荒涼としたグラウンドの中心で、激しい金属音と打撃音が鳴り響いていた。
戦局は誰の目から見ても明らかであり、烏廻がインヴィを一方的に圧倒していた。
「…クッソ! いい気になるなよ……っ!」
インヴィのこめかみにはピキピキと太い血管が浮かび上がり、その顔面は溢れ出る怒りと屈辱で激しく歪んでいる。全身の至るところが打撃と斬撃でボロボロに引き裂かれ、紫色の衣服からは赤黒い血が流れていた。
対する烏廻は、両手に握った二本の剣を静かに下ろしたまま立っている。その衣類には傷一つなく、激しい戦闘を繰り広げた直後だというのに、汗ひとつかいていなかった。
「……しばらくやって分かったろ。お前じゃ、俺には勝てない」
「はぁ!? 何言ってんの!? 僕が本気出してるとでも思ったわけ!? だったら馬鹿にも程があるでしょ!」
インヴィは甲高い声で叫び、悔しそうに歯を剥き出しにする。しかし、烏廻の眼差しは冷ややかで、静まり返った湖面のように揺るぎない。
「勘違いしてるようだが……本気を出したところで勝てないって言ってんだ」
「――ッ!?」
烏廻が踏み込んだ瞬間、その姿が霧のように消失した。
インヴィの優れた動体視力をもってしても、その初動すら捉えられない。烏廻は一瞬にしてインヴィの懐深くへと侵入していた。
「四神流・白虎ノ型――【蓮牙】」
交差する二条の銀閃。
烏廻は右手の剣を左から、左手の剣を右から、交差させるように水平に一閃し、インヴィの腹部を高速で切り裂いた。
「ぐっ……!?」
衝撃と激痛に驚愕したインヴィは、半ば悲鳴を上げながら慌てて後方へと大きく跳躍した。
しかし、回避は間に合っていなかった。鋭い斬撃はインヴィの腹部を深く捉えており、着地と同時に傷口から鮮血が激しく吹き出す。インヴィは腹を押さえ、激しい苦痛に耐えかねて片膝をついた。
「……分かったろ」
見下ろすような烏廻の平淡な声に、インヴィは血走った目で強烈に睨み返す。
「…まだだ……っ! まだ終わってない! 僕が本気を出せば、お前なんて一瞬で……!」
「出せよ」
「え……?」
予想もしなかった烏廻の短い返答に、インヴィは思わず目を見開いた。
「聞こえなかったか? 本気を出しても構わないって言ってんだ。別に止めやしねぇよ」
烏廻は急かす風でもなく、淡々とそう言い放つ。その徹底した「余裕」こそが、インヴィの自尊心をズタズタに引き裂いた。
「どこまでも舐めやがって……! でもいいさ、僕を虚仮にしたこと、死ぬほど後悔させてやるよ……!」
インヴィの表情から激怒が消え、代わりに底知れない歪んだ不気味な笑みが浮かび上がる。彼はゆっくりと立ち上がると、両腕を大きく広げて低く妖しい声を響かせ始めた。
「汝、我が声に応えよ。闇より生まれ、来たりし大いなる罪よ……万物を嫉み尽くす、大罪が一つ、嫉妬の罪」
インヴィの足元を中心に、禍々しい紫色の魔法陣が地表を抉りながらどこまでも広がっていく。重苦しい魔力の重圧が空間を押し潰すが、烏廻はその光景を静かに、無言で見つめ続けていた。
「……妬め、レヴィアタン」
詩を紡ぐような言葉が完遂された瞬間、魔法陣が爆発的な輝きを放った。
「〈悪魔融合〉――ッ!!」
どす黒い紫光の奔流が吹き上がり、インヴィの全身を包み込んでいく。
光の眩しさに烏廻は微かに目を細めたが、その視線は一度たりとも逸らされることなく、真剣な眼差しで敵の変化を見極めていた。
「ハハッ! ハハハハッ!! これが僕の本当の力だよ!!」
狂気じみた高笑いと共に光が収まると、そこには以前の面影をほとんど残していない、怪物じみたインヴィの姿があった。
彼の全身は硬質な紫色の鱗で隙間なく覆われ、頭部からは邪悪にねじ曲がった二対の角が天に向かって伸びている。両手足には岩をも容易く引き裂くであろう鋭利な鉤爪が備わり、背後からは濃厚な毒気を含んだ禍々しいオーラが爆発的に噴き出していた。
「……」
烏廻は二本の剣を握り直したまま、言葉を発することなくその異形を見つめる。
「ふん、怖気づいて声も出ない? まあ、後悔したって言ってももう遅いけどね」
インヴィは自らの肉体に宿る絶大な魔力に心酔するように、胸を張って己の力を誇示した。
「これでお前を殺す準備ができたよ。――覚悟しろ」
言葉が終わるか終わらないかの瞬間。
バンッ!!という空気を破裂させる音と共にインヴィの姿が消失し、次の瞬間には音もなく烏廻の背後へと回り込んでいた。
(速――!)
