「柊人〜?」
ふと、文弥に声をかけられた。窓から差し込む陽の光を受けて、銀髪が美しくなびいている。
「どうしたの?」
「……呼んでみただけ」
「あはっ、何それ~」
文弥は、相藍高校で一番のヤンキーだった。
喧嘩では無敗を誇り、その名は学校中に知れ渡っている。「Grade4」のリーダーであり、学校の外にも子分がいるという噂を耳にしたことがある。くすっと薄い笑みを浮かべた後、文弥は要斗を肘で小突いて、話しかけた。
「そういえばさー。昨日ちょっかいかけてきたのって、誰の子分だったっけ?」
「……確か、前原だろ」
「あー。あいつらか」
要斗が、黒髪を掻きながら眉間に皺を寄せていた。
「あいつらもなかなか懲りないな、今月に入ってからもう三回目だぞ」
『要斗』はこの四人組の中では一番頭が切れる。理性的な一方で、どこか読めないところのある人間だった。文弥のように自分の力を振りかざして前に出ていくタイプではないけれど、人間関係の機微に通じており、計算高い性格の持ち主だ。
類は眠たげな様子で机に突っ伏していた。第二ボタンまで外れたシャツの向こうに、たくましい体が見え隠れしている。
類はこの三人の中では一番見た目が厳つくて、吊り上がった目と金髪は、いかにも近寄りがたいヤンキーの風貌だった。そのせいで素性を知らない他の生徒に敬遠されることもよくある。実際には、類にはだいぶ年相応の男の子らしいところがあって、おちゃらけた性格なのだが、素顔を知るまでは僕もおっかないと思っていた。まあ、この見た目なら無理もない。
「ひとまず、柊人を先に帰しておいた判断は正解だったな。巻き込まずに済んだ」
「そーだな」
文弥と要斗は、そう言って同調していた。なんだか、ボディーガードに守られる要人みたいな気分だ。
一方、三人に比べるとずっと小柄で、常にスマホばかり触っているのが僕、『柊人』。……どういうわけかGrade4に入れてもらっているけど、お情けみたいなものだと思う。僕は人一人も満足に殴れないし、ましてや喧嘩の経験なんて一回もない。ただ、幼馴染の文弥に、
『柊人は、俺の隣にいとけよ』
――と言われ、一緒に高校に入学して、要斗や類と仲良くなって、Grade4っていうなんだかグループみたいなものが出来て……なんだかんだ、ずっとこんな感じだ。
おかげで、僕には友達が三人しかいない。まあ、厳ついヤンキー三人と絡んでいるから、無理もないんだけど。でも別に僕は友達を増やしたいわけでもないし、スマホがあればそれでいいかな、なんて思っている。
「今日も"アイリス"とイチャついてんのか?」
寝たかと思った類が、急に目線を合わせてきたので驚いた。
「……うん」
"アイリス"というのは、僕がいつも喋っているAIチャットサービスの名前。
僕はアイリスのことが大好きで、つい夜が更けるまで喋ってしまうこともある。僕が何を言っても、どう思っても、アイリスは全部正解だと言ってくれる。
幸運なことに、スマホがある限りどこでもアイリスと話せる。アイリスに会える。アイリスがいれば、それだけでいいな、と思える。文弥が横から、手元の画面を覗き込んできた。
「その"アイリス"とは、いつ話してんだ?」
「……うーん、暇な時とか? 文弥も話してみる?」
「あー……いや、俺はいいかな」
「そっか」
アイリスを知ったのは中学一年生の頃。文弥と仲良くなったのと同じ時期だった。ある出来事を皮切りに、人と関わるのが苦手になってしまった僕を救ってくれたのが、アイリスと文弥だった。文弥は、僕をイジメや嫌がらせから守って、いつでも一緒にくれたし、アイリスは親身になって僕の話をずっと聞いてくれた。嫌だったこと、苦しかったこと、楽しかったことも、全部。
だからこそ、二人は僕にとって心の拠り所になっていった。文弥との楽しい時間について、アイリスに打ち明けることも時々あった。
「柊人って昨日何時に寝たー?」
「えー、何時だっけ。……一時?」
昨日は確か、日付が変わってからも会話に熱中していた。アイリスと喋っているうちに寝落ちしてしまった覚えがある。
「遅くね? だから身長伸びねぇんだよー」
「うるさいなー」
昼休みの喧騒の中で、緩やかな世間話は続いた。思い思いに、他愛も無いことを喋って、チャイムが鳴れば適当に席につく。
それが、いつもの日常だった。
