秋人さんと喧嘩して1週間が経った。
喧嘩の原因は自分だ。
その日は久々に大学生の友人達と飲み会になった。居酒屋で飲んだあと友人の家でまた飲み直すことになった。
話も弾み、酒が回るのも早くなり、そのまま友人の家で寝落ちしてしまったのだ。
1番酔いやすく、最初に寝たのが俺だった。
そのまま起きることなく友人を抱きしめながら寝ていたらしい。起きていた友人がそれを俺のスマホで撮影しており、間違えてその写真を恋人である秋人に送ってしまっていたのだ。
ーーー
俺は早朝の4時頃に目が覚め、スマホを確認すると秋人さんからの100件以上のメッセージと20件以上の着信が入っていた。
やばいと思い、寝ぼけながらも謝罪と今から帰ると連絡を入れ慌てて家に帰った。
「ご、ごめんなさ」
「…他の男と寝るの楽しかった?」
「え?」
ドアを開けると壁にもたれながら腕を組んでいる秋人がいた。
謝罪を遮られ他の男と寝たなんて記憶にない事を言われて動揺した。
「その、友達の家で飲んでて、そのまま寝落ちしちゃったみたいで………。本当にごめんなさい。」
「…………連絡も無しに男の家に泊まってきたの。……浮気でもした?」
「っ違う!浮気なんてする訳ないっ!」
いつも温厚な秋人さんに冷たくそんなこと言われると思ってなくて動揺して涙がにじむ。
「どうだか。じゃあこの写真はなんだよ。」
秋人は写真を見せてきた。
記憶が曖昧でこんな写真いつ撮ったのかもわからず玖音自身も驚いてしまった。
「ち、違くて、俺も記憶が曖昧だからわかんないけど、本当にただの友達で、浮気なんて、」
「…言い訳はどうとでも言えるよね?それに浮気じゃなかったとしてもこの人に抱きついてるのは玖音でしょ?普段俺には抱きついてこないくせにこの人には出来るんだ?」
「そ、それは」
責め立てるような声色でいつもの優しい秋人さんとは違う雰囲気に怯んでしまう。
「……はぁ、もういいよ。明日朝からバイトだから寝る。心配して損した。」
「っ…」
深くため息をついて寝室へと向かってしまった。
あんな風に秋人さんから冷たい目を向けられることがなかった。そのせいで怯んで何も言葉が出なかった。
涙がにじんでその場から動けなかった。
秋人さんの寝室に入る勇気もなくその日は自室で声を押し殺して泣いた。
それからは必要最低限の義務的な会話だけで、おはよう、おやすみと声をかけても無視され更には秋人の帰りはいつも0時をすぎるようになっていた。
いつもだったら20時頃には帰ってきてくれていたのに。
不安になりこんな時間まで何をしているのか聞いても「玖音に関係あるの?」といわれ、そのまま無視されてしまう。
喧嘩する前は秋人さんの寝室のベッドに2人で寝ていたが喧嘩の後は俺がいつものようにベッドで待っていると秋人さんは一緒に寝たくないようで眉間に皺を寄せ寝室を後にした。
それが堪らなく悲しくて心にグサグサと刺さった。それからは秋人さんの迷惑になりたくないし、あの目が怖くて自室のベッドで寝るようになった。いつも一緒に寝ていたのに慣れていたせいか久しぶりに1人で寝るのは寂しくて寝付きも悪くなり、悪夢もよく見るようになってしまいちゃんと寝れることが少なくなっていた。
毎日、連絡することを忘れたこと、無断で外泊したこと、他の男に抱きついて寝てしまったことを後悔する。
謝ってもまるでその場にいないかのように無視され他の誰かと楽しそうに電話を始めてしまう。飲みに誘われればそのままついて行ってしまう。行かないで、とも言えずそのまま見送ることしか出来なかった。その度に胸が押しつぶされそうなり、涙がでる。
