ヘソ天を夢見てる。

2時を過ぎる頃には、他のお客さんはいなくなっていたので、店内は「びっくりのお客さん」だけになった。

コーヒーは一杯づつ抽出されるマシンがあって、ボタンを押すだけで出てくる。
お昼休憩にわたしも飲ませてもらうのだけれど、これは普通のコーヒーではなくて、エスプレッソじゃないかと思う。でも早江さんはそれをコーヒーカップに並々とついでお客さんに出すことにしている。

そのコーヒーを持って行くと、「びっくりのお客さん」に話しかけられた。

「前から思ってたんですけど、ここのコーヒーって、絶対エスプレッソですよね」

同じことを思っていたひとがいた。

「やっぱり……そうですよね」

ポロリと口にしたことに慌てた。

「ごめんなさい、お客様に……」

「俺のこと覚えてないんですか?」

そう言われて、まじまじと顔を見たけれど、どう記憶を手繰り寄せても全く思い出せない。

ナンパ? まさかね。
自慢じゃないけど、これまで早江さん以外にナンパされたことはない。それでも定番の返事を返した。

「どこかでお会いしましたか?」

「お姉さん、ワチは元気ですか?」

わちの名前を知っているひとは限られる。
それに「お姉さん」と呼ばれたのは……

「居酒屋の……お兄さん?」

ようやく目の前にいるひとが誰なのかわかった。居酒屋のカウンター席で隣に座ったひと。
顔なんてほとんど見ていなかったし、見ていたとしても酔っていたから覚えていなかった。
でも「お姉さん」と言う時の口調は記憶に残っている。