「……行ったんですよね?」
楓が、静まり返った隠し部屋の扉を見つめながら烏廻に確認する。
「ああ。安心しろ……後は、あいつが勝って帰ってくるのを待つだけだ」
「……さて、皆さん。そろそろ部屋から出ましょうか」
桜は、先程まで隼人や楓に見せていた『母親』としての柔らかな表情を引き締め、冷徹で威厳のある『学園長』の顔へと切り替えた。
四人は隠し部屋を後にし、学園長室へと戻る。
「大丈夫なのよね、母さん」
「ええ。あの部屋には何重にも強力な結界魔法を掛けているから、そう簡単には破られません。……それから楓、今はちゃんと『学園長』と呼びなさい」
「はーい」
楓は桜の小言に、とりあえず気の抜けた返事だけを返しておいた。
「あれから、侵入者の気配とかはあるんですか?」
優斗が、窓の外の景色に目を向けながら烏廻と桜に問いかける。
「いや、全くねえな。こっちも色々探りを入れてるんだが、見事に尻尾も掴ませねえ」
「そうですか……」
「まあ、近いうちに必ず襲撃に来るだろうとは思ってんだが――」
――ビーーーーーッ!! ビーーーーーッ!!
烏廻が言い終わるか終わらないかの瞬間、突如として学園中にけたたましい警報音が鳴り響いた。
「まさか……!」
「チッ……近いうちとは言ったが、まさか今日、このタイミングとはな」
烏廻が鋭い舌打ちをし、即座に魔力を探る。
「……敵の数は?」
「一、二、三……六か。どうやら、エスクードの情報通りだな」
「皆さん、分かっていますね」
桜が緊迫した声で告げると、三人は深く頷いた。
(それにしても、タイミングが良すぎるな。まるで桐宮が精神世界に行くのを待っていたかのようだ……。まあ、今はとにかく急がねえとな)
「俺はここから一番遠い所にいる奴の所へ飛ぶ。」
烏廻は優斗と楓にそう言い残すと、瞬時にその場から姿を消した。
「転移魔法って、ほんと便利よね」
「まあ、できないもんは仕方ない……さて、俺らも早く行こう」
楓の呟きに優斗が応え、二人は学園長室を飛び出していく。
「隼人……」
一人残された桜は、隼人が眠る隠し部屋の扉を祈るように見つめた。
「……私も、急がないとね」
数秒後、桜は決意に満ちた瞳で前を向き、颯爽と学園長室を後にした。
一方その頃。紘弥たちは、執務室で隼人を見送った後、重い足取りで帰り道を歩いていた。
「どうしたんだよお前ら、そんな暗い顔して」
前を歩いていた紘弥が振り返り、わざと明るい声でみんなに語りかける。
「……隼人君、大丈夫だよね」
みんなの不安を代弁するように、サラが紘弥に返す。
「……あいつが『帰ってくる』って言ったんだ。俺たちは、ダチの言葉を信じて待つだけだろ」
口では強がっている紘弥だが、心の中では隼人への心配で張り裂けそうだった。それでも、みんなを元気づけるために必死に笑みを浮かべていた。
「そうなんだけどさ……」
紘弥の言葉とは裏腹に、サラたちの表情はさらに沈み込んでしまう。
そんな時だった。
――ビーーーーーッ!!
