ヘソ天を夢見てる。

マンションを出てしばらくしたところで、「浅葱さん」と言う声と一緒にトートバッグの端っこを掴まれた。
掴んだのは東田さんで、息を切らしている。

「……待って……階段を走って……」

「大丈夫ですか?」

「……普段……走ったり……しないから……」

「もしかして、何か忘れ物をしてました? よく見たはずなんだけど」

「すみませんでした」

東田さんは頭を下げたきり、それ以上何も言わなかった。
言い訳もせず、取り繕うようなことも言わない。

東田さんは謝るために追いかけて来てくれた。
ほんの少しのわだかまりですれ違ってしまう人間関係は、こうやって継続しなくてはいけないのに、わたしはいつもそれが出来ない。

「頭を上げてください……わたしの方こそ……ごめんなさい。本当は、上手く説明できなくて逃げました。でもあのままで終わってたら、お互いずっと気まずいままでした」

「そうさせたのは俺だから」

「……梅……梅酒は好きですか?」

「はい」

「梅酒作りを手伝ってもらえませんか? 青梅の季節になったら、実家にたくさん出来るから、来年は送ってもらうので」

「それは、ぜひ」

青梅の季節は5月の末くらいから。
半年以上先のことしか思い浮かばなかったのに、東田さんの返事に躊躇はなかった。

「これでおあいこ」


東田さんが優しいのは、栗を見た時にわかった。

実家にいた頃は、毎年山へ入って栗拾いをしていた。自然のものだから虫喰いもいっぱいあったし、大きさも不揃い。それを選別するところからが下準備だった。水につけると中が詰まっていないものが浮いた。

東田さんの栗は水に浸けた状態でひとつも浮いたものがなかった。それに一つ一つが重く、丸みがあって、底の白いところが多かった。それは栗が予め選別されていたということ。そして、それをしたのは東田さん。
もしかしたら、今日のために買ったのかもしれないとも思った。わちのことで、わたしが罪悪感を抱き続けないために。