ヘソ天を夢見てる。

会社での梶井くんは言葉の通り、徹底してわたしに対して無視を貫いた。

営業部の数人で食堂に入って来るところに偶然居合わせた時も、同期なんだから挨拶くらいするよね?と思い、頭だけ小さく下げたのに、目すら合わそうとしなかった。


きっとわたしの中で梶井くんの存在が大きくなってしまったんだと思う。

梶井くんのそばにはいつも同期の沢渡桐香がいることに気がついた。
おまけに「ふたりは付き合ってる」という噂まで耳に入るようになった。

ふたりが並んでいると本当にお似合いで、そのことを考えると苦しくなるから、頭の中から追い出して、気づかないフリをした。


うちにいる時の梶井くんは、お皿を洗ってくれたり、お風呂を洗ってくれたりと、会社での態度とは180度違う。
「いつもご馳走になってばっかりだから」と、近所のスーパーへ一緒に買物へ行くと、必ずいろんなものを買ってくれた。
スーパーでカートを押してふたりで歩いていると、まるで新婚さんみたいだと思ったりして。

毎週末を一緒に過ごすことが多かったから、何でもないことのように、普通に、さり気なく……気になっていたことを聞いた。

「沢渡さんはいいの?」

わたしが社内の噂を知らないとでも思っていたのか、梶井くんはひどく驚いた。

「何でもない、忘れて」

「あれは周りが勝手に言ってるだけ。ただの噂。信じてよ」

少なくとも浮気相手というポジションではないということ。
そう信じることにした。

「オレたちの関係なんだけど……会社の誰にも言ってないよな?」

そんなに念押ししなくてもいいのに。

「ちゃんと言葉にしてなかったから――」

「大丈夫。ちゃんとわかってるよ」

わたしの返答に、梶井くんはあからさまに安堵の表情を見せた。

「誤解してたらどうしようかと焦った」


わかってる。
わたしは梶井くんのセフレってやつなんだよね。
ちゃんとわかってる。
わたしが一方的に好きなだけ。

誰にも言わないよ。


その日、梶井くんはいつもよりご機嫌だった。