元々ノンケの秋人が女性もいる飲み会に行くことが不安で仕方がなかった。
秋人さんはすごく怒ってる。当然だ。秋人さんの方からしたら男の家に行き、朝帰りしてきたのだ。いくら謝っても浮気と思われても仕方がない。全部自業自得だ。
もし、別れを告げられることがあっても受け入れるしかないのかもしれない。
それから1ヶ月が経とうとしていた。仲直りも出来ないままだしこちらから別れなど告げれる訳もなく、状態は変わらないまま秋人さんの誕生日になってしまった。
喧嘩をする前は少し遠出をして一緒に過ごそうと話をしていた。それも白紙になってしまったけど。
それでも秋人さんの誕生日を祝いたいし、仲直りもしたくて、お祝いの準備をすることにした。
プレゼントは前から欲しいと言っていた腕時計とお揃いのマグカップを買った。
シンプルなデザインのものを探しているとちょうどマグカップにイニシャルが入ったデザインのものを見つけた。秋人の「A」が入った藍色のマグカップと玖音の「K」が入った薄緑色のマグカップを買った。
今の秋人さんが喜んでくれるかどうかは分からない。けど、仲直りした後ならきっと喜んで使ってくれる。
…もし、いらないと言われても直ぐに捨てられる。
玖音は少し不安になりながらも喜んでくれることを信じて梱包されたマグカップを手に店を後にした。
それからスーパーで材料を買って料理を作ることにした。
普段料理を全くしないためスマホでレシピを見ながら材料を購入していく。秋人さんはハンバーグ、唐揚げが好きだからその2品とサラダ、ポトフを作ることにした。
ポトフは秋人が初めて振る舞ってくれた思い出深い料理だ。
本当は秋人さんに教えてもらいたかったけどしょうがない。味付けが違うかもしれないがレシピに書いてあるものを作ることにした。
最後に秋人さんの好きなケーキ屋で好物のフルーツタルトを買った。ここのフルーツタルトはすごく美味しいんだ、玖音にも食べて欲しい、と付き合い始めた頃に秋人さんが買ってくれたのだ。
それから玖音もそのケーキ屋のフルーツタルトが大好物になった。普段大人っぽくてかっこいい秋人さんが口いっぱいにケーキを頬張る可愛らしい姿を見るのが大好きなのだ。
そんな幸せな昔の思い出に浸りながら帰路に着いた。
帰宅後、早速準備に取り掛かる。あまり器用ではない玖音は包丁で指を切ったり火傷もしてしまった。火傷したところや切ったところがジンジンと痛む。片手では消毒も絆創膏を上手く貼ることも出来なくて不甲斐なさに泣きそうになる。
適当に消毒を済ませ、また料理に取り掛かることにした。
ジンジンとした痛みはあるが秋人さんが喜んでくれるかもしれないと思えば気にならなかった。
その後も色々とあったがなんとか作り終えた。
ハンバーグは少し焦げて崩れてる、唐揚げは作るのが難しいと判断してしょうがないけど惣菜のものにした。サラダは切って盛り付けただけだから一番いい出来だ。ポトフは秋人が作ってくれるものとは味が違うが食べれなくはない。初めてにしては上出来だ。
テーブルに料理を並べてプレゼントと手紙をソファの上に置く。
お祝いの準備は整った。秋人さんが喜んでくれて笑ってくれるかも、仲直りしてくれるかも、と秋人の帰りを心待ちにしていた。
今日の9時頃秋人さんに[お誕生日おめでとう。今日ははやく帰って来れる?]とLINEを残していたが20時になっても未だに既読がつくことは無かった。
21時
[今日も遅くなる?]
