入浴後、身支度を整えた千尋は一旦部屋に戻ってから昨日、ハンガーにかけておいたブラウスとパンツに身を包む。
ここのホテルは朝食会場も館内着でいいのだが、仕事として訪れているため、公私の切り分けとして千尋としては着替えておきたい。
千尋が館内着だろうとスーツだろうと、誰も気にしはしないのだが、自分の中で仕事モードに切り替えたいのだ。
乾かしておいた髪をブラシで梳かし、きっちりと結わえる。
これは仕事モードが理由ではない。
今から朝食ビュッフェ、気合を入れたいためである。
(よし、行こうではないではないか……。だが、他にも杜の都仙台で食べたいものはある。朝食は軽めにしておこう)
そんな千尋の決意は当然のように崩れることになる。
「食べた……。食べてしまった……」
白い皿にちょこちょこと盛ってしまった千尋は若干の後悔とともにコーヒーを飲む。
もちろん、全て完食した。ビュッフェのマナーで絶対的に千尋の中にあるものだ。
周囲に視線を向ければ、同じように出張組とみられる紳士たちだ。
早くも仕事に行くのか、足早に朝食会場を後にする。
リラックスしているのは観光客であろう。家族連れやカップルとみられる人達は、ビュッフェのメニューにわいわいと楽しげだ。
全国チェーンのこのホテルは地方限定メニューがある。
今回は笹かまぼこがあった。何気なく牛乳やヨーグルトがご当地のものだったりと心遣いが沁みる。
よって、千尋は食べ過ぎたわけである。
(いや、朝からお腹が重いのは少し気を抜き過ぎでは? 仕事、今私は出張中なのだから……!)
誰も見てはいないのに自らを律し、窘める千尋だが、その理由は胃袋にある。
書店が開店するのは早くて9時、10時台だ。
今は朝の7時、2時間ほど経てば小腹も空くだろう。
(そばが……、仙台にしかないチェーン店のそばを食べたかった……!)
学生時代、ライブなどで仙台に訪れるたびに、行っていたチェーンの立ち食いそば屋。
そこに行く算段だったのだ。
揚げたてのかき揚げ、出汁の香りを思い出す千尋。
しかし、食後にすぐ食事のことを考えられる彼女は2時間後、しっかりとそばをすするのだった。


