「はぁ~~~いい湯だった!」
「湯冷めしちゃうから髪、ちゃんと拭かないと」
お風呂から上がった俺の髪がまだ濡れているのが気になるのか、母さんみたいなことを言ってくる零時。
兄を通り越して親みたいだ。
でも今はもう嫌じゃないし、嫌がる理由もない……昔の誤解も解けたし、零時に対して不安な気持ちがない。
「大丈夫だよ、このくらい」
「ダーメ」
「大丈夫だって」
「僕がイヤなの」
ブツブツ言いながら俺からバスタオルを奪い、丁寧に髪を拭いてくれる。
本当の兄みたいだ……なんかいいな、こういうの。
チラリと零時の顔を窺うと、髪を拭きながら微笑んでいてなぜかご機嫌に見える。
その笑顔は普段から見慣れているはずなのに、なぜか心臓の音が速くなった気がした。
きっと目の前の彼を直視出来ないのは、兄にお世話されているという気恥ずかしさからに違いないと思うことにした。
「はい。 綺麗に拭けたよ」
「……サンキュ」
「次はドライヤーしないと」
「え?! そこまでしなくても……!」
さすがに家族とは言えそこまでしてもらうのは申し訳ないし、そのくらいは自分で出来るから全力で断った。
それに自分の髪にそこまでのこだわりもないから、自然乾燥でもいい派だったので、ドライヤーを使う習慣がないのだ。
そんな俺に、零時がまた照れるような言葉を並べてくる。
「自然乾燥はダメだよ! 誠吾の髪はすっごく綺麗なんだから」
「なっ……え、いや……そんなこと、ないから……っ」
「そんなことある。 こんなに綺麗な髪を手入れしないなんて選択肢はありえない。 お兄ちゃんが毎日手入れしてあげるよ」
ニッコリ笑っているけど有無を言わさない圧も感じ、これ以上断りの言葉が出てこなくなる。
「お、お願い、します……」
「うん、任せて!」
こうして兄に髪を乾かしてもらう日々がスタートしてしまったのだった。
零時は物腰柔らかで人当たりも良くて柔軟なように見えるけど、物凄く頑固なところもあるんだよね……こうなったら絶対引かないから、諦めるしかないか。
零時がソファに座り、俺が床に座りながら後ろからドライヤーをしてもらうことに——。
最初は断ったけど、人にしてもらうって気持ちいいんだな。
なぜか後ろから鼻歌が聴こえてくるし。
零時は俺の世話をするのが好き、なのか……?
いつも甘やかしてくるし。
でも不思議とそれがイヤではない。
「よし、終わったよ。 サラサラ~~」
「ホントだ……こんなにサラサラになるんだ……」
ドライヤーが終わったあとの髪が、自分の髪じゃないくらい艶が出て綺麗なので、思わず簡単の声が出てしまう。
自然乾燥でも柔らかかったけど、その比じゃない。
「ふふっ。 僕は誠吾の髪がすっごく好きなんだ~」
「ふーん」
「いつまででも触っていられる」
自分で乾かしたとあって余計にご機嫌な零時は、俺の髪を手で撫でながらすっかり表情筋が緩んでいる。
俺の髪が好きだったのか……いつも好き好き言ってくるくせに……って何をガッカリしているんだ、俺は!
髪がってところが気に入らないのか?
それじゃあ、まるで——。
「誠吾? どうしたの?」
「い、いや! なんでもない……!」
「なんでもないって……顔赤いよ。 熱はない?」
「ちょっ……そんなんじゃないって!」
またしても距離感ゼロの兄は自然な手つきで俺の頬を両手で包み、おでこをくっつけてきて熱を測ってくる。
この人はどうしてこう、恥ずかしいことを自然としてくるんだ——。
「んー、熱はなさそう……でも本当に風邪引いたら怖いから、温かくして寝ないとね」
「わかった。 わかったから……」
「じゃあ、一緒に寝ようか!」
「どうして?!!」
「それが一番温かいでしょ」
「そんなわけ……っっ!!」
そんなわけない!!と言いたかったけど、それが一番温かそうで言葉に詰まってしまう。
くそ……どうにかして一緒に寝るのは回避しないと……!
でも俺の気持ちをよそに零時は言い事を思いついたような表情をして、悪魔のような笑顔で提案してくる。
「そうだ。 誰もいないんだしリビングにお布団敷いて一緒に寝ようよ!」
「な……なん……っ」
「絶対楽しいよ! そうしよう~~」
「俺に拒否権はないのか?!」
「そんなことないよ~~誠吾もお布団運ぶの手伝って」
「やっぱりないじゃん!」
もうヤダ……まったく聞く耳持ってくれない……。
この人に振り回されるのは慣れてきたとは言え、突如突拍子もないことを言い始めるし、こんな兄はやっぱり嫌だ!!
そう思いつつ、つい許しちゃう自分がいて、嫌いになれないからタチが悪い——。
結局2人で和室から布団を運び、なぜかお泊り会のようにリビングに布団を並べて寝ることが決まったのだった。

