ヘソ天を夢見てる。

「今日も寒いよ〜」という晶の明るい声に、コーヒーを淹れるためキッチンへ向かった。

マグカップに注いだコーヒーに、溶けるだけ砂糖を入れ、それを晶に差し出した。

「私は……いいよ……」

「もう淹れたんだから飲めよ。外、寒かったんだろ? 今日の豆はインド産で苦味がきいていて酸味が少ないから気に入ってるんだ」

「……ありがとう」

晶、試すようなことをしてごめん。
心の中で謝りながら、晶の様子を伺った。

味見をしていないから想像でしかないけれど、いくらコーヒーが苦いといっても、あれだけの量の砂糖が入っていたら、気持ち悪くなるくらい甘いはず。

「どう? 感想聞かせてよ」

「うん……苦味がきいてるね」

「そっか。もういいよ」

晶の手からマグを取ると、それを流しへ捨てに行った。
戻って来た俺に、晶は戸惑いの表情を浮かべる。

「え? 何? いきなりどうしたの? 成?」


やっぱり……そうなのか……
おばさんが嘘をつくわけがないのだから、わかっていたはずなのに……
晶は味覚障害だ。

何て切り出すべきか……
晶が必死に俺に隠そうとしていることを暴いて何か意味があるだろうか?
彼女の意志を尊重することが正しいことなんじゃないか?


ドスンとイスに座り、晶を見上げると、晶も俺を見つめ返した。


このまま、嘘をつかせたままでいいのか?
俺は、何も伝えないまま終わらせるのか?


鈴峰さんの態度。晶の母親の言葉。そして晶の嘘。
それら全てが導き出すのは、愚かな自分の姿。


「……どうして黙ってたんだよ?」

「何のこと? なぞなぞ? 意地悪しないで教えてよ」

「さっきのコーヒー、苦いわけないんだ。あり得ないくらい砂糖を入れてたから」

晶の顔から表情が消えた。

「俺だけが知らなかった? 取り繕っても無駄。もう全部知ってる」


頼むから否定してくれよ。
俺の想像は間違っていると、晶の口から全部否定してくれ。