ヘソ天を夢見てる。

cielが定休日だったので、わちと早めのお散歩へ行ってアパートへ戻る途中、前から歩いて来る女性が顔見知りなことに気がついた。
動物病院に併設するトリミングサロンで何度か一緒になったことのある小箱さん。

「こんにちは」

挨拶をすると小箱さんは少しの間わたしを見つめた後、その視線を抱っこしていたわちに注いだ。

「わちくんの……」

「浅葱です」

「そう! 浅葱さんだった! 浅葱さんは、お仕事もう終わり?」

「今日はお店が定休日なんです」

「じゃあ暇ってことっ?」

「え――っと……はい……暇と言うか……わちのご飯をあげたり……」

「良かった!」


良かった? 何がですか?


小箱さんは「ちょっとだけ待ってて」とわたしを引き留めてから、どこかへ電話をかけた。
そして電話の相手に「見つかったから大丈夫!」と言って話しを始めた。


見つかった? 大丈夫って、何がですか?


電話を切ると小箱さんはわたしを見てにっこりと微笑んだ。

「合コンのメンバーが急にひとり足らなくなって困ってたの。浅葱さんが暇で良かった。7時からだから、わちくんにご飯あげて支度しても十分間に合うよね?」

「ま、待ってください。急にそんなこと言われても無理です」

小箱さんとはこれまでお互いのワンコのことしか話したことがない。名前も覚えられていなかったのに、いきなり友達みたいに誘われて、しかも合コンとか絶対に無理でしかない。

「向こうの奢りだし、行きは私が一緒だから交通費もかからないので安心して。帰りは……浅葱さん次第だけど」

「ごめんなさい。他を当たってください」

頭を下げてこの場から逃げ出そうとしたのに、ガシッとお散歩バッグを掴まれた。

「好きなもの食べて飲んで、座っててくれるだけでいいの」

そんなことを言われても……

「すっごく困ってるの! お願い!」

「合コンなんて……上手く話が出来ないと思うので……」

「いろんな人と出会うって大事よ!」

それは今までわたしが逃げていたことで……でも、このままじゃだめってことはわかってる。

「人助けだと思って。ね? お願いっ!」

お祈りのポーズまでされ、「本当に座ってるだけになるかもしれませんよ?」と念を押した。