22時
[忙しい?これみたら連絡ください。]
23時
[不在着信]
未だに既読もつかないし折り返しの電話もない。
もうすぐ今日が終わってしまう。椅子に座り冷めた料理達を見つめる。
……本当に嫌われちゃったのかな。もう帰ってこないかもしれない。今他の誰かに祝って貰っているのかもしれない。俺の事もう要らないのかも。
……あの時ちゃんと連絡していればこんなことにはならなかったのに。本当は今日一緒に遊園地に行って沢山遊んで笑って少し贅沢な料理を食べて家に帰ったら沢山イチャイチャできたのかな。初めて好きな人の誕生日を祝うんだ。最高の思い出にしたかったのに。俺が壊してしまった。俺のせい、自業自得だ。
ネガティブな思考に陥り、悶々としているといつの間にか0時を回っていた。
ハッとして携帯を見てみるが秋人から一切連絡は来なかった。
玖音はそれでも秋人を待ち続けた。
時計のチクタクという音がやけに大きく聞こえる。
冷めてしまった料理たちは作った時の美味しそうな匂いはもうしていなかった。
1時
「不在着信」
2時
「不在着信」
3時
「……!」
1時間おきにかけていた電話が繋がることなく3時になる。諦め半分で電話をかけるといつもとは違い電話をとる音が聞こえた。
「もしもし!あ、あき…」
「こんな夜中に誰ですかぁ?」
「え…」
聞こえてきたのは秋人の声ではなく酔っているような女性の声だった。一瞬で絶望に叩き落とされる。
……なんで、女の人が………?
「……あ、え、えと、、秋人さんのど、同居人の氷室と言います…‥あ、秋人さんはいますか…?」
「あ〜同居人の方ですか!秋人はぁ今私の隣で寝てますよ?今日はもう帰らないと思いますよぉ」
ふふっと楽しそうな女性の声に心臓がバクバクと鳴り目の前が真っ暗になっていく。嘘だと思いたかったが秋人さんの「佐藤……?誰…?」というかすれた声が聞こえて現実を突きつけられる。
どんどん声が遠のいていく。
目の前が暗くなって何も見えない。息ができない。
電話を切ることもせずその場にスマホを置いたままフラフラとベランダに向かった。
小さい頃から嫌なことがあると夜風に当たりたくなってよくべランダでうづくまっていた。
誰にも相談できず塞ぎ込んでしまう性格の玖音はそうやって苦しいことからどうにか逃げていた。
大きくなってからもその癖は治らず今も嫌なことや悲しいことがあればベランダでうづくまっている。
秋人と同棲を始めてからは秋人に風邪をひくよ、と途中で抱きしめられ、部屋の中で寝れるまで頭を撫でながら体を優しくぽんぽん、と子供をねかしつけるように叩いてくれていた。
塞ぎこまないで相談してくれてもいいのに、と優しく声をかけてくれた。何も言えなくても分かっているように頭を撫でてくれた。
秋人の温もりと優しさにいつも助けられていた。
今はそうしてくれる大好きな人はいない。
自分の行いで手放してしまった。
嫌だ秋人さんに嫌われたくないこれからも一緒にいたい。
………でももう秋人さんは俺のことなんかもう好きじゃないのかも。
「ごめ、んなさい、きら、わ、れたく、ない」
夜に1人気持ちが沈んだまま後悔に頭が埋め尽くされてとても悲しくなってしまった。とめどなく溢れてくる涙は止まらない。女性と一緒にいることが分かり今まで我慢していた分の涙が全て流れているようだった。
「あ、いたい、よ…、」
涙を流しながら秋人に募らせた思いを1つづつ口に出す。
こんなことになるならあの日、真っ直ぐ家に帰ればよかった。別れよう、と言われたらどうしよう。好きな人が出来た、と女の人を連れてきたらどうすれば。
俺はきっと悲しくて辛くて壊れてしまう。死んでしまうかもしれない。