突如、校舎に異常を知らせる警報が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
突然の事態に驚いたのは紘弥たちだけではない。周囲を歩いていた一般の生徒たちも足を止め、ざわめき始めている。
「……皆さん! 急いで避難場所の体育館へ向かってください!」
この警報が意味する絶望的な状況をいち早く察知したルイが、鋭い声で指示を飛ばす。
「お前、何言って――」
「敵です」
紘弥が聞き返すより早く、ルイが冷たく言い放つ。
「敵って……まさか、あの時の!?」
「ええ、そのまさかです。……ですから、皆さんは急いで避難してください」
いつもの飄々とした余裕は消え失せ、ルイの顔には張り詰めた緊張感が漂っていた。
「あんたはどうするのよ」
「私は、闘いに行きますよ」
玲奈の問いに、ルイは当然のように答える。
「だったら俺たちも――」
「いいえ、皆さんでは足手まといになります」
ルイは紘弥の言葉を遮り、ハッキリとそう言い切った。
紘弥はカッとなって言い返そうとしたが、あの決勝戦での次元の違う闘いを思い出し、何も言い返すことができなかった。
「安心してください。……私も、まだ皆さんと一緒に日常を過ごしたいですから」
ルイは微かに微笑むと、身を翻し、その場から勢いよく駆け出していった。
「……悔しいが、彼に任せるしかないだろう。僕たちも急ぐよ」
帝がギリッと奥歯を噛み締め、誰よりも悔しそうな顔で歩き出す。紘弥たちもそれに続き、指定された避難場所である体育館へ向かうため、中庭を駆け抜けていく。
「隼人君、大丈夫かな……。敵って、やっぱり隼人君の中のアースを狙ってきたんだよね?」
「多分そうだと思うけど……今度は先生たちもいるし、学園長だっている。大丈夫じゃないかな」
走りながら不安そうに呟くサラに、隣の五十嵐が懸命に言い聞かせる。
以前の襲撃時とは違い、今は学園の防衛システムも稼働しており、頼れる大人たちがいる。サラも頭では分かっているが、どうしても不安は拭えなかった。
「……そんなに心配なら、桐宮の元に行けばいい」
「え?」
不安に押し潰されそうになっているサラを見て、前を走っていた帝が声をかけた。
「もしもの時のために、近くに誰かいた方がいいかもしれないだろう」
「……確かにそうだな。よし、俺は隼人のとこに行く!」
帝の言葉を聞き、紘弥が進路を変えようとする。
「……私も行く!」
サラが紘弥に続き、玲奈も迷わずそちらへ向かおうとした。
――だが、紘弥たちが隼人のいる学園長室方面へ向かおうとした、その時だった。
「久しぶりねぇ~、坊やたち」
頭上から降ってきた甘ったるい声と共に、目の前に何者かがふわりと降り立った。
「お前は……ッ!?」
そこに立っていたのは、以前隼人を狙って襲撃してきた三人組の一人、妖艶な雰囲気を纏う女――ルクスだった。
「ちょっと、坊やたちに聞きたいことがあるんだけどぉ」
「お前に教えることなんて何もねぇ!!」
紘弥は怒号と共に〈麒麟〉を召喚し、問答無用でルクスへと引き金を引いた。
「全く、せっかちな子ねぇ。そんなんじゃ女の子にモテないわよ~?」
ルクスは嘲笑うかのように身体を揺らし、紘弥の一撃を難なく回避する。
それを見た紘弥がすぐさま追撃を仕掛けようとした瞬間。
「――待ちたまえ」
帝がサッと腕を伸ばし、紘弥の動きを制止した。
「……なんだよ、邪魔すんな!」
「君は先に、桐宮の元へ行った方がいい」
苛立つ紘弥に対し、帝はルクスに聞こえないよう声を潜めて冷静に告げた。
「何言ってんだ! あいつがどれくらいヤバい奴か分かってんだろ!」
「ああ、それは百も承知さ。……だが、敵は一人だけじゃない。こうしている間にも、無防備な桐宮に別の敵が迫っているかもしれないだろう?」
「それは……ッ! だけど、お前一人でどうこうなる相手じゃ――」
「……俺も残ろう」
今まで沈黙を守っていた黒崎が、愛銃を構えながら静かに口を開いた。
「私も残るよ」
「……(コクッ)」
五十嵐もそれに続き、ティオナも無言で力強く頷く。
「私も残る。九条君とサラちゃん、西園寺さんは、桐宮君の所に行ってあげて」
最後に橘が、笑みを浮かべて紘弥たちに言った。
「……本当に、いいのね?」
「構わないさ。……走れ!!」
帝の鋭い号令と共に、紘弥、玲奈、サラの三人は意を決してルクスの横をすり抜け、全速力で走り出した。
「……なぜ何も手を出さないんだ?」
帝が目を細め、ルクスを睨みつける。
この一連の流れの中で、ルクスが紘弥たちを攻撃する隙はいくらでもあったはずだ。それにも関わらず、彼女はただ楽しそうに傍観しているだけだった。
「坊やたちの友情ごっこがどんなものか、ちょっと見たかったのよ。それに……聞きたいことに答えてもらうのは、一人いれば十分でしょ?」
ルクスは舌なめずりをし、獲物を狙う蜘蛛のような悍ましい笑みを浮かべた。
「なるほど……」
「さて、あなたたち……私の退屈しのぎに、何分保つかしらね?」
(今はとにかく、時間を稼ぐしかない……。先生方が駆けつけるのを待つんだ)
帝が背後の四人に視線を送ると、全員が帝の意図を正確に理解し、覚悟を決めたように頷いた。
楓が、静まり返った隠し部屋の扉を見つめながら烏廻に確認する。
「ああ。安心しろ……後は、あいつが勝って帰ってくるのを待つだけだ」
「……さて、皆さん。そろそろ部屋から出ましょうか」
桜は、先程まで隼人や楓に見せていた『母親』としての柔らかな表情を引き締め、冷徹で威厳のある『学園長』の顔へと切り替えた。
四人は隠し部屋を後にし、学園長室へと戻る。
「大丈夫なのよね、母さん」
「ええ。あの部屋には何重にも強力な結界魔法を掛けているから、そう簡単には破られません。……それから楓、今はちゃんと『学園長』と呼びなさい」
「はーい」
楓は桜の小言に、とりあえず気の抜けた返事だけを返しておいた。
「あれから、侵入者の気配とかはあるんですか?」
優斗が、窓の外の景色に目を向けながら烏廻と桜に問いかける。
「いや、全くねえな。こっちも色々探りを入れてるんだが、見事に尻尾も掴ませねえ」
「そうですか……」
「まあ、近いうちに必ず襲撃に来るだろうとは思ってんだが――」
――ビーーーーーッ!! ビーーーーーッ!!
