローを食べて顔を輝かせている誠吾の妄想でいっぱいだった。
◆◆◆◆
「後ろで結ぶのが難しい……」
一緒に住むようになって気づいたことが幾つかあるんだけど、その一つが「誠吾は口を尖らせることが多い」というものだ。
いじけた時、恥ずかしい時、今みたいに難しい局面に当たった時、考え事をしている時など……本当に多い。
またそれが可愛いのなんのって……その尖った唇を食んでキスをしたくなる。
でもそんな葛藤をしているなんて素振りは微塵も出さずに、いいお兄ちゃんの顔をする。
「ふふっ、だよね。 僕が結んであげるよ」
「……うん」
自分では到底無理だと察したのか、素直に僕に結んでもらおうとする誠吾。
腰、ほそっっ!
後ろから抱きしめてしまいたい……!
男子高校生はとにかく体力を消耗するのか、結んでいる最中に彼のお腹から盛大な音が鳴り響いた。
——ぐぅぅぅうう~~——
「あははっ! 凄い音~」
「零時のせいだから!」
「なんで?!」
これにはさすがに訳が分からず、なぜか僕のせいにされてしまった。
それでもこんなやり取りすらも愛おしく、ずっと続いてほしいと願ってしまうんだ。
この時は考えもしなかった……まさか誠吾の方からあの時の話をしてくるなんて。
そして思いもよらない言葉を伝えられるとは——。

