ヘソ天を夢見てる。

冬だからというのもあるけれど、早朝の学校は静かで、空気がひんやりとしている。
教室にはまだ誰の姿もない。

高校生になって初めてのバレンタイン。
リュックの中には友チョコ×12と……もう一つ。

自分の机にリュックを置いて、中からかわいくラッピングされた袋を手に取ると、小さく深呼吸をした。

成の部屋は私の部屋の真向かいだから、窓を開けて名前を呼ぶだけで、いつでもチョコを渡すことが出来る。
今まではそうやって渡してきた。
でもそれだと何も変わらなくて、毎年の恒例行事みたいに思われてるんじゃないかと思ったから、今年は学校で渡すことに決めた。

決めたのは学校で渡すことだけじゃない。
自分の気持ちを成に伝えるつもりでいた。


成は毎朝早くから学校に来て、ひとりで美術室にこもっている。
放課後は美術部が使っているけれど、朝は誰も使うひとがいないので、そこで絵を描いている。

美術室の隣にある家庭科室まで来た時、中から声が聞こえた。

「ずっと、好きだったの」

誰かが誰かに告白していた。
小さな声でも聞こえたのは、ドアが開きっぱなしになっていたのと、周りが静かだったせい。

「――くんのこと好きだったの」

「それ……何かの冗談?」

「違っ――」

「ごめん。お前のことそんなふうに見たことなかったから。何って言うか……友達としか思えない」


――ごめん。晶のことをそんなふうに見たことなかったから。これまでも、これからも幼馴染としか思えない――


まるで私の告白のリハーサルみたいに思えた。
自分が言われているような気がして、成のいる美術室はすぐそこなのに足が動かなくなった。


成にとって私はただの幼馴染でしかなかったら……


「誤解させるようなことをしてたなら謝る。もう、あんまり馴れ馴れしくするのはやめるよ」


その言葉のすぐ後に、家庭科室から女の子が走って出て来た。

その後姿が視界から消えるまで、ずっと見続けた。


――アレハワタシ――


くるりと向きを変えて、教室へ戻った。



11個の友チョコを仲の良い子達に配って、特別な一つは親友の鈴峰邑子にあげた。

「こんないいのもらっていいの?」

「うん。邑子にもらって欲しい」

「わたしは晶にみんなと同じチョコしか用意してなかったのに――」

そこで邑子はそのチョコの意味に気がついた。

「これ……本当にいいの? 後悔しない?」

「ごめんね」

他の誰かにあげるはずのチョコをもらって欲しいなんて失礼なことを言った私に、邑子は「一緒に供養しよう」と言ってくれた。