背後から振り下ろされる、必殺の鉤爪。
烏廻は本能的な危機察知で咄嗟に身体を反転させ、後ろへと跳躍して回避を試みる。
バシッ!!
間一髪で直撃こそ免れたものの、あまりの速度に完全に躱しきることはできず、烏廻の左腕の袖が引き裂かれ、薄皮を一枚掠めた浅い傷から血が滲んだ。
「ハッ! よく今のを避けたね! だけど、次はどうかな!?」
インヴィが再び嘲笑うと同時に、その姿が完全に消える。
空間を歪ませるほどの超高速移動。
(速いな……)
先程までとは比較にならない速度で、前後左右、全方位から容赦ない連撃が襲いかかる。
肉眼では到底捉えきれない鋭い爪の閃光。しかし、烏廻は寸前の見極めと巧みな身のこなしで、そのすべての死の刃を間一髪で回避し続けていた。
「ほらどうした!? 避けるだけで反撃すらしてこないのかい!?」
インヴィの攻撃は衰えるどころか、激しい殺意とともに速度を増していく。激しい風圧がグラウンドの土を巻き上げ、烏廻の視界を塞ぐ。
「……チッ」
絶え間ない猛攻の中、遂に烏廻の口から小さな舌打ちが漏れた。
「フフッ、無駄だよ! 君の動きなんて、今の僕には全て見えてるんだからさ!」
舌打ちを聞いたインヴィは、烏廻が追い詰められたのだと解釈し、完全な勝利を確信したように歪んだ笑みを深める。
そして、烏廻の喉笛を深々と抉り取らんと、渾身の力を込めた爪を突き出した。
その直前――。
烏廻は地面を強く踏み締めると、驚異的な反応速度で大きくバックステップを敢行し、一瞬でインヴィの間合いの外へと脱出した。
「……ふぅ」
数メートル離れた位置に着地した烏廻は、一度深く息を吐き出し、胸の内に残る雑念を吐き出すように肺を整理した。
そして、両手で二本の剣を正眼に構え直す。
その瞳には、先ほどまでの冷ややかな「あしらい」ではなく、鋭利な刃物のように澄み渡った真剣な光が宿っていた。
「……少し、本気で相手してやる」
烏廻は静かに、だが戦場全体を震わせるほどの威圧感を伴って、まっすぐにインヴィを見据えた。
「だからお前も、全力で来い」
戦局は誰の目から見ても明らかであり、烏廻がインヴィを一方的に圧倒していた。
「…クッソ! いい気になるなよ……っ!」
インヴィのこめかみにはピキピキと太い血管が浮かび上がり、その顔面は溢れ出る怒りと屈辱で激しく歪んでいる。全身の至るところが打撃と斬撃でボロボロに引き裂かれ、紫色の衣服からは赤黒い血が流れていた。
対する烏廻は、両手に握った二本の剣を静かに下ろしたまま立っている。その衣類には傷一つなく、激しい戦闘を繰り広げた直後だというのに、汗ひとつかいていなかった。
「……しばらくやって分かったろ。お前じゃ、俺には勝てない」
「はぁ!? 何言ってんの!? 僕が本気出してるとでも思ったわけ!? だったら馬鹿にも程があるでしょ!」
インヴィは甲高い声で叫び、悔しそうに歯を剥き出しにする。しかし、烏廻の眼差しは冷ややかで、静まり返った湖面のように揺るぎない。
「勘違いしてるようだが……本気を出したところで勝てないって言ってんだ」
「――ッ!?」
烏廻が踏み込んだ瞬間、その姿が霧のように消失した。
インヴィの優れた動体視力をもってしても、その初動すら捉えられない。烏廻は一瞬にしてインヴィの懐深くへと侵入していた。
「四神流・白虎ノ型――【蓮牙】」
交差する二条の銀閃。
烏廻は右手の剣を左から、左手の剣を右から、交差させるように水平に一閃し、インヴィの腹部を高速で切り裂いた。
「ぐっ……!?」
衝撃と激痛に驚愕したインヴィは、半ば悲鳴を上げながら慌てて後方へと大きく跳躍した。
しかし、回避は間に合っていなかった。鋭い斬撃はインヴィの腹部を深く捉えており、着地と同時に傷口から鮮血が激しく吹き出す。インヴィは腹を押さえ、激しい苦痛に耐えかねて片膝をついた。
「……分かったろ」
見下ろすような烏廻の平淡な声に、インヴィは血走った目で強烈に睨み返す。
「…まだだ……っ! まだ終わってない! 僕が本気を出せば、お前なんて一瞬で……!」
「出せよ」
「え……?」
予想もしなかった烏廻の短い返答に、インヴィは思わず目を見開いた。
「聞こえなかったか? 本気を出しても構わないって言ってんだ。別に止めやしねぇよ」
