ヘソ天を夢見てる。

大学生になって初めてのお正月、地元の友達と行った初詣の神社で東田くんを見かけた。
隣には、あの写真より少し大人っぽくなった樋野晶がいて、茶色がかったゆるいウェーブの長い髪をふわふわと風になびかせて歩いていた。東田くんはそんな彼女に、見たこともないような優しい目をして笑いかけている。

悔しいけれど、ふたりはお似合いとしか言いようがなかった。
ひとは敵わないと思う相手には、祝福の気持ちを持てるらしい。
それは東田くんの絵を見て、妬みより称賛の感情が溢れてくるみたいな感覚と同じだったかもしれない。


将来は絵で食べていくんだと夢を描いていたけれど現実は厳しくて、美大を卒業後は地元へ戻り、親のコネで商社に就職した。

キャンバスに色をのせる代わりに、自分へ色を重ねていった。
黒かった髪の毛を染めた。伸ばした爪には絵の具ではなく綺麗なネイルと小さな石がキラキラと光り、油の香りは人気の香水になった。


ある時、ふと「東田くんはどうしているのだろう?」と思い、その名前を検索すると、すぐに彼の名前と「日本広告賞・デザイン賞のW受賞」というニュースがヒットした。
やっぱり彼はすごいひとだったんだと、嬉しくなった。

それから時々、彼の名前を検索するようになって、求人募集を見つけた。

東田くんは地元に戻って事務所を立ち上げていた!
しかもそこで事務の出来る人を募集している!

すぐにエントリーシートを送った。


それから面接の案内が来るまで、いろんな想像をした。
あの頃は上手く話せなかったけれど、あれから何年も経ってお互い社会経験も積んできた。

「もしかして、デッサン教室で一緒だった?」

そんなふうに会話が始まって、「あの頃は」なんて昔話に花が咲いたりして……

東田くんと樋野晶との関係が、今はどうなのかはわからなかったけれど、彼女の場所に自分がとって代われるとは思ってもいなかったから、一緒に働けたらそれで十分だった。


ところが、面接は私が思っていたものとは全く異なり、散々なもので終わった。
彼は私のことをこれっぽっちも覚えていなかったばっかりか、どんなに彼のデザインしたものが好きかアピールしたにも関わらず、興味を持ってもらえなかった。