君の1番になりたい

「考え事?大丈夫?」

「ううん、なんでもないよ、帰ろ」

空白のままの進路希望の紙をファイルに入れる。

侑李は忙しいから昼休みか帰りくらいしかちゃんと話せない。
最初は隼斗の帰りが遅くなるからと帰りを待つことを断られていたが俺が一緒にいたいからと伝えれば、抱きしめてありがとうと言ってくれた。
侑李の家は学校から近い場所に引っ越してきたから自然と俺の家からも近くなった。

それからは用事がない限りは一緒に帰るようになり、たまにお互いの家で遊ぶようになった。

教室を出ると先生がいて、声をかけられる。

「三者面談の日程そろそろ分からないか?
あと西川だけなんだ。」

「あの、やっぱ両親忙しいみたいで…。
今回も俺だけっていうのは無理ですか。」

「う~~~ん。今までも1度も来てないんだろ……?家で話したりしてるか?」

三者面談なんて今まで1度も来てくれたことなんてない。
中学生の頃、「あんたに割いてる時間ない」と言われてから頼れる親戚なんかもいないから三者面談は俺一人で参加していた。

「忙しそうにしてるので。」

「そうか……。わかった今回も西川だけにはなるが参加してもらうよ。」

「すみません、お願いします。」

担任から解放されて侑李の方を見ると心配そうな顔をしていた。

「ごめんこんなとこ見せて。」

「ううん、仕方ないよ。」

微笑んで頭を撫でてくる侑李に身を委ねたくなる。
俺はずっと情けなくて唇を噛み締めた。

「あ、今度の土曜日部活休みなんだ。久々にデートしない?」

「え、でも疲れてないか?」

「大丈夫!それより隼斗と一緒にいたいから。」

侑李はドキっとする言葉を平然と言ってのけるから俺はずっとドキドキしっぱなしだ。
顔が火照るのを感じる。

「俺も楽しみにしてる。」

そうして帰り道の分かれ道まで他愛もない話をして最後にはキスをしてくれた。

こんな学校の前で、と怒ろうとしたのに侑李の顔を見たら怒れなかった。
侑李といるだけで俺は嬉しくて心臓が弾け飛びそうになる。

「デート、楽しみだな……」

1人にやけた顔もそのままに帰路についた。

家に帰っても空欄のままの進路希望の紙と睨めっこだ。

行きたい大学はあるけど大学のお金を出してくれるとは思えなかった。
そうなると奨学金……。
ここもいつ出て行けと言われるか分からない。
そうなると一人暮らしの資金もいる。
今からアルバイトして貯めればそれなりの金額になるだろうか。

大学のことなど何も分からないのに立ちはだかる沢山の壁。
バイトと受験勉強の両立。
親との進路の相談。

胃がキリキリと痛む。
全てが初めてでどうしたらいいか分からなかった。
とりあえず進路希望は第1希望の大学、次に就職にした。

侑李はどうしたんだろう。
俺の希望した大学は侑李も第1で希望していたと思う。
勿論それだけの理由で決めた訳では無いけど希望する理由の一つでもあった。
だから俺には少しハードルが高かった。
必死で勉強して入れるぐらいだ。
だからこそバイトとの両立ができるかも不安だ。

「はぁ…。」

こんな時、親が協力的になってくれたら。
でも俺の親が俺の為になにかする、と言うことはない。
世間体が気になるのかお金は出してくれているから何とか生きてこれた。

でももう大人だからと言われればここを出ていけと言われるかもしれない。

何もかもがどうなるか分からない。
先生や侑李に助けを求めたいけど心配をかけたくないし親に話が行くのも嫌で。

「俺、どうしたらいいんだろ。」

独り言に答えてくれる誰かなんて居ない。

ただ気持ちが沈んでいくだけだとこのことを考えるのは今日はやめにする。

お手伝いさんが作ってくれた夕飯を温めて食べる。

ピロン、とスマホの通知がなり画面を見れば侑李からだった。

〚今大丈夫?〛

〚うん。ご飯食べてた所〛

そう返すとすぐ既読になって電話がかかってきた。

『もしもし?』

「どうしたの?」

『どうもしないんだけどなんか声聞きたくなっちゃった。』

侑李はそう言ってへへ、と笑った。

『最近忙しくてあんまり隼人に会えないから。ごめんね。』

「ううん、嬉しい。」

侑李からの電話に悩んでいたことが全部吹き飛んだ。

『今度のデートどこ行きたい?』

「う~ん、あじゃあ水族館行かない?」

『俺たちの出会いの場所じゃん。いいよ、行こう。』

そんな話をしながら風呂も寝る時もずっと電話を繋げた。
朝起きた時に寝起きの声が聞こえてきて、幸せだな、と思った。

「おはよ。」

「おはよう。なんか変な感じ。」

さっきまでずっと通話してた相手だから面と向かって話すのがなんだか不思議だった。