仙台での全ての仕事を終え、千尋は再び仙台駅へと戻る。
会社へのお土産には仙台名物の萩の月を購入した。
定番中の定番だが、それは誰もが好む安定の味ということである。
元々、やんわりとリクエストされていたので悩まずに決められた。
お土産にはセンスが出るため、千尋としては毎回時間をかけてしまうのだ。
というのは建前で、単に自分が食べたいからで熟考し、リサーチもしているのは内緒だ。
「あとはどら焼き! 予約していてよかったー!」
アーケード街の裏道にある人気のどら焼き屋は丸ではなく、四角に近い厚みのある形をしている。
季節ごとに変わる味もクリームチーズや抹茶と楽しめる。
売り切れてしまう可能性があり、予約をしておいたが正解だったようで15時になった店内に残るどら焼きもあとわずかであった。
生ものは買い過ぎない――そんな決め事をしている千尋はどら焼きを4個購入した。
仙台~東京間は新幹線はやぶさなら、早くて1時間30分、保冷剤を入れて貰い、2時間ほどは冷たさが保たれるだろう。
会社、そして自分へのお土産に満足した千尋は改札口へと向かうのだった。
新幹線の席に座った千尋の手にはドリンクがある。
改札口に向かう途中に目にしたのはずんだシェイクの店だ。
仙台に来ていながら、まだ名物のずんだを楽しんでいないことに気付いたのだ。
枝豆をすり潰したずんだは仙台名物の一つである。
そんなずんだシェイクを楽しむ人は新幹線の車内でもよく見かけるが、千尋が手にしているのは一番大きいサイズだ。
量だけではなく、上にホイップクリームまで乗ったスペシャルver.なのだ。
「えっと、あったあった」
小さく呟いて千尋がバッグから取り出したのは、田丸書店で購入した文庫本。それも笠倉さんの推し本である。
自分の推し本を購入すると告げられた笠倉さんは恥ずかしそうだったが、その本の良さを熱心に話してくれた。
ついつい、結末まで話してしまうのではないかと千尋はひやひやして耳を傾けた。
紹介してくれた文庫本の表紙を千尋は撫でる。
描かれたイラストも柔らかく優しい――本の内容を一目で伝えるのがイラストとデザインなのだ。
(やっぱり、本が好きだな。都内でよく知っている店舗はもちろん、地方の書店の雰囲気や空気にも刺激を貰える)
書店はもちろん、書店員の熱量に千尋自身が背中を押して貰える――出張には毎回、そんな刺激があるのだ。
「あ、溶けちゃう」
カップに水滴がつき始めたずんだシェイクに千尋は口をつける。
ずんだの粒々感に、ミルキーなシェイクの味が一体となって美味しい。
シェイクのカップにポケットから取り出したハンカチを巻きつけ、千尋は読書を始める。
仙台~東京間、はやぶさ1時間30分。
千尋は本の世界に没頭するのだった。



