ヘソ天を夢見てる。

小箱さんに連れて行かれたお店は、居酒屋ではなく、イタリアンのレストランだった。
「気軽に行けるお店」と言われていたけれど、ちっとも気軽な感じがしない。


「浅葱さんは何してるひと?」

名前と年齢だけの簡単な自己紹介が終わると、正面に座る橘さんという歯科医師さんが話しかけてきた。お高そうなスーツに煌びやかな腕時計がとてもお似合いのひと。

この場で知っているひとは隣に座っている小箱さんだけで、今わたしに質問してきたひとを含め、男性3人、女性1人が初対面。

「喫茶店で……バイトをしています」

「フリーターってやつ?」

「そう、です」

「どこかのお嬢サマだったりする? でもそうならバイトはしてないか」

橘さんは笑ったけれど、何がおかしいのか分からなくて困ってしまった。
こういう時は一緒に笑うもの?

「地元はこっち?」

「いいえ……」

弾まない会話に橘さんは苦笑いを浮かべた。

ごめんなさい。あなたが嫌とかそういうのではないんです。初対面の人といきなり会話をすることが苦手なだけなんです。
こんな時は何か面白い話題を、と思うとますます何も浮かばない。

cielで少しはわたしも接客力が身についたんじゃないかと思っていたのだけれど、それは大きな間違いだった。
よく考えたらランチタイムはいつも戦場でお客さんとは注文を聞く時と支払いの時くらいしか会話がない。天気の話すらしない。その後は常連さんがちらほらやって来るものの、皆様年齢が高く、そういう方々とは昔から普通に話せるため、何の訓練にもなっていなかった。

やがて橘さんはその隣にいる香月さんを誘って席を立った。
そして戻った時にお互いの席を入れ替わった。

「浅葱さんも犬を飼ってるんだよね?」

この情報は一番最初に「3人はどういう関係?」と聞かれ、小箱さんが流した情報。
ワンコを通して、小箱さんとわたしは意気投合したらしい。

「うちもなんだ」

香月さんはそう言って、スマホの待受を見せてくれた。
何だかゴージャスな感じのワンコ。

「インギーだよ。イングリッシュコッカースパニエル。そっちは?」

「わたしの方は――」