ヘソ天を夢見てる。

家へ帰って菫に浅葱さんを偶然見かけた話をすると、「あの辺がワンコのお散歩コースみたいだからね」と教えてくれた。

それで後日、同じ場所で同じ時間帯に、浅葱さんが通りかかるのを待った。
また東田くんが一緒だったらどうしようかと思っていたら、その心配は杞憂だったようで、浅葱さんはひとりでチワワと歩いて来た。

「浅葱さん、すごい偶然。私のこと覚えてる?」

「高屋さんですよね。覚えてます」

「ワンちゃんのお散歩? 可愛いい。触ってもいい?」

「ごめんなさい、この子噛むんです」

「そうなんだ……実はこの間も見かけたんだけど、東田くんと一緒にいたよね? 知り合いなの?」

「はい」

普通はここでどういう知り合いか話し始めると思うのだけれど、浅葱さんはそれ以上何も言いそうにない。

それなら――

「もしかして浅葱さんって、東田くんの彼女の友達? 東田くんには付き合って長い彼女がいるのは知ってるよね?」

「……いえ……」

その表情を見るに、浅葱さんは樋野晶を知らない。
きっと彼女が亡くなった事実も知らないはず。

「浅葱さんは……東田くんとはどういう関係?」

「……友達です」

「だよね。びっくりした。あんなに大切にしてる彼女がいるんだから。それに東田くんは前に『年上だけはありえない』って言ってたし」

浅葱さんは困ったような笑みを浮かべてわたしの話を聞いているだけだった。
何か聞かれたらどうしようかと思っていたのだけれど、何も聞かれることはなかった。

「ごめんねぇ、散歩の途中に引き留めて。また合コンあったら誘うねー」

本気で誘うわけないじゃん。
有澤さんのことだって教えてあげない。

「失礼します」

丁寧に頭を下げてから、浅葱さんは歩いて行った。


東田くんの隣にいていいのは、綺麗で、おしゃれで、誰が見てもお似合いだと納得出来る相手でなくてはいけない。
絶対に浅葱さんじゃだめ。

だって……自分がどうやったって敵わないような相手じゃないと、惨めになる。

「さっきのは勘違い」と、嘘をついたことを謝るチャンスだってあったのに、私がしたのはその姿が見えなくなるまで目で追っただけ。

もっとすっきりするかと思ったのにそうはならなくて、心のどこかに重しのようなものがのしかかって、気分まで靄がかかったみたいになった。