別れを受け入れるしかないと思っていたけどいざ現実になってしまうと受け入れるのは難しそうだ。
胸が痛くて締め付けられる助けて欲しい誰か助けて。
それでも今は頭を撫でてくれる手も抱きしめてくれる身体も優しく声をかけてくれる人はいない。
玖音はただ一人泣くことしかできなかった。
喧嘩の原因は自分だ。
その日は久々に大学生の友人達と飲み会になった。居酒屋で飲んだあと友人の家でまた飲み直すことになった。
話も弾み、酒が回るのも早くなり、そのまま友人の家で寝落ちしてしまったのだ。
1番酔いやすく、最初に寝たのが俺だった。
そのまま起きることなく友人を抱きしめながら寝ていたらしい。起きていた友人がそれを俺のスマホで撮影しており、間違えてその写真を恋人である秋人に送ってしまっていたのだ。
ーーー
俺は早朝の4時頃に目が覚め、スマホを確認すると秋人さんからの100件以上のメッセージと20件以上の着信が入っていた。
やばいと思い、寝ぼけながらも謝罪と今から帰ると連絡を入れ慌てて家に帰った。
「ご、ごめんなさ」
「…他の男と寝るの楽しかった?」
「え?」
ドアを開けると壁にもたれながら腕を組んでいる秋人がいた。
謝罪を遮られ他の男と寝たなんて記憶にない事を言われて動揺した。
「その、友達の家で飲んでて、そのまま寝落ちしちゃったみたいで………。本当にごめんなさい。」
「…………連絡も無しに男の家に泊まってきたの。……浮気でもした?」
「っ違う!浮気なんてする訳ないっ!」
いつも温厚な秋人さんに冷たくそんなこと言われると思ってなくて動揺して涙がにじむ。
「どうだか。じゃあこの写真はなんだよ。」
秋人は写真を見せてきた。
記憶が曖昧でこんな写真いつ撮ったのかもわからず玖音自身も驚いてしまった。
「ち、違くて、俺も記憶が曖昧だからわかんないけど、本当にただの友達で、浮気なんて、」
「…言い訳はどうとでも言えるよね?それに浮気じゃなかったとしてもこの人に抱きついてるのは玖音でしょ?普段俺には抱きついてこないくせにこの人には出来るんだ?」
「そ、それは」
責め立てるような声色でいつもの優しい秋人さんとは違う雰囲気に怯んでしまう。
「……はぁ、もういいよ。明日朝からバイトだから寝る。心配して損した。」
「っ…」
深くため息をついて寝室へと向かってしまった。
あんな風に秋人さんから冷たい目を向けられることがなかった。そのせいで怯んで何も言葉が出なかった。
涙がにじんでその場から動けなかった。
秋人さんの寝室に入る勇気もなくその日は自室で声を押し殺して泣いた。
それからは必要最低限の義務的な会話だけで、おはよう、おやすみと声をかけても無視され更には秋人の帰りはいつも0時をすぎるようになっていた。
いつもだったら20時頃には帰ってきてくれていたのに。
不安になりこんな時間まで何をしているのか聞いても「玖音に関係あるの?」といわれ、そのまま無視されてしまう。
喧嘩する前は秋人さんの寝室のベッドに2人で寝ていたが喧嘩の後は俺がいつものようにベッドで待っていると秋人さんは一緒に寝たくないようで眉間に皺を寄せ寝室を後にした。
それが堪らなく悲しくて心にグサグサと刺さった。それからは秋人さんの迷惑になりたくないし、あの目が怖くて自室のベッドで寝るようになった。いつも一緒に寝ていたのに慣れていたせいか久しぶりに1人で寝るのは寂しくて寝付きも悪くなり、悪夢もよく見るようになってしまいちゃんと寝れることが少なくなっていた。
毎日、連絡することを忘れたこと、無断で外泊したこと、他の男に抱きついて寝てしまったことを後悔する。
