中学校に入っても日常にあまり変わりはなかった。
ただ一つ、彼の姿を見られなくなったことだけ。
黙っていても人は寄ってくるし、その人たちと何気ない会話をして時間が溶けていく毎日……虚しさだけが募っていく。
ふとした瞬間に、頭を過る。
僕の選択はあれで良かったのか?と。
もっとやりようがあったのでは……僕が近付くと迷惑がかかるという思考で頭がいっぱいで、彼を避けてばかりいたけれど。
ちゃんと自分の正直な気持ちを伝えていれば、違う未来があったのでは——。
そんな事を考えながら、今更考えたとて、もう会えないのにと自嘲する日々。
月日は流れ、中学三年の夏、夕食時に突如父さんから交際している女性がいるという話をされたのだった。
「今まで黙っていてすまなかった。 その人とは結婚を前提にお付き合いしているんだ」
「へぇ……そんなお相手がいたんだね」
浮気されて離婚したのに、また相手を作っていたことに驚きを隠せなかった。
それに交際していたことに全く気付いていなかったので、その事にも驚いてしまう。
正直僕は、母の印象が最悪なので女性に対して苦手意識がある。
恋は盲目、か……僕もあの子なら何も気にならずに付き合えたのだろうか。
「結婚を前提にってことは真剣に付き合ってるってことなんでしょ。 今度会わせてよ」
「ああ。 ありがとう、零時。 そう言ってくれて嬉しいよ」
「水くさい事言わないでよ。 父さんには感謝してるんだから」
これは本当だ。
母が出て行ってから、父さんは仕事と子育てに孤軍奮闘しているのを見て来た。
僕に寂しい想いをさせないように頑張っていたのも知ってる。
そんな父さんを陰ながら支えてくれていた人なんだろう。
それに交際しているのに僕に許可もなく家に連れて来たりもしていないし、2人とも凄く僕に気を遣ってくれていたんだなと思う。
もう来年は高校生になるし、父さんにも幸せになってもらいたい。
そう思って連れて来てって言ったんだけど……父さんの顔は微妙な表情だった。
「すぐに会わせたいのはやまやまなんだが……相手にもお子さんがいて、すぐってわけにはいかないと思うんだ」
「そうなの? 1人?」
「いや、男の子が2人……上の子は零時の一個下だよ」
「へぇ。 余計に会ってみたいけど」
一個下と聞くと、また彼を思い出してしまう。
いい加減忘れないといけないのに……でもその子たちと仲良くなれたらいいな。
女の子じゃなかったからホッとしている部分もある。
その時はそんな程度に考えていた。
そしてその話を聞いてから1年後、我が家にそのお相手がやってきて、名前を聞いて驚愕する。
「こんにちは、零時くん。 戸柱京子です、よろしくね」
「よろしく、お願いします……」
戸柱?
確かあの子の名前も戸柱だったよな……息子が一個下って……まさか——。
僕は逸る気持ちを抑えながら、京子さんに息子2人について聞いてみることにした。
「あの、息子さん2人いらっしゃるんですよね?」
「そうなの! 上が零時くんの一個下で、下はまだ小学2年生なんだけど……」
「もしかして上の子の名前って、誠吾じゃありませんか?」
「え……もしかして知り合い?! 純一さんから零時くんの話を聞いた時、子供たち同じ小学校だったかもねって話してはいたのだけど……」
「は、はい……学校で少し話したことがあって……」
僕の言葉に京子さんは歓喜しながら父さんに話している。
まさか……本当に……?
彼のお母さん?
ちょっと待って。
父さんは結婚を前提にお付き合いをしているって話していた。
まさか2人が結婚したら僕は……あの子と兄弟になるのか?!
そして一緒に住むことになる、よね……?
もうその事実だけで倒れそうなほどの衝撃で、その後京子さんや父さんと何を話したのかも記憶にないくらい混乱してしまうのだった。
ひとまず「僕のことは話さないでください。 再会した時に驚かせたいので」と伝えて何とか誤魔化した。
でも……兄弟か————。
また会いたいと思ってはいたけれど、兄弟になったらこの想いは……。
今更父さんの交際を反対することも出来ない。
仕方ない。
こうなったら開き直って、今まで後悔してきたことを全部ぶつけてみてもいいかもしれないと思うようになる。
「顔合わせとかはしないの?」
初めて京子さんに会ってから数カ月経ち、僕は父さんに再婚を進めるように言葉をかけた。
本人たちは子供に気を遣っているのか、なかなか結婚に踏み出せずにいるように感じたから。
案の定僕の言葉に父さんは頬を赤くし、嬉しそうな表情をする。
「いいのか?」
「いいも何も、反対する理由がないよ」
「そうか……じゃあ話してみるよ」
「プロポーズ頑張って」
親の恋バナっていうのも複雑なものだけど、そんなに喜んでもらえると声をかけて良かったなと思う。
僕もようやく気持ちが固まってきたので、近頃は早く会いたい気持ちが強くて……翌年、高校二年の春に顔合わせが決まった時は、父さんと一緒に喜んだのだった。

