梶井くんは同期の中でも人一倍目立つ存在だった。
それは容姿だけでなく、人当たりも良く、仕事も出来るひとだったからで、入社から2年目には「新人」という呼び名はすっかり「営業部のエース」という肩書きに変わっていた。
一方のわたしは地味な存在で、新入社員の中でひとりだけ配属された人事部で、20歳以上は年の離れた女性の大先輩たちに囲まれて仕事をこなす毎日だった。
そんな梶井くんとわたしとでは接点なんてあるわけもなく、果たして彼がわたしのことを認識しているのかも怪しかった。
それがある日、食堂で持参したお弁当を食べていると、目の前にトレイを持った梶井くんが立った。
「ここいい?」
周りには空いている席がたくさんあったけれど、それを言うのは意地悪な気がした。
「……どうぞ」
「浅葱さんって、お弁当派なんだ。自分で作ってんの? それとも親?」
彼がわたしの名前を知っていたことに驚いた。
「自分で。一人暮らしだから」
「一口だめ?」
「もう口をつけたから……」
「そんなの気にしないし。これ、この小鉢とそのナス交換しようよ」
梶井くんが有無を言わさず、自分の小鉢をわたしのお弁当箱の隣に置いたので、返事は一択しか残されていない。
「……どうぞ」
お弁当箱を前に差し出すと、梶井くんはナスの煮浸しを箸でつまみ、口に入れるとすぐに頬を緩めた。
「マジ、美味いんだけど」
「ありがとう」
「オレさぁ、会社入ってずっと外食続きで手作りに飢えてんの。今度晩飯作ってよ」
梶井くんとは初対面というわけではない。
でもこれまで話したことなんてないし、挨拶すら交わしたことがない気がする。
だからそんな冗談に免疫のないわたしは、へらりと愛想笑いを返した。
それを了承ととらえたのか、営業部のエースは、昼休憩のうちに連絡先の交換から、「今度」の日時まで決めてしまった。
きっと梶井くんにしてみたら、一人暮らしの女の家に行くことなんて取るに足らないことで、深い理由なんてない。
「おもてなし料理とか、そんなの出来ないよ……?」
「浅葱さんが普段食べてるものでいーよ。でも、唐揚げだったら嬉しいかな」
そんなふうに梶井くんはうちへご飯を食べに来るようになった。
それは容姿だけでなく、人当たりも良く、仕事も出来るひとだったからで、入社から2年目には「新人」という呼び名はすっかり「営業部のエース」という肩書きに変わっていた。
一方のわたしは地味な存在で、新入社員の中でひとりだけ配属された人事部で、20歳以上は年の離れた女性の大先輩たちに囲まれて仕事をこなす毎日だった。
そんな梶井くんとわたしとでは接点なんてあるわけもなく、果たして彼がわたしのことを認識しているのかも怪しかった。
それがある日、食堂で持参したお弁当を食べていると、目の前にトレイを持った梶井くんが立った。
「ここいい?」
周りには空いている席がたくさんあったけれど、それを言うのは意地悪な気がした。
「……どうぞ」
「浅葱さんって、お弁当派なんだ。自分で作ってんの? それとも親?」
彼がわたしの名前を知っていたことに驚いた。
「自分で。一人暮らしだから」
「一口だめ?」
「もう口をつけたから……」
「そんなの気にしないし。これ、この小鉢とそのナス交換しようよ」
梶井くんが有無を言わさず、自分の小鉢をわたしのお弁当箱の隣に置いたので、返事は一択しか残されていない。
「……どうぞ」
お弁当箱を前に差し出すと、梶井くんはナスの煮浸しを箸でつまみ、口に入れるとすぐに頬を緩めた。
「マジ、美味いんだけど」
「ありがとう」
「オレさぁ、会社入ってずっと外食続きで手作りに飢えてんの。今度晩飯作ってよ」
梶井くんとは初対面というわけではない。
でもこれまで話したことなんてないし、挨拶すら交わしたことがない気がする。
だからそんな冗談に免疫のないわたしは、へらりと愛想笑いを返した。
それを了承ととらえたのか、営業部のエースは、昼休憩のうちに連絡先の交換から、「今度」の日時まで決めてしまった。
きっと梶井くんにしてみたら、一人暮らしの女の家に行くことなんて取るに足らないことで、深い理由なんてない。
「おもてなし料理とか、そんなの出来ないよ……?」
「浅葱さんが普段食べてるものでいーよ。でも、唐揚げだったら嬉しいかな」
そんなふうに梶井くんはうちへご飯を食べに来るようになった。



