ヘソ天を夢見てる。

「本を見ていいですか?」

「どうぞ」

本はずっと本棚にあったけれど、最後に読んだのがいつなのか思い出せない。

「モモはわたしも昔読んだことがあります。時間泥棒に盗まれた時間を、主人公のモモが取り返す話ですよね」

浅葱さんは本棚から本を取り出すと、数ページほどめくった後に俺へ渡した。

「中を見た方がいいですよ」

その意味もわからないまま適当にページを開くと、そこに四葉のクローバーが挟んであるのを見つけた。
ページをめくるごとに四葉のクローバーが挟んである。いくつも、いくつも……数えきれないほど……


この本に四葉のクローバーを挟むことが出来たのは……晶だけ。


「この物語の中でクリスマスにふれているのは、最初の方だけです。大切なひとと同じ時間を過ごすことこそが一番の贈り物だと気付かされるところ」

クリスマスの記述があるページを探して見ると――そこだけシロツメクサの押し花が挟んであった。
たくさんの四葉のクローバーと、ひとつだけの花。

顔を上げると、ワチを抱っこした浅葱さんが俺を見ていた。

「そのシロツメクサは、本に挟んだひとの願いだと思います」

「願い?」

「シロツメクサの花言葉は……わたしを想って」


それが……晶の……願い……?


「浅葱さん……彼女は……」


「晶はもういない」と、言うことが出来なかった。

晶は、確かにまだ俺の中に存在する。


「ふたりで会ったりしたらだめでした」

もうずっと敬語なんか使っていなかった浅葱さんが、どこからか俺に敬語を使っていた。
それは彼女が俺との間に線を引いたということ。

「そろそろ帰りますね。お邪魔しました」

浅葱さんはワチを抱いたまま、丁寧なお辞儀をした。