ヘソ天を夢見てる。

「このひとがワチを置いていったひとですか?」

東田さんのスマホを握りしめたまま頷いた。

「このアカウント、更新はないけど、ずっと削除されずにとってあるんです。それって意味があると思うんです」

削除されないのは……それが出来ないからで……

「ふたりの間に何があったのかわからないけれど、もう一度話し合ってみたらどうですか?」

今度は首だけ振った。

「……あのさ、ワチのことで話があるとか、きっかけは何だっていいじゃん」

「……できない……」

「だから、何でそう簡単にあきらめんの?」

東田さんが苛立っているのがその口調からもわかる。
でもどうしてそんなにムキになるのかわからない。

「後悔する前に会って話した方がいい」


――後悔――


もしあの時、わちをくれた理由を問いただしていたら……
どこへ行くのか聞いて、一緒に行っていたら……
梶井くんを無理矢理にでも引き留めていたら……

もし

もしも

もし

どうしたら未来は変わっていたのか……
何度もそのことを考える。そのことばかり考えて、考えて、考えて……

後悔ばかりしている。


「……どこに……行けば……会えるんでしょうか……? どうすれば……話せるんでしょうか……?」

「そんなの俺に聞かれても……本気で会いたいなら――」

「……どんなに声が聞きたくても、会いたくても……もう……どこにもいないから。いないひととは話せない」

東田さんがどんな顔をしていたのか、見ていないからわからない。
その手に、ずっと握りしめていたスマホを返して、自分の使っていたカップを流しに持って行って洗った。

「……浅葱さん……俺は……」

「鼻の傷がきれいに治って良かったです」

「傷なんて……どうでも……」

東田さんの顔に傷が残らなくて良かったと、心から思ってる。
それに、東田さんは梶井くんがもういないことを知らなかったのだから、仕方がないということもわかってる。

「今日はありがとうございました」

絶対に忘れ物のないように何度も確認して、東田さんの部屋を出た。