テーブルの上に自分たちが作ったものが並んでいる。
ただそれだけなのに、いつものテーブルが素晴らしく輝いて見えるとは。
「すご……品数はいつもより少ないはずなのに、やたら豪華に見える」
「やっぱり自分で作ると、感慨深いものだね~」
「早く食べよ! お腹空いた~~」
2人でリビングのテーブルに座り、向かい合う。
そして手を合わせ「いただきます」を同時に口にして食べ始めた。
お腹が空いていたのもあって、めちゃくちゃ美味しく感じるのは気のせいではないと思う。
母さんに肉じゃが作ってもらった時だってあるし、好物だから美味しいに決まってるんだけど、それにしても——。
「美味すぎっ!」
「ね。 美味しいね~」
黙々と食べ進めて気付いたら皿の中身は全て空になってした。
でも全然足りない……!
米もおかずも全部おかわりしようと立ち上がる前に、零時がいつものように俺の食器を持って行ってしまう。
「まだまだ食べるでしょ?」
「うん。 俺、自分で出来るけど」
「だめ。 僕がやりたいから」
はっきりキッパリ断られてしまい、もはや俺に何も言うなと言わんばかりだった。
いや、でも兄におかわりをよそってもらう男子高校生って……なんだか恥ずかしいやら照れるやらでむず痒い。
よそってくれた皿や茶わんを受け取りながら、前々から確認したかった事を聞いてみる。
「零時って……俺のこと、甘やかしすぎじゃない?」
「そう?」
「だって、普通、兄弟でここまでしないから。 度々甘やかされてるなーって感じるというか」
「僕がやりたいからやってるだけだよ」
「でもさ……」
何となく今話した方がいい気がして、思い切って話題を切り出してみる事にした。
でも言葉にしようとしてもなかなか出てこない。
自分では分かってるんだ……再婚して兄弟になってから、先輩と良好な関係を築く事ができているけど、この話題を出すことによってそれが崩れてしまうかもしれない。
それを考えると、どうしても言葉が出てこなくなる。
「誠吾?」
押し黙った俺の様子が変だと思ったのか、零時がこちらを窺ってくる。
前に進むためにもこの話をしなくちゃ。
「小学校の時は俺のこと、避けてたでしょ」
「それは……っ!」
やっぱり覚えていたよね……零時は俺の言葉に一瞬目を見開き、すぐにテーブルへ視線を落とす。
彼の表情を見て、あの時のことは零時の中で何か暗い影を落としている出来事なのかもしれない。
そんな表情をだった。
でもそれでも親の為に知らないフリをして、仲の良い兄弟になろうと努力していたのも知っている。
「違うんだ、責めてるわけじゃない。 ただ何でなのかなって……知りたかっただけで」
「…………誠吾は優しいね。 あんな風に君を傷つけた僕のことを気遣ってくれるなんて」
「な……そんなんじゃ……っ!」
俺が反論しようとしても、目の前の兄はニコニコして嬉しそうだ。
まただ……この人は絶対に俺を悪く言わない。
だから、信じたくなるんだ。
あの時も何か事情があったんじゃないかって。
「ただ、理由もなしにそういうことする人間には見えないっていうか……」
「誠吾~~~大好き!! ありがとう!」
「だから! そういうのはいーって!!」
相変わらず暑苦しくて俺の両手を握りながら、涙ながらに感謝を伝えてくる。
好き好き言い過ぎなんだよね……!
家族愛だろうけど——。
「ちゃんと話すよ。 あの時の状況も僕の気持ちも」
「うん」
めずらしく真剣な表情をした零時は、一つ一つ丁寧にあの時のことを話していった。
思ったことを口に出したら、周りがヒートアップし始めたこと。
自分の言葉であそこまで俺が揶揄われ始めるとは思わず、謝ろうと声をかけようとすると周りの人間が俺にちょっかいを出すので、どうしたらいいか分からなくなったこと。
そこで俺と距離を置いてみると「からかい」がなくなっていったので、謝りたかったけど近くにいない方がいいと判断したこと——。
そうこうしている内に小学校を卒業し、引っ越した為に気まずいまま離れてしまったらしい。
そこまで聞いて、俺の中でくすぶっていたものがすっかり無くなり、怒りや落胆よりも喜びの気持ちでいっぱいになっていく。
あの時は全然目も合わなくなったし、よほど俺の存在が鬱陶しく嫌なんだなと思っていたから……そうじゃなかったのが素直に嬉しい。
でも零時はそうは思っておらず、ひたすら懺悔をし続けていた。
「ずっと君に謝りたかった。 僕の無神経な言葉で傷つけて、僕のせいで上級生に揶揄われて……それなのに僕自身にはそれを止める力もなくて」
「……確かに腹立たしかったな」
「ごめん」
「俺のためを思ってなのは分かったけど、避けないでほしかった。 そりゃからかってくる奴らに対しては腹立ってたけど、あんたは何も悪いことしてないんだから」
「…………え?」
「まぁ実際女の子に見られることも多かったし」
「でも男の子なのに、可愛かったって言っちゃったし……すごく嫌だっただろうなって」
「そこはあんまり嫌じゃなかったよ。 だって褒めてたんでしょ?」
あの時の零時の言葉に嫌悪感を抱いたことはない。
彼の正直な気持ちだと感じていたからかもしれない……俺をバカにしたり揶揄っている感じはなかったから。
真っすぐに零時の目を見て、俺の正直な気持ちを伝えた。
「けっこう嬉しかったんだよ」
「誠吾…………」
零時の切れ長の綺麗な目から、涙が一粒零れ落ちる。
やがてそれは堰を切ったように次々と溢れては零れ、涙が頬を濡らしていった。
顔立ちも綺麗だけど、涙まで綺麗なんだな——。
「ごめん……っ、ごめんね、誠吾……っ!」
「うん」
「ありがとう……」
「うん」
涙でぐちゃぐちゃの顔をしながらも笑う零時は、今まで見た中で一番いい表情をしているように見えた。
「はい、ティッシュ」
「あじがどう~~~」
「ははっ。 イケメンが台無しだよ」
「だって~~誠吾が泣かせるからっ」
「俺のせいか!」
イケメンってところは否定しないのな。
ツッコミどころ満載だけど、胸に深く刺さっていた棘は、綺麗に消えたのかとてもスッキリしている自分がいる。
今日話せたのはとても大きかったのかもしれない。
零時の涙が止まるのを待って、よそってくれたおかわりのご飯を頬張る。
二人で作ったご飯だと思うと余計に美味しく感じて——。
これからは兄弟として仲良くやっていけばいいんだ。
そう思える事がこんなに嬉しいんだと思っていた。
この時は。
まさかこの気持ちが、零時の存在が、俺の中で違う形に変わっていくなんて……この時は思ってもいなかったんだ。

