ヘソ天を夢見てる。

そのひとが来たのはランチタイムの慌ただしさが落ち着いた頃だった。

ラフな格好だったけれど学生には見えなくて、時間に追われているふうでもないから普通のサラリーマンでもなさそう。
彼は迷うことなく窓際の席へ座った。


「いらっしゃいませ」

お水のグラスをテーブルに置くと、メニューを見ていたそのひとは顔を上げて、一度だけ瞬きをした。

「かっ――」

かっ?

「びっくり。唐揚げ定食」

「びっくり唐揚げ定食ですか?」

「いや、びっくりは感想で、注文が唐揚げ定食」

感想? びっくりって何だろう?

「……セットのお飲み物は何にされますか?」

「コーヒーのホットを食後に」

「ご注文は唐揚げ定食で、ホットコーヒーを食後にですね」

伝票に書いた自分の文字を読み上げる間、そのひとはじっとわたしを見ていた。



すっかり休憩モードに入っていた早江さんは、厨房の隅っこに置かれた丸椅子に座ってお茶を飲んでいた。

「注文何だって?」

「び、唐揚げ定食です」

危うく「びっくり唐揚げ」と言いかけた。
最初の「び」に眉を顰めながら早江さんが立ちあがろうとするのを止めた。

「座っててください。やりますから」

「そう? じゃあ、お願いするよ」

最近はこんなふうに任せてもらえることが増えた。
それが嬉しかったりする。


唐揚げは、初めて梶井くんに作ったメニュー。
パチパチと音を立てながら油の中で衣が色づいていく鶏肉を見ながら、そんなことを考えていた。

もしかしたら、わたしは一生こんな思いを抱えて生きていくのかもしれない。