ヘソ天を夢見てる。

成が遠くへ行く日は、前日の雨が嘘みたいによく晴れたいい天気だった。

家を出る前に、成はいつものように自分の部屋のベランダから身を乗り出して言った。

「俺は25までに大成して帰って来るから」

「はいはい」

「――んだよ……」

だって、大学を卒業したら22歳だよ?
3年間は帰って来ないって言ってるようなもんじゃん。微妙過ぎて喜べないよ。


私は何も知らなかったから。
成の目指す世界は厳しくて、どれだけの努力が必要で、全ての人が自分の思い描く未来を掴めるとは限らないということを知らなかったから、「3年で大成する」と言ったその重みがわからないでいた。


「だから晶、25歳になってもお互い独身だったら結婚しよう」

「そのセリフ、言ってみたかっただけでしょ」


例え冗談だとしても、そんな約束を軽々しく口にするなんて、成はばかだね。
私はその言葉を本気で受け取りましたから、絶対に成のお嫁さんになるからね!


「成も私も、お互いに恋人もいなかったらね」

「略奪はなし?」

「なしです。どちらかに相手がいたら無効です」

「俺は式場でもどこでも晶のことを連れ去りに行くよ?」


それだと、「お互い独身だったら」の前提に矛盾がない?
成の結婚式に私が「嘘つき! 私はずっと待ってたんだからね!」と、乗り込んでもいいってことになるよ?


私はこの日のことを一生忘れない。


「そんな冗談ばっかり言ってないで、そろそろ出ないと新幹線の時間に遅れるよ?」

「ホームまで見送りに来ねーの?」

「行かないよ〜。だからここでお別れ」


ホームまで行ったらきっと泣きまくって成を困らせる。
それで成も……きっと泣く。意外に涙もろかったりするもんね。
映画のラストがハッピーエンドじゃなかったら、いつも泣くのは成の方だもん。


「元気でね」

「晶も――って、これが最後みたいな言い方すんなよ。長期休暇には帰ってくるし」

「期待せずに待ってる」


私はここで、成の言葉を信じて待ってるよ。