ヘソ天を夢見てる。

早江さんの姿が見えなくなると、「一成」という名前の居酒屋で会ったお兄さんは、今度はわたしの方を向いた。

その顔は梶井くんとは全く違っているし、今日話してみると、口調も似ていない。どうしてあの日は似ていると思ったのかわからない。

「唐揚げが美味しかったのは本当です。外はカリッとしていて、中はジューシーだった」

「何かの宣伝文句みたいですね」

「本心なのに」

「ごめんなさい。ありがとうございます」

前に会った時は酔っていたので、初対面でも話すことが出来た。
今日はお酒の力を借りていないのに、どうしてだか普通に話せている。

「あの時は言いませんでしたけど、きっとお姉さんは俺より年上ですよ。俺は25です」

「そうですね。わたしは27だから」

「女性に年齢を聞くのは失礼だと思って聞かなかったんですけど、自分から言うのはセーフということで。これが早江さんだったら殴られてます」

早江さんの年齢を聞くのはやめよう。いつまでも年齢不詳で構わない。

「ワチを置いて行ったひととは、あれから話をしましたか?」

このひとに、梶井くんがもういないことは言っていない。
わざわざ言う必要もない。

「……いいえ」

梶井くんとは会いたくても二度と会えない。
話したくても……もう……話せない。
自分で存在を否定しておきながら、それが胸にずくんと鈍いを痛み放った。

「簡単には忘れられないですよね」

それはまるで、自分に言いきかせるかのように吐き出された言葉で、彼のさっきまでの柔らかかった表情にうっすらと影が落ちる。

「どうぞ、ごゆっくり」と、返すのが精一杯だった。


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