謝ってもまるでその場にいないかのように無視され他の誰かと楽しそうに電話を始めてしまう。飲みに誘われればそのままついて行ってしまう。行かないで、とも言えずそのまま見送ることしか出来なかった。その度に胸が押しつぶされそうなり、涙がでる。
元々ノンケの秋人が女性もいる飲み会に行くことが不安で仕方がなかった。
秋人さんはすごく怒ってる。当然だ。秋人さんの方からしたら男の家に行き、朝帰りしてきたのだ。いくら謝っても浮気と思われても仕方がない。全部自業自得だ。
もし、別れを告げられることがあっても受け入れるしかないのかもしれない。
それから1ヶ月が経とうとしていた。仲直りも出来ないままだしこちらから別れなど告げれる訳もなく、状態は変わらないまま秋人さんの誕生日になってしまった。
喧嘩をする前は少し遠出をして一緒に過ごそうと話をしていた。それも白紙になってしまったけど。
それでも秋人さんの誕生日を祝いたいし、仲直りもしたくて、お祝いの準備をすることにした。
プレゼントは前から欲しいと言っていた腕時計とお揃いのマグカップを買った。
シンプルなデザインのものを探しているとちょうどマグカップにイニシャルが入ったデザインのものを見つけた。秋人の「A」が入った藍色のマグカップと玖音の「K」が入った薄緑色のマグカップを買った。
今の秋人さんが喜んでくれるかどうかは分からない。けど、仲直りした後ならきっと喜んで使ってくれる。
…もし、いらないと言われても直ぐに捨てられる。
玖音は少し不安になりながらも喜んでくれることを信じて梱包されたマグカップを手に店を後にした。
それからスーパーで材料を買って料理を作ることにした。
普段料理を全くしないためスマホでレシピを見ながら材料を購入していく。秋人さんはハンバーグ、唐揚げが好きだからその2品とサラダ、ポトフを作ることにした。
ポトフは秋人が初めて振る舞ってくれた思い出深い料理だ。
本当は秋人さんに教えてもらいたかったけどしょうがない。味付けが違うかもしれないがレシピに書いてあるものを作ることにした。
最後に秋人さんの好きなケーキ屋で好物のフルーツタルトを買った。ここのフルーツタルトはすごく美味しいんだ、玖音にも食べて欲しい、と付き合い始めた頃に秋人さんが買ってくれたのだ。
それから玖音もそのケーキ屋のフルーツタルトが大好物になった。普段大人っぽくてかっこいい秋人さんが口いっぱいにケーキを頬張る可愛らしい姿を見るのが大好きなのだ。
そんな幸せな昔の思い出に浸りながら帰路に着いた。
帰宅後、早速準備に取り掛かる。あまり器用ではない玖音は包丁で指を切ったり火傷もしてしまった。火傷したところや切ったところがジンジンと痛む。片手では消毒も絆創膏を上手く貼ることも出来なくて不甲斐なさに泣きそうになる。
適当に消毒を済ませ、また料理に取り掛かることにした。
ジンジンとした痛みはあるが秋人さんが喜んでくれるかもしれないと思えば気にならなかった。
その後も色々とあったがなんとか作り終えた。
ハンバーグは少し焦げて崩れてる、唐揚げは作るのが難しいと判断してしょうがないけど惣菜のものにした。サラダは切って盛り付けただけだから一番いい出来だ。ポトフは秋人が作ってくれるものとは味が違うが食べれなくはない。初めてにしては上出来だ。
テーブルに料理を並べてプレゼントと手紙をソファの上に置く。
お祝いの準備は整った。秋人さんが喜んでくれて笑ってくれるかも、仲直りしてくれるかも、と秋人の帰りを心待ちにしていた。
今日の9時頃秋人さんに[お誕生日おめでとう。今日ははやく帰って来れる?]とLINEを残していたが20時になっても未だに既読がつくことは無かった。
21時
[今日も遅くなる?]
