ヘソ天を夢見てる。

晶を抱き上げると、思っていた以上に軽くて驚いた。

「成……おろして……」

そのまま、寝室まで連れて行って、ベッドの上で降ろした。

「……嫌……」

「俺も嫌だ」

押し倒してキスをしようとすると顔を背けられる。

「やめて」

「嫌だ」

「成が好きだと言ってくれたこの髪もニセモノなの。好きだと言ってもらえる資格はないの」


随分と昔、自分の猫っ毛が好きじゃないと言った晶に、俺はそれが好きだと言った。
正確に言えば、猫っ毛だろうと剛毛だろうとそんなことはどうでもいい。晶だから好きだったのに、それを誤魔化して「猫っ毛が好きだ」と言い換えただけだった。
俺にとっては些細なことなのに晶は気にしている。


「……片方の腕……浮腫んでるの。2倍くらい太くなってて……ぶよぶよしてて……嫌いになるよ……」


高校時代、「名前は男の人と間違われることがあるけど、実物までは間違えられたくないからね」と、冗談ぽく言っていた晶は、袖がふわっと膨らんでいたり、どこかしらにフリルが取り入れられたデザインの服を好んで着ていた。
それが柔らかい髪の毛とよく合っていて、年の割りには幼く見えるその丸い顔で見せる笑顔は、より一層可愛らしかった。

俺が地元に戻ってから見るようになった晶の服は、身体のラインが出ないやけにだぼっとしたデザインの服ばかりだった。でもそれは晶の好みが変わったんだくらいにしか思っていなかった。


「晶は、晶だよ」


嫌いになれたらどんなに楽だろう……
でも無理なんだ。


「……成は……これから……私なんか敵わないくらい素敵なひとと出会って……幸せになるんだから。そこに……私との想い出は……必要ない」

「うるさい。黙れ。そんな言葉は聞きたくない。晶……頼むから……頼む。俺に……晶を抱かせて。晶の全てを記憶に残したい。勝手だと……わかってる。けど……俺に晶の残りの時間をください。お願いします」

晶のすぐ真横に頭をこすりつけるようにして願いを乞う俺の頭を、晶が優しく撫でた。

「成はばかだよ」


本当に、救いようのないバカだ。
そして、どうしようもなく自分勝手なやつだ。


「好きなんだ。晶とひとつになりたい」

「成は大ばかだよ」

「晶もバカだ」


今更、もう後悔したくないとか……時間は戻らない。


「……もう一回……好きって言って」

「何度でも言うよ。晶が好きだ。これまでも、これからも晶が好きだ」

「……成……私も……大好き」


晶が、いつからこんなに細かったのか俺は知らないでいた。
俺は晶のことを好きだと言いながら、何も知らなかった――