ご当地ひとりごはん!



早朝5時に目が覚めた千尋だが、枕が合わなかったなど繊細な理由ではない。
旅先では早めに起きて非日常感を存分に味わいたい――そんな興奮から自然と目が覚めてしまうのだ。
これは遠足や運動会の日に早起きするのと似ているのではと千尋は若干自分の精神年齢に不安を覚える。
念のため、スマホのアラームもかけておいたのだが、やはりその必要はなかったようだ。
くわっとあくびをした千尋は窓のカーテンを開ける。
昨夜は暗くよく見えなかったが、外にはビルが並び、朝焼けが美しい。

「これぞ旅先の良さだよねぇ……」

家であれば、代わり映えのない景色であり、こんなに清々しい気持ちにはならなかっただろう。
シミも皺もない真っ白なシーツと枕、部屋も不要なもので散らかっていないホテルの部屋。
そう思うならば、休みの日にでも入念に掃除や洗濯をすればいい――というのは当然千尋も知っている。
だが、それはまた別の話だ。自分でやらなくともいいのが旅先の魅力であろう。

「よし、大浴場からの朝食だー。あぁ、なんて贅沢! 学生時代からは考えられない……」

そう千尋は思っているが、別段贅沢をしているわけではない。
会社がそう思っていないので、出張時の申請が通ったのだ。
飲食費は当然、自腹である。
しかし、夜行バス4列で移動をし、カプセルホテルも女性用ドミトリーも経験済みの千尋にとっては出張は仕事であると同時に、各地の味覚やホテルを十分に堪能できるありがたさがあるのだ。

「タオルは2枚、化粧水とか乳液は浴場にあったからよし! すっぴんでいいのも楽でいいー」

(推し活だと優先するのが全部推しだから、ホテルでゆったりはないんだよね。朝早く起きて移動したり、グッズ販売にも並ばないといけないし。お風呂のあとに、朝食バイキング! ……お土産はなにか気の利いた美味しいものを買わなきゃな)

館内着にスリッパといういでたちで髪を軽くシュシュでまとめる。ラフな姿のまま、千尋はいそいそと大浴場へと向かうのだった。