烏廻が言い終わるか終わらないかの瞬間、突如として学園中にけたたましい警報音が鳴り響いた。
「まさか……!」
「チッ……近いうちとは言ったが、まさか今日、このタイミングとはな」
烏廻が鋭い舌打ちをし、即座に魔力を探る。
「……敵の数は?」
「一、二、三……六か。どうやら、エスクードの情報通りだな」
「皆さん、分かっていますね」
桜が緊迫した声で告げると、三人は深く頷いた。
(それにしても、タイミングが良すぎるな。まるで桐宮が精神世界に行くのを待っていたかのようだ……。まあ、今はとにかく急がねえとな)
「俺はここから一番遠い所にいる奴の所へ飛ぶ。」
烏廻は優斗と楓にそう言い残すと、瞬時にその場から姿を消した。
「転移魔法って、ほんと便利よね」
「まあ、できないもんは仕方ない……さて、俺らも早く行こう」
楓の呟きに優斗が応え、二人は学園長室を飛び出していく。
「隼人……」
一人残された桜は、隼人が眠る隠し部屋の扉を祈るように見つめた。
「……私も、急がないとね」
数秒後、桜は決意に満ちた瞳で前を向き、颯爽と学園長室を後にした。
一方その頃。紘弥たちは、執務室で隼人を見送った後、重い足取りで帰り道を歩いていた。
「どうしたんだよお前ら、そんな暗い顔して」
前を歩いていた紘弥が振り返り、わざと明るい声でみんなに語りかける。
「……隼人君、大丈夫だよね」
みんなの不安を代弁するように、サラが紘弥に返す。
「……あいつが『帰ってくる』って言ったんだ。俺たちは、ダチの言葉を信じて待つだけだろ」
口では強がっている紘弥だが、心の中では隼人への心配で張り裂けそうだった。それでも、みんなを元気づけるために必死に笑みを浮かべていた。
「そうなんだけどさ……」
紘弥の言葉とは裏腹に、サラたちの表情はさらに沈み込んでしまう。
そんな時だった。
――ビーーーーーッ!!
