ご当地ひとりごはん!


 牛たん通り・すし通りは牛タンに寿司にと店が並ぶJR仙台駅3階の通路だ。
 左右に各店舗が並び、その中からどの店にするか悩む楽しみがある。
 どれを選んでも幸せな時間が訪れるのは間違いないのだが、悩みに悩んだ末、千尋は一件の店を選んだ。
 立ち食い寿司の店である。
 平日であったことも幸いし、店の前に列はない。
 これが週末や時間帯によっては列になり、時間やその後の予定で千尋は何度か来店を諦めたものだ。
 営業として販促のグッズなどを書店に持ち込む仕事は今日で終わりだが、明日は午前中に数件ほど挨拶回りをしておきたい。
 そのため、今回は一泊二日という短い仙台出張だ。

「うわっ、どれも美味しそう!」

 席に案内された千尋は目を輝かせる。
 立ち食い寿司だがカウンターがあり、目の前で選んだネタを握ってもらえるのだ。
 値段は壁に貼ってあるため、財布の中身を気にする必要はない。

「じゃあ、まずは――」

 千尋は疲れた自分を癒すという大義名分を味方に、仙台の海の幸を味わうのだった。



「お腹いっぱい! ……あ、歩き出したらやっぱり足が痛い。こりゃ、コンビニよってホテルに行ったらすぐお風呂だな」

 胃袋が膨れ、思い出したのは足の痛みだ。
 右肩だけがやけに張っているのは、各書店に販促の備品や出版の近い作品の紹介を兼ねた用紙を配るため、持ち歩いたせいだろう。

「今日のホテルは初めて行くところなんだよね。楽しみ、楽しみ」

 仙台駅周辺はホテルが多い。
 全国チェーンはもちろん、仙台にしかないチェーンなど千尋としてはこれもまた選ぶ楽しさがあった。
 限られた金額でより自分の条件にベストなホテルを! これは推し活をしていた学生時代と変わらない。
 ただ、今回ありがたいのは新幹線に乗ってよいのと朝食をつけてもいいことだ。
 学生時代はもっぱら夜行バスでの移動、ホテルでは朝食をつけたことなどなかった。
 なにかのきっかけでそんな話を上司にすると、「うんうん。坂井くんは本当に出張向きだね」と笑みを浮かべられた。
 一人暮らし、パートナーなし、ペットなし。出張には最適な人材だと思っていた千尋だが、そもそものスタンスが出張向きだと認められたらしい。

(ペットは飼いたいんだけどなぁ……。でも、仕事で帰りが遅くなるし、一人暮らしだと諦めざるを得ないよね……。出張は責任もあるけど、地方の書店を見れるのは新鮮だよなぁ。書店さん独自の工夫や取り組みを見ると刺激になるし)

 実際、千尋は出張が好きである。
 営業で各地を訪れ、その書店に訪れるのは千尋にとって幸福なことだ。
 同じ仙台でもその書店ごとに特色があり、空気感が違うのだ。
 それを体感し、販売する書店員の人の会話ができる――千尋が出張が好きな理由である。

「あとやっぱり、美味しいものが食べられるのがいいよね。あ、ホテルの前にコンビニ寄らなきゃ」

 千尋の姿は吸い込まれるようにコンビニ店に消えていった。