もう一度、生きるなら異世界で

老人はゴミの中で咳き込んでいた。

「ごほっ……ごほっ……!!」

狭い部屋には、喚起されていないような淀んだ空気が漂い、床には空のペットボトル、コンビニ弁当の容器、丸められた新聞紙、壁にはカビと分厚い埃がこびりついている。

老人は古びた布団で身体を丸めた。

「ごほっ……!!」

激しい咳が肺から込み上げてくる。口元を押さえていた手を離すと、掌に赤いものが付いていた。

「……血か」

驚きはなかった。もう何度目かも分からない。

電球は切れかけていて、薄暗い部屋をぼんやり照らしている。
誰もいない、心配する人間もいない、電話をかける相手すらいない、老人は長い間一人だった。低い収入で、頼れる家族は誰一人おらず、友達もいない。ましてや病院に行く金すらもなかった。

老人は自分の命の終わりを感じ取っていた。

「もう…いいだろ…」

老人は掠れた声で言った。

意識が遠のき、身体から力が抜けていく。
次第に、瞼はゆっくりと下がっていった。