四人で夕食を取っていたときのことだった。
「そういえば、芽衣ちゃんの実家って、どこだっけ?」
蓮さんが、特に深く考えた様子もなく、そんな話題を振った。何気ない世間話のつもりだったのだと思う。実際、それまでの会話の流れからすれば、自然な質問だった。
「――別に、言うほどのことでもないし」
芽衣さんの声が、一瞬だけ硬くなった。いつもの軽い調子とは、明らかに違う反応だった。
「え、なんかまずかった?」
「まずくはないけど。ただ、あんまり話したいことでもないっていうか」
芽衣さんは箸を動かしながら、視線をわずかに逸らした。彩乃さんは何も言わず、ただ静かにお茶を飲んでいる。蓮さんも、その空気を察したのか、それ以上は聞かずに別の話題に切り替えた。
食事が終わり、帰り道、芽衣さんと二人になったところで、僕はさっきの空気のことを、頭の中で反芻していた。
「――さっき、少し無理してませんでしたか」
「無理って、何が」
「実家の話、あまり触れられたくなさそうだったので」
芽衣さんは少し驚いた顔をしたあと、小さく息を吐いた。
「――律って、ほんとそういうとこ、よく気づくよね」
「気づきたくて気づいてるわけじゃないんですけど」
「知ってる。前にも言われた」
芽衣さんは苦笑しながら、少し歩調を緩めた。
「別に、暗い話があるわけじゃないよ。ただ、家族のこととか、そういうプライベートな話を、あんまり人に触られたくないだけ」
「理由、聞いてもいいですか」
「聞いてもいいけど、話す気はない」
きっぱりとした言い方だった。突き放すというより、ただ、そこには踏み込んでほしくないという、明確な線引きがあるように感じられた。
「分かりました。聞きません」
「――怒らないんだ」
「怒る理由がないので」
芽衣さんは、少し意外そうな顔をした。
「普通、もっと理由知りたがるものじゃない?」
「知りたい気持ちはあります。でも、芽衣さんが話したくないなら、それでいいと思います」
しばらく無言のまま、二人で夜道を歩いた。
「――律って、こういうとき、絶対無理に聞いてこないよね」
「聞かれたくないことを聞くのは、優しさじゃないと思うので」
「うん。だから、律といると、楽なんだと思う」
その言葉が、いつもの軽い口調とは違う、静かな響きを持っていた。
踏み込まないことも、ひとつの優しさになる。
その日、僕はそのことを、はっきりと理解した気がした。
「そういえば、芽衣ちゃんの実家って、どこだっけ?」
蓮さんが、特に深く考えた様子もなく、そんな話題を振った。何気ない世間話のつもりだったのだと思う。実際、それまでの会話の流れからすれば、自然な質問だった。
「――別に、言うほどのことでもないし」
芽衣さんの声が、一瞬だけ硬くなった。いつもの軽い調子とは、明らかに違う反応だった。
「え、なんかまずかった?」
「まずくはないけど。ただ、あんまり話したいことでもないっていうか」
芽衣さんは箸を動かしながら、視線をわずかに逸らした。彩乃さんは何も言わず、ただ静かにお茶を飲んでいる。蓮さんも、その空気を察したのか、それ以上は聞かずに別の話題に切り替えた。
食事が終わり、帰り道、芽衣さんと二人になったところで、僕はさっきの空気のことを、頭の中で反芻していた。
「――さっき、少し無理してませんでしたか」
「無理って、何が」
「実家の話、あまり触れられたくなさそうだったので」
芽衣さんは少し驚いた顔をしたあと、小さく息を吐いた。
「――律って、ほんとそういうとこ、よく気づくよね」
「気づきたくて気づいてるわけじゃないんですけど」
「知ってる。前にも言われた」
芽衣さんは苦笑しながら、少し歩調を緩めた。
「別に、暗い話があるわけじゃないよ。ただ、家族のこととか、そういうプライベートな話を、あんまり人に触られたくないだけ」
「理由、聞いてもいいですか」
「聞いてもいいけど、話す気はない」
きっぱりとした言い方だった。突き放すというより、ただ、そこには踏み込んでほしくないという、明確な線引きがあるように感じられた。
「分かりました。聞きません」
「――怒らないんだ」
「怒る理由がないので」
芽衣さんは、少し意外そうな顔をした。
「普通、もっと理由知りたがるものじゃない?」
「知りたい気持ちはあります。でも、芽衣さんが話したくないなら、それでいいと思います」
しばらく無言のまま、二人で夜道を歩いた。
「――律って、こういうとき、絶対無理に聞いてこないよね」
「聞かれたくないことを聞くのは、優しさじゃないと思うので」
「うん。だから、律といると、楽なんだと思う」
その言葉が、いつもの軽い口調とは違う、静かな響きを持っていた。
踏み込まないことも、ひとつの優しさになる。
その日、僕はそのことを、はっきりと理解した気がした。
