「ねぇ、これって誠吾が買ったの?」
布団を敷いている最中に話しかけられたので顔を上げると、零時の手にはプ〇野球チップスが。
買い物の時にこっそりカゴに入れた時は気付いてなかったみたいだけど。
「買い物袋に詰めている時に気付いたんだけど、聞くの忘れてて」
「やっぱり気付いてたか。 ひそかに入れてたんだ」
「好きなの?」
「うん。 父さんが野球好きでさ……一緒にテレビも見てたし、よく買い物の時に買ってくれて。 カード集めてたんだ」
家族で買い物とかめっきりしなくなって買わなくなったけど……懐かしくなってカゴに入れてしまった。
父さんが亡くなる前の記憶——。
本当は野球をさせたかったんだろうな。
俺はヒョロッとしていて色白で運動神経も良い方とは言い難かったから、あまり野球をやらないかって薦められたことはなかったけど。
一緒に野球を見るのは楽しかった。
カードも夢中で集めたし……でも父さんが亡くなってからはめっきり買わなくなった。
思い出すのも苦しいし、野球を見るのも辛くなっちゃって。
でも久しぶりにこのチップスを見ても悲しい気持ちではなく、懐かしさがこみ上げてきたのが嬉しかった。
「まぁ、もうカードを集める年でもないんだけどね」
「……じゃあコレ食べながらテレビみようよ!」
「布団の上で? 母さんが見たらめちゃくちゃ怒りそう」
「ふふっ。 親がいないからできる」
「ははっ。 でも汚したら母さんが怖いからテーブルの上に置こう」
本当にお泊り会みたいな雰囲気になり、お菓子を食べながらテレビに流れる野球中継を見て一緒に笑い、眠くなるまでお喋りをし続けた。
まさか零時とこんな風に楽しむ日がくるなんて……最初に顔合わせした時からは想像もつかない展開だ。
だんだんと眠気もやってきたので歯磨きを済ませ、布団に潜り込んで眠い目をこすりながらまたお喋りを続けた。
「こんな風に2人で喋ってるのが不思議な感覚……」
「誠吾が物凄く野球が好きなんだって、よく分かったけどね」
「うっ……好きなものは好きなんだから仕方ないでしょ!」
「うん、そうだね。 好きなものは好きだから、仕方ない。 僕が君を可愛がるのも仕方ない」
「それはまた別!」
相変わらず恥ずかしいことを自然と口にするから、心臓に悪い。
でも零時はなんでこんなに可愛がろうとするんだろう。
特に好かれるようなこともしてないし、小学校時代だってほんの少し会話をしたくらいで、顔合わせで再会するまでは全く接点もなかったわけで。
突然「弟として」の可愛がりが始まり、正直今も戸惑っている。
嬉しくもあり……どう反応すればいいか分からない。
すぐに「好き」って言うし、この人の本心が何なのか、どう解釈すればいいのか——。
悶々と考えながら零時の顔をチラリと窺うと、綺麗なまつ毛を伏せて視線を落とし、物憂げな表情をしている。
「ははっ。 ……でも、小学校時代にもう少し話せていたら、そんなことも知っていたかな」
それはどういう意味だろうと考えつつ、一瞬想像して、すぐにやめた。
「そんな事を想像する必要はないよ」
「そっか……」
「だって、どっちにしろ兄弟になっていたかもしれないし」
「どういうこと?」
父さんと母さんの出会いは仕事関係の取引先相手で一緒のプロジェクトをしている内に……だったみたいだけど、もし子供同士が知り合いで仲が良かったら、それこそ再婚も早まっていたかもしれない。
どっちにしろ二人が再婚する可能性が高くなるだけだから。
「遅かれ早かれ、俺たちは兄弟になっていたかもねって話」
「あの2人、ラブラブだもんね~~」
「そうそう。 よく俺たちに隠しながら付き合ってたよねってくらい」
「はははっ」
隣で楽しそうに笑う零時を見て、ホッとしている自分がいる。
前はヘラヘラしている彼を見ると腹立たしくなったりもしたのに、今は笑っていてほしいと思う。
憂いを帯びた表情も綺麗だったけど——。
「ふぁぁ…………れいじは……笑ってたほうが……」
「誠吾?」
だめだ、眠気が凄い。
さっきスマホは夜中の2時を表示していたのを思い出し、限界がきたのだと悟る。
瞼が自然と閉じてきて、目の前の存在が消えていく。
小学校時代から目で追っていた憧れの存在……今は俺の兄で、家族になっている未来はさすがに想像できなかったな。
深い眠りに落ちていく刹那に零時の「おやすみ」が聞こえたきがしたけど……再び目を開けることはできず、そのまま寝落ちてしまったのだった。

