もう日が暮れかけていたので、自室で部屋着に着替えて居間に下りていくと、すでに着替え終わった零時が食材をキッチンに運んだりしていた。
そんなところも手際がいい。
カッコいいな……ふとそんな思いが湧きあがってきて、ハッとする。
自分が小学校時代に戻ったかのようだ。
純粋に零時に憧れていた時に——。
「誠吾、これがエプロンね」
「え?! あ、ありがと!」
突如話しかけられたので声が上ずってしまう。
恥ずかしい~~……見惚れていたなんて言えない。
とにかく料理に集中しないとと気持ちを切り替えて、エプロンを着ようと試みる。
でも、着慣れないのでもたつく俺を心配したのか、零時がやってきて手伝ってくれたのだった。
「後ろで結ぶのが難しい……」
「ふふっ、だよね。 僕が結んであげるよ」
「……うん」
きゅっと結ぶたびに心臓がうるさくなる。
真にやってもらってもこんなに緊張はしないだろうと思うし、他の人でも大丈夫だと思うのに、なんで零時だと緊張するんだ……?
零時の手が触れるたびに体がガチガチに固まっていく。
早く終わってくれ、と祈るような気持ちでいると、
「はい、できたよ!」
という声が聞こえてきたので、ようやく肩の力が抜けたのだった。
「サンキュ」
お礼を伝えた瞬間、ぐぅぅぅ~~と盛大に俺のお腹の音が鳴り響いた。
なんでこんな時に……!!
「あははっ! 凄い音~」
「零時のせいだから!」
「なんで?!」
「いいから料理始めるぞ!」
「どういうこと~~?!」
そうだ、何はともあれ料理だ。
零時は俺の言葉に混乱しながらも、一緒にキッチンに入るとご機嫌にあれこれと教えてくれて、料理モードに切り替わっていった。
「まずは材料を切っていかないとね。 じゃが芋と人参の皮むきを頼もうかな」
「分かった。 これを使うのか?」
すでに用意されていたピューラーってヤツを見せると、零時が笑顔で頷く。
よく見るとキッチンも俺がやりやすいように調理器具が配置されていて、目の前にはすでにボウルも用意されている。
何でもそつなくこなすんだな……先輩に対しては凄いところしか見当たらない。
「じゃあお願いね」
無言で頷き、さっそく皮をむき始めた。
足手まといにはないたくない。
零時が隣りで色々とやってる内に終わらせるんだ……2人分なので人参一本とじゃが芋一袋分、丁寧にピューラーを動かしていく。
危うく自分の指の皮をむいてしまいそうになりながらも、
危なっかしい手つきなのか、チラチラと隣りから視線を感じる時もあるけど、気付かないフリをして手を動かした。
そして何とかむき終わり、ボウルに入れて零時の前に差し出す。
「終わったよ。 どう? 初めてにしてはちゃんと出来てるでしょ」
「そ、そうだね。 ありがとう、誠吾。 助かったよ」
何となく先輩は苦笑いをしているように見えたけど、助かったと言われて役に立てたような嬉しい気持ちになる。
「じゃあ、次は何をすればいい?」
得意になった俺は、もっと手伝いたくなってその先の作業について聞くと、今度はいよいよ包丁を差し出されたのだった。
「包丁の持ち方は知ってる?」
「家庭科で習った程度なら……利き手じゃない方の手は猫の手、でしょ?」
「うん。 全部乱切りにしてもらおうかと思うんだけど……」
「乱切り……」
包丁の握り方は分かっても切り方までは分からないので、結局ここでも零時に一から教えてもらうことになる。
でも全然嫌がる素振りを見せないし、お手本を見せてくれたりして、分かりやすく教えてくれる姿に喜んでしまう自分がいた。
正直これなら自分で作った方が早いだろうな。
でもせっかく教えてくれてるんだから、それを無駄にしてはダメだ……そう思いながら、教えてもらった通りに包丁で乱切りしていった。
人参は細いし切りやすくてあっという間に終わる……でもじゃが芋が一個一個形が違うし包丁を入れにくい。
縦に包丁を入れようとした瞬間。
「っ! いたっ」
猫の手をしていたはずなのに人差し指に少し包丁が触れ、じんわり血が滲んできてしまう。
「やってしまった……」
「誠吾! 大丈夫?!」
「ごめ……ちょっと切れただけだから」
「血が!」
大げさに騒ぐ零時に落ち着けと言ったけど、血が出ている俺の手を引き寄せた先輩は、突如血の滲んでいる箇所を自分の口に含んだのだった。