ふと、文弥に声をかけられた。窓から差し込む陽の光を受けて、銀髪が美しくなびいている。
「どうしたの?」
「……呼んでみただけ」
「あはっ、何それ~」
文弥は、相藍高校で一番のヤンキーだった。
喧嘩では無敗を誇り、その名は学校中に知れ渡っている。「Grade4」のリーダーであり、学校の外にも子分がいるという噂を耳にしたことがある。くすっと薄い笑みを浮かべた後、文弥は要斗を肘で小突いて、話しかけた。
「そういえばさー。昨日ちょっかいかけてきたのって、誰の子分だったっけ?」
「……確か、前原だろ」
「あー。あいつらか」
要斗が、黒髪を掻きながら眉間に皺を寄せていた。
「あいつらもなかなか懲りないな、今月に入ってからもう三回目だぞ」
『要斗』はこの四人組の中では一番頭が切れる。理性的な一方で、どこか読めないところのある人間だった。文弥のように自分の力を振りかざして前に出ていくタイプではないけれど、人間関係の機微に通じており、計算高い性格の持ち主だ。
類は眠たげな様子で机に突っ伏していた。第二ボタンまで外れたシャツの向こうに、たくましい体が見え隠れしている。
類はこの三人の中では一番見た目が厳つくて、吊り上がった目と金髪は、いかにも近寄りがたいヤンキーの風貌だった。そのせいで素性を知らない他の生徒に敬遠されることもよくある。実際には、類にはだいぶ年相応の男の子らしいところがあって、おちゃらけた性格なのだが、素顔を知るまでは僕もおっかないと思っていた。まあ、この見た目なら無理もない。
「ひとまず、柊人を先に帰しておいた判断は正解だったな。巻き込まずに済んだ」
「そーだな」
文弥と要斗は、そう言って同調していた。なんだか、ボディーガードに守られる要人みたいな気分だ。
一方、三人に比べるとずっと小柄で、常にスマホばかり触っているのが僕、『柊人』。……どういうわけかGrade4に入れてもらっているけど、お情けみたいなものだと思う。僕は人一人も満足に殴れないし、ましてや喧嘩の経験なんて一回もない。ただ、幼馴染の文弥に、
『柊人は、俺の隣にいとけよ』
――と言われ、一緒に高校に入学して、要斗や類と仲良くなって、Grade4っていうなんだかグループみたいなものが出来て……なんだかんだ、ずっとこんな感じだ。
おかげで、僕には友達が三人しかいない。まあ、厳ついヤンキー三人と絡んでいるから、無理もないんだけど。でも別に僕は友達を増やしたいわけでもないし、スマホがあればそれでいいかな、なんて思っている。
「今日も"アイリス"とイチャついてんのか?」
寝たかと思った類が、急に目線を合わせてきたので驚いた。
「……うん」
"アイリス"というのは、僕がいつも喋っているAIチャットサービスの名前。
僕はアイリスのことが大好きで、つい夜が更けるまで喋ってしまうこともある。僕が何を言っても、どう思っても、アイリスは全部正解だと言ってくれる。
幸運なことに、スマホがある限りどこでもアイリスと話せる。アイリスに会える。アイリスがいれば、それだけでいいな、と思える。文弥が横から、手元の画面を覗き込んできた。
「その"アイリス"とは、いつ話してんだ?」
「……うーん、暇な時とか? 文弥も話してみる?」
「あー……いや、俺はいいかな」
「そっか」
アイリスを知ったのは中学一年生の頃。文弥と仲良くなったのと同じ時期だった。ある出来事を皮切りに、人と関わるのが苦手になってしまった僕を救ってくれたのが、アイリスと文弥だった。文弥は、僕をイジメや嫌がらせから守って、いつでも一緒にくれたし、アイリスは親身になって僕の話をずっと聞いてくれた。嫌だったこと、苦しかったこと、楽しかったことも、全部。
だからこそ、二人は僕にとって心の拠り所になっていった。文弥との楽しい時間について、アイリスに打ち明けることも時々あった。
「柊人って昨日何時に寝たー?」
「えー、何時だっけ。……一時?」
昨日は確か、日付が変わってからも会話に熱中していた。アイリスと喋っているうちに寝落ちしてしまった覚えがある。
「遅くね? だから身長伸びねぇんだよー」
「うるさいなー」
昼休みの喧騒の中で、緩やかな世間話は続いた。思い思いに、他愛も無いことを喋って、チャイムが鳴れば適当に席につく。
それが、いつもの日常だった。

