中間テストが無事に終わると、いよいよ母さんたちが新婚旅行に行く日がやってきた。
圭吾の小学校をあまり休まなくていいように、金、土、日の二泊三日で行ってくるらしい。
俺と零時も金曜日が終われば学校はないし、家にこもっていれば問題ない。
母さんは張り切って旅行準備を済ませ、圭吾は旅行に行けると聞き、ワクワクが止まらない感じだ。
でも数日前に俺たちは行かないと聞くと涙ながらにゴネて大変だった……あの時も零時が、
『俺たちの分まで楽しんでおいで。 帰ってきたら沢山お話し聞かせてほしいな~~』
なんて言うから圭吾もすぐに涙が引っ込んでたんだよね。
本当に零時が大好きなんだよな~~圭吾は。
兄は少し寂しい……でも圭吾の笑顔を引き出してくれて、感謝の気持ちもある。
零時は凄いな——。
俺も母さんたちが旅行中、しっかりしないと。
「それじゃあ、誠吾、零時。 行ってきます」
「兄ちゃんたち、行ってきまーす!」
「何かあればすぐに連絡をするんだぞ」
「「行ってらっしゃい!」」
俺と零時は同時に言葉を発し、家族が出発したのを見送ってから学校へと向かった。
「母さんから食費預かってるから、帰りに買い物して帰ろ~」
「晩御飯買って帰らないとだもんね」
「それもそうなんだけど……せっかくだし、一緒に料理しようよ」
「え?! でも俺、包丁握ったことないし……!」
「それは僕が教えるよ。 父さんと二人暮らしだったから僕も料理担当していたんだ」
「……そっか」
初めて聞いた気がする……零時の昔の話。
小さい頃から父さんと2人暮らしだったのは母さんから聞いていたけど、料理も担当していたなんて初耳だ。
俺のところは片親と言っても母親だったから……それに甘えて料理を手伝ったこともなくて。
なんだか自分が情けなく思えてくる。
「零時はすごいな……」
「え? なんて言ったの?」
「いや、俺も料理できるようになりたいなって言っただけ」
思っていた事がポツリと言葉として出てしまって焦ったけど、なんとか誤魔化す。
誰かにやってもらいのが当たり前じゃない。
事故で亡くなった父さんみたいに、人はいついなくなるか分からないから——。
俺も色々とできるようになりたい。
「じゃあ帰りに買い出し決定だね! 楽しみだな~~」
「楽しんでる場合じゃないかもよ。 俺が全く手伝いにならないかもしれないし……」
自分で言っていて情けないと思いつつも、大いにあり得る未来なので、一応忠告しておいた。
なにせ家庭科の授業以外でほぼ包丁を握ったことのない俺だ……絶対足手まといになるに違いない。
そう思うのに。
零時は全く意に介していない様子で、ひたすら笑っている。
「ふふっ、全然構わないよ。 なんなら見ているだけでもいいし」
「そ、それじゃ、出来るようにならないでしょ!」
「真面目だもんね、誠吾は」
「…………っ」
何を言っても肯定されるし、楽しそうだし、恥ずかしい言葉ばかり返ってくるので言葉に詰まってしまう。
零時は絶対に俺を否定しない。
貶めるようなことも言わない。
兄弟として再会してからずっと——。
昔の記憶から、彼を信用したくないと思うのに、耳当たりの良い言葉ばかり言われるので随分信用してしまっている自分に気付く。
あんなに大嫌いだったのに。
今は……?
考えている最中に学校の玄関口で、予鈴が聞こえてきたのだった。
しまった、今日は母さんたちを見送ったりしたから家を出る時間が遅くなったんだ。
「じゃあね!」
「また放課後ね、誠吾!」
お互いに急いで上靴に履き替えて、階段を駆けのぼっていく。
今の俺が零時をどう思っているかなんて考えてどうする……!
自分の思考を振り切るように駆けていき、何とか教室に辿り着いた時にはまだ担任は来ていなくて、なんとか遅刻を免れたのだった。

