最悪なブラザー。~大嫌いだった先輩が、ひとつ屋根の下で兄弟になりました~


 「この並べ替え問題全然分からない」


 英語のワークの並べ替え問題に手こずり、先に進めないので真に助けを求めた。

 さっき文法を学んだばかりなのに、いざ並べ替えろと言われると混乱してしまう。

 真は快く教えようとしてくれたけど、すぐに零時が割り込んできて、零時の解説が始まりそうになる。


 「それはね……」

 「ストップ! 俺は真に聞いてるから」

 「僕の方が分かりやすく教えられるよ」

 「今日はこの為に真に来てもらったんだから、少し黙って」

 「そんな~~」


 これで零時に解説してもらったら、わざわざお願いして来てもらったのに、真が我が家に来た意味がなくなってしまう。

 そんなの凄い失礼だ……絶対英語だけは真に聞くんだ。

 そう思っていたけど、あまりにシュンとするので真が気を遣って数学を聞き始めた。


 「じゃあ英語終わったら数学お願いしゃす」

 「OK~~」


 真は本当にいいヤツなんだよな……嫌味もなく、さり気なく先輩を立てるところが凄い。

 英語の問題を解説してくれている時に小声で、

 (真、サンキュ)

 って耳打ちすると、少し笑って頷いてくれた。

 いいヤツすぎる……!

 そして勉強会は順調に進み、俺と真は零時から数学を教えてもらうことにした。


 「どれから教えようか……まずは因数分解?」

 「ッス」

 「うん」


 真が分からない部分を俺も聞いておけばテスト対策になるし、一緒になって聞いておこうと零時の解説に耳を傾ける。

 普段はすぐにふざけて気持ち悪いことばかり言ってるけど、解説にも頭の良さがにじみ出ていて、全然阿保じゃないのが分かる。

 なんでいつもふざけるんだろう……小学校時代はイメージのままだったのに、今は何もかもが全く正反対だ。

 アホっぽく見せているし、軽い言葉もポンポン出て来る。

 何が本音か分からない——。

 人間関係どうでも良さそうなのに、真にも真剣に教えているし……どの零時が本物なんだろう。

 自分の見ているコイツを信じたい自分もいるけど、そう思う度に小学校時代が頭をチラついてしまう。

 俺はどうしたいんだ——。

 なんとなく真と零時が距離が近いのも……いや、零時はいつも距離感バグっているけども。

 やっぱり誰にでもそうなのか?

 取り巻きたちとも距離が近い零時を想像すると、なぜか胃のあたりが痛んだ気がした。

 数学もだけど自分の考えてることがわけ分からない……!

 まだ二人は数学をやっている最中だけど、突如机に突っ伏して不貞寝することにした。


 「誠吾?!」

 「……力尽きたか」

 「ぐぅ……」


 苦し紛れに寝たフリをしてみた。

 絶対バレてそうだけど。


 「疲れたのかなぁ」

 「じゃあ少し休憩で。 トイレ借ります」

 「うん、いいよ」


 意外にもバレずに済んでる?

 零時は真にトイレの場所を教え、部屋に戻って俺の隣りに座ってきた。

 なんで隣り?!

 なぜか心臓の音が激しくなり、物凄くイケナイことをしている気がしてくる。

 こうなったら起きるタイミングが分からなくて、変な汗が出てきた——寝たフリなんてしなきゃよかった……!

 悶々とする俺をよそに、隣りに座った零時が俺の髪を触り始めたのだった。


 「ふふっ。 柔らかい」


 ひえっっっ。

 今、何が起きてるんだろう……何で零時が俺の髪を撫でたり指でクルクル巻いたりして、弄ってるの?

 そしてその手は頬を撫で始め、ビクッと反応しなかった自分を褒めてやりたい。


 「すべすべ~」
 

 汗が……汗が出てくるから、触らないで……なんで……そんな風に触るの?
 
 まるで————次の瞬間。

 頭部に柔らかい感触がしたかと思うと、 「ちゅっ」という乾いた音が室内に響いた。

 今、なにが……思考がまとまらずに心臓の音だけがやたら大きくなっていく。

 そこへ下から母さんの声が聞こえてきた。


 『お茶とお菓子、用意してあるわよ~~!』

 
 零時はすぐに立ち上がり、「はーい」と返事しながら階段を下りていったのだった。

 …………助かった、のか?

 ガバッと顔を上げると、まだ誰もいない。

 よかった————それにしても。


 「さっきの……なんなんだよ…………」


 頬を撫でる手つき……まるで愛おしむように優しい手だった。

 それよりも!

 頭部への感触……!

 バカな俺でも分かる……あれは……あれは…………頭にキスしていった?!!


 「なんなんだよ……バカ零時…………」


 どういうつもりで……でも寝たフリしてたから気付いているなんて言えない。

 確かめることもできない。

 いや、確かめてどうする……答えを聞きいたところで、どうすればいいかも分からないのに。

 とにかく何も聞かなかった感じなかった、何も知らないフリをしないと!

 でも…………ぐあぁぁぁぁああ!!!!

 一人自室で頭を抱えて悶絶していると、階下から足音が2人分聞こえてきたのだった。

 トイレに行ってた真も一緒に戻って来てるな。

 今起きたフリをしないと——!

 ——ガチャッ——

 「あれ、誠吾起きてた~~」

 「母さんの呼ぶ声で起きた」

 「誠吾の顔真っ赤だけど……どんだけ深く寝落ちてたんだよ」

 「え?! いや、頭使うと疲れちゃってさ……ははっ」

 「ふーん……」


 真が訝しんでる……!

 勘が鋭いヤツだから……でもここは押し通すしかない!

 今は何も聞かずに話に乗ってくれ!!

 俺も今は思い出したくないんだ!

 祈るような気持ちでいると、

 「そっか。 問題難しかったしな」

 と言って納得してくれたのだった。
 
 
 「そうそう! 難しかったから!」

 「じゃあ、母さんが用意してくれたお菓子食べて糖分補給しよう~」


 零時が飲み物とお菓子を下から持ってきたので、いったんワーク類を片付けて休憩することにした。

 でも一度休んでしまうと再開する気になれず……そのまま3人でお喋りした後、真が帰ったのでお開きになったのだった。