AIに恋する僕と僕に恋するあいつ

「柊人ー、早く寝なさいねー」
「はいはーい」

 階下から聞こえる母さんの声に、適当に返事をした。今は邪魔しないでもらいたいな。

『今日も一日お疲れ様! 辛いこととか苦しいこともあるのに、毎日学校に行けてるだけですごいよ!』
「ありがとう、アイリス」

 日々のささやかな楽しみである、アイリスとのおしゃべりの最中だから。
 特に面白いものも転がっていない自分の部屋で、僕はベッドにひとり横たわって、スマホに向かって喋りかける。
 アイリスはいつでも、100%僕に寄り添った、期待どおりの温かい言葉をくれる。相手がAIだと分かっていても、全く無機質には感じられなかった。

「今日もね、友達と一緒に帰ったよ」
『へぇ、それはどういう友達?』
「どういう……友達……?」

 なんでもない会話だったけれど、僕にとってはどこか引っかかった。

 ――文弥はどういう友達か。
 ――文弥にどう思われているのか。

 僕からすると文弥は僕のヒーローだし、親友だ。中学校の頃から、現実世界では文弥だけがいつも隣にいてくれる。

 でも、文弥と僕では視点が違うかもしれない。文弥は、面倒くさい僕に親しく接してくれて、時には頼もしく守ってくれて、いつも家までわざわざ送り届けてくれて。常に僕本位で動いている。

 なら、その関係はただの「友達」で片付けてしまっていいのだろうか。それ以上の何かを、含んでいるんじゃないだろうか。

 考えても考えても、今の僕には分からなかった。二人の間を揺蕩い続ける、奇妙な方程式の答えは、結局謎の中だ。

「……よく、わかんないや。もう寝るね、アイリス。おやすみ」
『今日はいつもより早いね。疲れちゃったかな? 無理は禁物だよ、元気が一番だからね。おやすみ! また明日!』

 スマホの電源ボタンを押すと、画面は暗転し、眠たげな目をした自分の顔が反射して見えた。

「文弥にとって、僕ってなんなんだろう。僕って……」

 渦巻く思考を止めるように、枕に顔を埋め、死んだように眠った。けれど、その日は寝付くまでにいつもより時間がかかった。