22時
[忙しい?これみたら連絡ください。]
23時
[不在着信]
未だに既読もつかないし折り返しの電話もない。
もうすぐ今日が終わってしまう。椅子に座り冷めた料理達を見つめる。
……本当に嫌われちゃったのかな。もう帰ってこないかもしれない。今他の誰かに祝って貰っているのかもしれない。俺の事もう要らないのかも。
……あの時ちゃんと連絡していればこんなことにはならなかったのに。本当は今日一緒に遊園地に行って沢山遊んで笑って少し贅沢な料理を食べて家に帰ったら沢山イチャイチャできたのかな。初めて好きな人の誕生日を祝うんだ。最高の思い出にしたかったのに。俺が壊してしまった。俺のせい、自業自得だ。
ネガティブな思考に陥り、悶々としているといつの間にか0時を回っていた。
ハッとして携帯を見てみるが秋人から一切連絡は来なかった。
玖音はそれでも秋人を待ち続けた。
時計のチクタクという音がやけに大きく聞こえる。
冷めてしまった料理たちは作った時の美味しそうな匂いはもうしていなかった。
1時
「不在着信」
2時
「不在着信」
3時
「……!」
1時間おきにかけていた電話が繋がることなく3時になる。諦め半分で電話をかけるといつもとは違い電話をとる音が聞こえた。
「もしもし!あ、あき…」
「こんな夜中に誰ですかぁ?」
「え…」
聞こえてきたのは秋人の声ではなく酔っているような女性の声だった。一瞬で絶望に叩き落とされる。
……なんで、女の人が………?
「……あ、え、えと、、秋人さんのど、同居人の氷室と言います…‥あ、秋人さんはいますか…?」
「あ〜同居人の方ですか!秋人はぁ今私の隣で寝てますよ?今日はもう帰らないと思いますよぉ」
ふふっと楽しそうな女性の声に心臓がバクバクと鳴り目の前が真っ暗になっていく。嘘だと思いたかったが秋人さんの「佐藤……?誰…?」というかすれた声が聞こえて現実を突きつけられる。
どんどん声が遠のいていく。
目の前が暗くなって何も見えない。息ができない。
電話を切ることもせずその場にスマホを置いたままフラフラとベランダに向かった。
小さい頃から嫌なことがあると夜風に当たりたくなってよくべランダでうづくまっていた。
誰にも相談できず塞ぎ込んでしまう性格の玖音はそうやって苦しいことからどうにか逃げていた。
大きくなってからもその癖は治らず今も嫌なことや悲しいことがあればベランダでうづくまっている。
秋人と同棲を始めてからは秋人に風邪をひくよ、と途中で抱きしめられ、部屋の中で寝れるまで頭を撫でながら体を優しくぽんぽん、と子供をねかしつけるように叩いてくれていた。
塞ぎこまないで相談してくれてもいいのに、と優しく声をかけてくれた。何も言えなくても分かっているように頭を撫でてくれた。
秋人の温もりと優しさにいつも助けられていた。
今はそうしてくれる大好きな人はいない。
自分の行いで手放してしまった。
嫌だ秋人さんに嫌われたくないこれからも一緒にいたい。
………でももう秋人さんは俺のことなんかもう好きじゃないのかも。
「ごめ、んなさい、きら、わ、れたく、ない」
夜に1人気持ちが沈んだまま後悔に頭が埋め尽くされてとても悲しくなってしまった。とめどなく溢れてくる涙は止まらない。女性と一緒にいることが分かり今まで我慢していた分の涙が全て流れているようだった。
「あ、いたい、よ…、」
涙を流しながら秋人に募らせた思いを1つづつ口に出す。
こんなことになるならあの日、真っ直ぐ家に帰ればよかった。別れよう、と言われたらどうしよう。好きな人が出来た、と女の人を連れてきたらどうすれば。
俺はきっと悲しくて辛くて壊れてしまう。死んでしまうかもしれない。
別れを受け入れるしかないと思っていたけどいざ現実になってしまうと受け入れるのは難しそうだ。
胸が痛くて締め付けられる助けて欲しい誰か助けて。
それでも今は頭を撫でてくれる手も抱きしめてくれる身体も優しく声をかけてくれる人はいない。
玖音はただ一人泣くことしかできなかった。

