ヘソ天を夢見てる。

子供の頃から絵を描くのが好きで、中学の美術の先生に「才能がある」と言われいい気になった。高校では迷わず美術部に入り、ゆくゆくは絵で食べていくことを夢見てデッサン教室にも通い始めた。

そこで、東田くんと出会った。

高1から通っている私と違って、彼は高3になってから入って来たにもかかわらず、ずば抜けて何かが違っていた。「上手い」という概念では言い表せない。「違う」というのが正しいとしか表現できない。
例えば同じ林檎を描いたとして、私の絵はただ林檎でしかない。でも、彼の描くものは、「彼の林檎」になる。


ある時、勇気を出して話しかけた。

「東田くんって、上手いよね。全然敵わない」

「俺は誰かと比べるために描いてるわけじゃない」

それ以上は時間が惜しいと言わんばかりに、口を閉ざされた。

でも、その一瞬で東田くんは私の世界の中心になった。


東田くんはいつも学校帰りだったから、制服で高校がどこだかわかっていた。
それで彼と同じ高校に通う同中の友達にメッセージを送った。

<東田一成って知ってる?>

<知ってる>

もう少し難航するかと思ったら、拍子抜けするくらいあっさりと返事が返ってきた。

<彼女いる?>

<彼女かどうかわからないけど、いつも一緒にいる子がいる>

それって、どういう関係?

<やっぱ彼女かも>

そんな感じで、東田くんのそばにいる子の存在を知った。

<写真あるよ?>

<見せて>

<一番左の子 樋野晶って名前>

送ってもらった写真の樋野晶は可愛い系女子で、東田くんのタイプは大人ぽい綺麗系女子なんじゃないかと勝手に思っていたから意外だった。

<東田とどこで知り合ったの?>

<同じデッサン教室 かっこいいけど無愛想だから、そういうやつでも彼女いるのか気になった>

「なるほど」のスタンプが返ってきたので、こっちも「ありがと」のスタンプを返して、あっけなく恋は終わった。



同じ空間で同じものを見て、同じことをしていたのに、東田くんの視界に入ることもなく、高校を卒業。
その後、東田くんは最難関と言われる東王藝大に、私は私立の美大へ進んだことで接点を失った。