ヘソ天を夢見てる。

東田さんは背が高いので、その顔を見るには、少しばかり上を向くことになって――

「虹」

マンションに遮られてはいたけれど、ずっと向こうに虹が見えた。

「後ろ見て! 虹が出てる! 何かいいことありそうな気がしませんか?」

はしゃいでしまったわたしとは正反対に、わたしが指差す方を見た東田さんは冷静だった。

「あれは……太陽の近くにある薄雲が虹色に見え現象で、虹ではなく、彩雲というものだと思う」

少ししょんぼりしたわたしに東田さんは付け加えた。

「玄関にあるプレートを見た?」

「はい」

「あれは仕事をする時の屋号で、フランス語で『虹』という意味。だからある意味、浅葱さんは虹を見たことになるよ」

彩雲は虹じゃないと言っておきながら、文字で書いてある虹は虹だと言う。

「やっぱりいいことあった。栗の甘露煮を楽しみにしてていい?」

「それを『いいこと』と言ってもらえるなら、もちろん」

自分がこんなふうに誰かと繋がりを持ち続けようとするなんて、思ってもみなかった。

「今日はつい食べすぎたから、夕方の散歩はいつもより、全力疾走するつもり」

「……チワワだからって、侮れないんだっけ?」

「わたし、東田さんより体力あると思う」

「……やば……」

「東田さんも毎日走ったら――」

「そうじゃなくて、急いで家を出ていたから鍵をかけてない」

「は、早く帰った方がいいよ!」

「そうする。甘露煮は明後日、cielに持って行く」

「楽しみにしてるね」


お互いに、いつの間にか敬語がぬけていることには気が付かず、手を振って別れた。



約束通り、東田さんはcielへ差し入れに栗の甘露煮を届けてくれた。

その中には、小さな瓶に入った渋皮煮もあった。


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