突如、校舎に異常を知らせる警報が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
突然の事態に驚いたのは紘弥たちだけではない。周囲を歩いていた一般の生徒たちも足を止め、ざわめき始めている。
「……皆さん! 急いで避難場所の体育館へ向かってください!」
この警報が意味する絶望的な状況をいち早く察知したルイが、鋭い声で指示を飛ばす。
「お前、何言って――」
「敵です」
紘弥が聞き返すより早く、ルイが冷たく言い放つ。
「敵って……まさか、あの時の!?」
「ええ、そのまさかです。……ですから、皆さんは急いで避難してください」
いつもの飄々とした余裕は消え失せ、ルイの顔には張り詰めた緊張感が漂っていた。
「あんたはどうするのよ」
「私は、闘いに行きますよ」
玲奈の問いに、ルイは当然のように答える。
「だったら俺たちも――」
「いいえ、皆さんでは足手まといになります」
ルイは紘弥の言葉を遮り、ハッキリとそう言い切った。
紘弥はカッとなって言い返そうとしたが、あの決勝戦での次元の違う闘いを思い出し、何も言い返すことができなかった。
「安心してください。……私も、まだ皆さんと一緒に日常を過ごしたいですから」
ルイは微かに微笑むと、身を翻し、その場から勢いよく駆け出していった。
「……悔しいが、彼に任せるしかないだろう。僕たちも急ぐよ」
帝がギリッと奥歯を噛み締め、誰よりも悔しそうな顔で歩き出す。紘弥たちもそれに続き、指定された避難場所である体育館へ向かうため、中庭を駆け抜けていく。
「隼人君、大丈夫かな……。敵って、やっぱり隼人君の中のアースを狙ってきたんだよね?」
「多分そうだと思うけど……今度は先生たちもいるし、学園長だっている。大丈夫じゃないかな」
走りながら不安そうに呟くサラに、隣の五十嵐が懸命に言い聞かせる。
以前の襲撃時とは違い、今は学園の防衛システムも稼働しており、頼れる大人たちがいる。サラも頭では分かっているが、どうしても不安は拭えなかった。
「……そんなに心配なら、桐宮の元に行けばいい」
「え?」
不安に押し潰されそうになっているサラを見て、前を走っていた帝が声をかけた。
「もしもの時のために、近くに誰かいた方がいいかもしれないだろう」
「……確かにそうだな。よし、俺は隼人のとこに行く!」
帝の言葉を聞き、紘弥が進路を変えようとする。
「……私も行く!」
サラが紘弥に続き、玲奈も迷わずそちらへ向かおうとした。
――だが、紘弥たちが隼人のいる学園長室方面へ向かおうとした、その時だった。
「久しぶりねぇ~、坊やたち」
頭上から降ってきた甘ったるい声と共に、目の前に何者かがふわりと降り立った。
「お前は……ッ!?」
そこに立っていたのは、以前隼人を狙って襲撃してきた三人組の一人、妖艶な雰囲気を纏う女――ルクスだった。
「ちょっと、坊やたちに聞きたいことがあるんだけどぉ」
「お前に教えることなんて何もねぇ!!」
紘弥は怒号と共に〈麒麟〉を召喚し、問答無用でルクスへと引き金を引いた。
「全く、せっかちな子ねぇ。そんなんじゃ女の子にモテないわよ~?」
ルクスは嘲笑うかのように身体を揺らし、紘弥の一撃を難なく回避する。
それを見た紘弥がすぐさま追撃を仕掛けようとした瞬間。
「――待ちたまえ」
帝がサッと腕を伸ばし、紘弥の動きを制止した。
「……なんだよ、邪魔すんな!」
「君は先に、桐宮の元へ行った方がいい」
苛立つ紘弥に対し、帝はルクスに聞こえないよう声を潜めて冷静に告げた。
「何言ってんだ! あいつがどれくらいヤバい奴か分かってんだろ!」
「ああ、それは百も承知さ。……だが、敵は一人だけじゃない。こうしている間にも、無防備な桐宮に別の敵が迫っているかもしれないだろう?」
「それは……ッ! だけど、お前一人でどうこうなる相手じゃ――」
「……俺も残ろう」
今まで沈黙を守っていた黒崎が、愛銃を構えながら静かに口を開いた。
「私も残るよ」
「……(コクッ)」
五十嵐もそれに続き、ティオナも無言で力強く頷く。
「私も残る。九条君とサラちゃん、西園寺さんは、桐宮君の所に行ってあげて」
最後に橘が、笑みを浮かべて紘弥たちに言った。
「……本当に、いいのね?」
「構わないさ。……走れ!!」
帝の鋭い号令と共に、紘弥、玲奈、サラの三人は意を決してルクスの横をすり抜け、全速力で走り出した。
「……なぜ何も手を出さないんだ?」
帝が目を細め、ルクスを睨みつける。
この一連の流れの中で、ルクスが紘弥たちを攻撃する隙はいくらでもあったはずだ。それにも関わらず、彼女はただ楽しそうに傍観しているだけだった。
「坊やたちの友情ごっこがどんなものか、ちょっと見たかったのよ。それに……聞きたいことに答えてもらうのは、一人いれば十分でしょ?」
ルクスは舌なめずりをし、獲物を狙う蜘蛛のような悍ましい笑みを浮かべた。
「なるほど……」
「さて、あなたたち……私の退屈しのぎに、何分保つかしらね?」
(今はとにかく、時間を稼ぐしかない……。先生方が駆けつけるのを待つんだ)
帝が背後の四人に視線を送ると、全員が帝の意図を正確に理解し、覚悟を決めたように頷いた。
