ヘソ天を夢見てる。

話って……「彼女のこと伝えてなかった」とか、そういうやつなら、わざわざそんなことを言われなくてもいいのに。
自分の立場はわかってる。

わちがお座りをしたままわたしを見上げたので、リードを持つ手に力が入った。

「四葉のクローバーを本に挟んだのは俺の……恋人で、彼女は……晶って言うんだけど、生まれた時から家が隣同士の幼馴染だったんだ。だからお互いの家をよく行き来してた」

高屋さんが言っていた通り。東田さんには恋人がいる。

「あの日、シロツメクサが晶の願いだと言われて、俺は浅葱さんを追いかけるのをやめた。でも違ったんだ。お互いずっと好きだったのに、そのことを大人になるまで言い出せなかったから」

東田さんは知らないだろうけど、誕生日を迎えたから、「ありえない」にまた1がプラスされた。今のわたしは3つ年上ということ。
ふたりの馴れ初めなんて聞かなくても、自分の立場はよくよくわかってる。十分すぎるくらいわかってる。

「ふたりで同じ本を持ってたんだ。俺のは後ろの数ページが折れてるはずなのに、マンションのはそれがなかった。昨日、実家に帰って確認してきた。晶の部屋に俺のがあった。あのシロツメクサは色褪せてたし、ずっと前に挟んだんだと思う」

いつ挟んだかは関係ない。彼女が東田さんに自分を想って欲しいと願っていることに変わりはない。
どうしてそんな説明までする必要があるの?

「俺も浅葱さんと同じ想いを抱えてる」

同じじゃないよ。わたしと東田さんでは何もかも違う。
東田さんが何を言いたいのかわからないし、これ以上は普通の顔をして聞いていられそうにない。

「でも俺は生きてるから、自分がそうだと思うことが奇跡で運命だと思いたい」

ずっといい子してお座りしていたわちが急に立ち上がると、2本足になって、前足でわたしの足をほりほりし始めた。

「もう帰らないと。わちの朝ご飯の時間をだいぶ過ぎてるから……」

「そっか。ごめんな、ワチ」

頭だけ下げて、背を向けたわたしに東田さんが言った。

「待ってる!」


わちは何度も後ろを振り返っていた。
でもわたしは振り返らなかった。