ヘソ天を夢見てる。

cielは、12月24日の営業を最後にしばらくお店を閉めることが決まり、早江さんは26日の飛行機でイギリスへ発った。
最後にバタバタとしたのは、急に決めた渡英だったため、飛行機がそこしかとれなかったらしい。
見送りに行くと言ったら、「だめだめ。年寄りは泣くと体力使うんだから」と、やんわり断られた。


クリスマスも、年末年始もわちとふたりで過ごした。a
早江さんがいないからおせちを作る予定もなくなって、大好きな黒豆だけを自分のために煮た。

東田さんとは、あのシロツメクサの押し花を見つけた日が最後になった。

高屋さんから東田さんに彼女がいると聞くまで、そんなひとがいるなんて気づかなかった。
彼女の存在を知った後も普通に接していたのは、東田さんが「年上だけはありえない」と言っていたことを聞いたから。東田さんの中では、早江さんと年上のわたしは同じような存在なんだと思っていた。年上の、親戚のようなものなのだと。

でも、彼女の存在を目の当たりにしたら、想像以上にショックを受けている自分がいた。
東田さんは鋭いから、わたしのそんな感情に気付いたんだと思う。連絡がないのはそれが理由。
男女間の友情は、どちらかに好意があった時点で成立しない。
だから……もう会わない方がいい。


ツンっと刺すような風が吹く朝も、早く陽が落ちる夕方も、わちは元気に散歩へ行く。
毎日同じ道を通っているからさすがのわちも慣れたのか、今では距離を保てば人とすれ違うことも出来る。

「わちくん、君は寒いのに元気だね。おかげでわたしも早寝早起きの生活だよ」

じっとしていると寒くてぷるぷる震えるくせに外へ出たがるので、わちは服とハーネスが一体化したアウターを着ている。

白い息を吐きながら、朝の河川敷を歩いていると、急にわちが走り出した。

「わち? 何で?」

そして急にぴたりとお座りをしたので、前につんのめりそうになる。

「覚えててくれたみたいで嬉しいけど、ちょっと距離ないか?」


この声……


しゃがんだ東田さんがわちの前に手を出して……噛まれた。

「マジか。まぁ、甘噛みだからマシか」