最悪なブラザー。~大嫌いだった先輩が、ひとつ屋根の下で兄弟になりました~


 戸柱誠吾、16歳。

 高校一年生の春。

 俺は今、人生最大の危機に瀕している——。

 
 天井には綺麗なシャンデリア。

 目の前のテーブルの上には豪華なコース料理が並び、中央に飾られた花は祝いの席を彩ってくれている。

 今日は女手一つで育ててくれた母さんと、かねてから交際していたお相手、田辺純一さんとその息子さんとの顔合わせの日だった。

 母さんと田辺さんはすでに婚約していて、両家の子供たちも結婚に賛成していた。

 だから顔合わせでもして、そろそろ再婚に向けて話を進めていこうという事で、この顔合わせの席が実現したのだ。

 もう母親の再婚相手に嫉妬する年齢でもないし、小学校三年生の弟も新しいお父さんができるのを喜んでいる。

 全く問題ない。

 では何が問題かというと————


 「いや~~~まさか息子同士が知り合いだったなんてな!」

 「本当に! 小学校が同じだとは思っていたけど、こんな事もあるのね!」


 母さんの交際相手である田辺さんは嬉しそうに笑い、母さんも物凄く楽しそうにしている。


 「兄ちゃん、知り合いなら言ってよ~」


 隣に座っている弟の圭吾は、自分だけ知らないのが気に入らないのか、頬を膨らませてブーイングだ。

 そんな表情も可愛い。

 いや、そうではなく。

 俺だって知っていたら話していたさ。

 そしてこの場に来る事はなかったよ。

 まさか……まさか…………。


 「おいおい。 僕と再会できたのがそんなに嬉しいの?」


 とある因縁があって小学校の時から大嫌いだった陽キャ先輩が、母さんの交際相手の息子だなんて……!!!

 嬉しいわけないでしょ!って今すぐ叫んでこの場から去りたい——。

 でもこのお祝いの席を汚すようなこと、俺にできるはずもなく。

 母さんはおよそ8年くらい前に父さんを事故で亡くしてから、俺たち兄弟二人を必死に育ててくれた。

 俺も圭吾も大きくなったし、母さんをずっと支えてくれていた田辺さんとようやく結婚する運びとなったんだ。

 俺がこの場をぶち壊してどうする……耐えるんだ、俺。

 耐えろ——。


 「ねぇ、ねぇ。 僕たち兄弟だね。 嬉しい? 嬉しいよね?」


 耐えろ、俺……!!!!

 同じ小学校で一個上の先輩は、明らかに俺をからかうように話しかけてくる。

 小学校の時と変わらない艶のあるマッシュルームカットの黒髪に綺麗な鼻筋、唇は程よい厚さと少し上がった口角。

 切れ長の目に長いまつ毛、肌はきめ細かいし小顔だし、なぜ芸能事務所から声がかからないのか?!っていうほどの顔面偏差値……田辺さんも同じ顔系統だからモテただろうな。

 でも田辺さんと違うのは先輩はそれを自覚しているのか、上目遣いを使ってくる。

 なんて悪質極まりない……!

 目の前のグラスを握り締めて粉々にしてしまいそうなくらいの苛立ちだったけど、なんとか耐えた。


 「れいじ兄ちゃん。 ぼくは兄弟、うれしいよ!」

 「そうか~~圭吾は優しいな!」

 「へへっ」


 もう呼び捨て?!

 圭吾は先輩の笑顔にすっかり懐いてしまっている。

 騙されるな……!

 先輩は甘いマスクで人を誑し込む天才なんだから!
 
 
 「ふふっ。 仲良くなれそうね」


 もう母さんまで味方に付けてるなんてっ!!

 俺は……俺だけは認めない……!

 そう思っていたのに。


 「誠吾くん、こんな息子だが零時と仲良くしてくれると嬉しい」


 田辺さんがほんの少し申し訳なさそうな表情で、先輩のことをお願いしてくる。
 

 「はい、もちろんです!!」

 「良かった!」


 うっかり思いきり笑顔で答えてしまった。

 田辺さんに頼まれてはNOとは言えない……母さんが悲しむから。

 なんで俺ばっかりアタフタしなくてはならないんだろう。
 
 そう思い、恨めしさを込めてチラリと先輩の様子を窺うと、コース料理を美味しそうに頬張り、とてもご機嫌に見える。

 くそっ……気にしてるのは俺だけ?!

 いつもは顔を隠すためにマスクが必須だけど、今日は個室だし顔合わせということでマスクもしていない。

 俺は昔から色素の薄い長めの髪、唇の血色が物凄くいいのかリップを塗ったようなピンクの唇をしていて、よく女の子に間違われてしまう。

 それが嫌で、普段からマスクは欠かせない。

 今は背も170cmはあるし、間違われることも少ないけど。

 トラウマになったのも目の前の先輩のせいだと言うのに……当の本人は全く気にする素振りもなく、むしゃむしゃと楽しく食事している。

 許せない……でもこの場でそんなこと話せない。

 心の中で悶々とする俺に、先輩が笑顔で話しかけてくる。


 「ほら、誠吾も食べよう。 めちゃくちゃ美味しいから!」


 後光が見える気がする……なんという笑顔——。

 この陽キャを詰め込んだような先輩は昔から綺麗で、老若男女にモテて仕方ない人間だった。

 危うく自分もその仲間入りするところだったのは黒歴史以外の何物でもないから、思い出したくもないけど。

 騙されるな。
 

 「はい、誠吾。 あーん」


 騙されるな……!!


 「自分で食べますから」

 「ちぇっ」
 

 イケメンは「ちぇっ」をしてもイケメンだなんて、世の中不公平だ。

 なんだよ、ちぇって……どうせ誰にでもあーんしてるんだろう。

 隣にいる弟の圭吾に視線を移すと、可愛いくて大きな目を輝かせながら頬を膨らませて食べている。

 可愛いがすぎる。

 ハムスターみたいだな。

 母さんも田辺さんも幸せそう……。

 なんだかこの場で自分だけが浮いている気がして、砂のように消えてしまいたい気持ちを抱えながらなんとか料理を食べ切り、波乱の顔合わせは無事に(?)終了したのだった。