烏廻は急かす風でもなく、淡々とそう言い放つ。その徹底した「余裕」こそが、インヴィの自尊心をズタズタに引き裂いた。
「どこまでも舐めやがって……! でもいいさ、僕を虚仮にしたこと、死ぬほど後悔させてやるよ……!」
インヴィの表情から激怒が消え、代わりに底知れない歪んだ不気味な笑みが浮かび上がる。彼はゆっくりと立ち上がると、両腕を大きく広げて低く妖しい声を響かせ始めた。
「汝、我が声に応えよ。闇より生まれ、来たりし大いなる罪よ……万物を嫉み尽くす、大罪が一つ、嫉妬の罪」
インヴィの足元を中心に、禍々しい紫色の魔法陣が地表を抉りながらどこまでも広がっていく。重苦しい魔力の重圧が空間を押し潰すが、烏廻はその光景を静かに、無言で見つめ続けていた。
「……妬め、レヴィアタン」
詩を紡ぐような言葉が完遂された瞬間、魔法陣が爆発的な輝きを放った。
「〈悪魔融合〉――ッ!!」
どす黒い紫光の奔流が吹き上がり、インヴィの全身を包み込んでいく。
光の眩しさに烏廻は微かに目を細めたが、その視線は一度たりとも逸らされることなく、真剣な眼差しで敵の変化を見極めていた。
「ハハッ! ハハハハッ!! これが僕の本当の力だよ!!」
狂気じみた高笑いと共に光が収まると、そこには以前の面影をほとんど残していない、怪物じみたインヴィの姿があった。
彼の全身は硬質な紫色の鱗で隙間なく覆われ、頭部からは邪悪にねじ曲がった二対の角が天に向かって伸びている。両手足には岩をも容易く引き裂くであろう鋭利な鉤爪が備わり、背後からは濃厚な毒気を含んだ禍々しいオーラが爆発的に噴き出していた。
「……」
烏廻は二本の剣を握り直したまま、言葉を発することなくその異形を見つめる。
「ふん、怖気づいて声も出ない? まあ、後悔したって言ってももう遅いけどね」
インヴィは自らの肉体に宿る絶大な魔力に心酔するように、胸を張って己の力を誇示した。
「これでお前を殺す準備ができたよ。――覚悟しろ」
言葉が終わるか終わらないかの瞬間。
バンッ!!という空気を破裂させる音と共にインヴィの姿が消失し、次の瞬間には音もなく烏廻の背後へと回り込んでいた。
(速――!)
背後から振り下ろされる、必殺の鉤爪。
烏廻は本能的な危機察知で咄嗟に身体を反転させ、後ろへと跳躍して回避を試みる。
バシッ!!
間一髪で直撃こそ免れたものの、あまりの速度に完全に躱しきることはできず、烏廻の左腕の袖が引き裂かれ、薄皮を一枚掠めた浅い傷から血が滲んだ。
「ハッ! よく今のを避けたね! だけど、次はどうかな!?」
インヴィが再び嘲笑うと同時に、その姿が完全に消える。
空間を歪ませるほどの超高速移動。
(速いな……)
先程までとは比較にならない速度で、前後左右、全方位から容赦ない連撃が襲いかかる。
肉眼では到底捉えきれない鋭い爪の閃光。しかし、烏廻は寸前の見極めと巧みな身のこなしで、そのすべての死の刃を間一髪で回避し続けていた。
「ほらどうした!? 避けるだけで反撃すらしてこないのかい!?」
インヴィの攻撃は衰えるどころか、激しい殺意とともに速度を増していく。激しい風圧がグラウンドの土を巻き上げ、烏廻の視界を塞ぐ。
「……チッ」
絶え間ない猛攻の中、遂に烏廻の口から小さな舌打ちが漏れた。
「フフッ、無駄だよ! 君の動きなんて、今の僕には全て見えてるんだからさ!」
舌打ちを聞いたインヴィは、烏廻が追い詰められたのだと解釈し、完全な勝利を確信したように歪んだ笑みを深める。
そして、烏廻の喉笛を深々と抉り取らんと、渾身の力を込めた爪を突き出した。
その直前――。
烏廻は地面を強く踏み締めると、驚異的な反応速度で大きくバックステップを敢行し、一瞬でインヴィの間合いの外へと脱出した。
「……ふぅ」
数メートル離れた位置に着地した烏廻は、一度深く息を吐き出し、胸の内に残る雑念を吐き出すように肺を整理した。
そして、両手で二本の剣を正眼に構え直す。
その瞳には、先ほどまでの冷ややかな「あしらい」ではなく、鋭利な刃物のように澄み渡った真剣な光が宿っていた。
「……少し、本気で相手してやる」
烏廻は静かに、だが戦場全体を震わせるほどの威圧感を伴って、まっすぐにインヴィを見据えた。
「だからお前も、全力で来い」
