烏廻先生からあの残酷な真実を聞かされた日から、丸五日が経った。
あの後、俺はいつの間にか医務室を後にし、自分の部屋に戻っていた。
正直、頭の中は完全にパニックを起こしていて、これからどうすればいいのか全く分からなくなっていた。
いや、どうするべきかなんて、闘うしかないってことは本当は分かっている。
だけど、あの化け物じみた『アース』に、今の俺が勝てるイメージなんて一ミリも湧いてこないのだ。
この五日間、俺は学園の授業にも一切出ず、薄暗い部屋に一人で籠ってずっと考え続けていた。けれど、どれだけ時間をかけても、アースと闘う覚悟なんてこれっぽっちもできなかった。
烏廻さんに言われた一週間の期限まで、あと二日か。
二日後には、俺の身体はあいつに乗っ取られて、俺という自我は死ぬ。……そういうことだよな。
「烏廻さんはああ言ってたけど……父さんは本当に、俺ならあの化け物に勝てるって思って、こんな呪いみたいなもんを託したのかよ……」
押し寄せる恐怖から逃げるように、もういっそ何も考えずに、残された時間をこのまま静かに過ごそうか。
俺が膝を抱え、そんな後ろ向きな思考に沈んでいた、その時だった。
――ピンポーン。
突然、静まり返った室内にインターホンの無機質な音が鳴り響いた。
誰だ? こんな時に。正直、今の俺は誰とも会いたくないし、喋りたくもない。
「……居留守を使おう」
布団を頭から被り、気配を殺す。
しばらく沈黙が流れた後、またインターホンが鳴った。
――ピンポーン。
そして数秒後、まるでこちらの居留守を確信しているかのように、執拗に連打され始める。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「あ~!! もう、誰だよクソッ!!」
こっちはどん底まで落ち込んで誰とも会いたくないって言ってるのに!
執拗な呼び出しにとうとう耐えきれなくなり、俺はイライラを爆発させながら乱暴に立ち上がってドアを開けた。
すると、インターホンを連打していた犯人が、悪びれもせずに目の前に立っていた。
「……よっ」
そいつは片手を軽く上げ、いつものように能天気で気楽な挨拶をしてきた。
「……なんだよ、紘弥」
俺の返事は、自分でも自覚できるほどかなり不機嫌で冷たいトーンだったと思う。
しかし、そんな俺の最悪な態度を気にする風でもなく、紘弥はいつも通りの調子で話を続けてくる。
「飯、食いに行かねえ?」
「はあ?」
あまりにも予想外すぎる誘いに、俺は思わず間の抜けた声を上げて聞き返してしまった。
「いやだから、晩飯食いに行こうぜって。それともお前、もう部屋で食べたのか?」
「いや、まだだけど……」
「だったら決まりだろ? ほら、さっさと行こうぜ」
「おい、ちょっと待てって!」
行く気なんて全くなかったはずなのに、紘弥の妙な勢いに気圧され、俺は何故か慌てて制服に着替えてしまっていた。
俺が再びドアを開けて外に出ると、紘弥は何も言わずに前を歩き始める。
お互いに何も喋らず、ただ夜の学園の敷地内を歩く。気まずい沈黙のまましばらく歩くと、目的地である広大な学園食堂に到着した。
この学園の食堂は、昼だけでなく夜も開放されている。
俺は夜は基本的に自分の部屋で自炊しているから、この時間に食堂へ来たことはなかった。
食堂の中にはポツポツと学生たちの姿があり、それぞれ晩飯を食べていた。昼間のあの戦場のような混雑と比べれば随分と席は空いているが、それでもそれなりに人はいるんだな、とぼんやり思う。
空いている席はいくらでもあるというのに、紘弥はそこには目もくれず、食堂の奥へと真っ直ぐ突き進んでいく。
「……おう、待たせたな」
紘弥がそう言って足を止めた席。そこを見た瞬間、俺の身体がぴたりと固まった。
その大きめのテーブルには、魔闘祭の代表メンバーであるクラスのみんなが全員揃って座っていたのだ。
「……」
みんなの顔を見ても、今の俺には何を話せば良いのか全く分からず、ただ無言で立ち尽くすことしかできない。
みんなも同じように、気まずそうに視線を彷徨わせて何も喋らない。ただ、食堂の遠くから聞こえる他の生徒たちの楽しげな話し声だけが、虚しく耳を通り過ぎていく。
その重苦しい静寂を、最初に破ったのはやっぱり紘弥だった。
「――お前の中の奴のこと、烏廻先生から話を聞いたぜ」
その『話』が何を意味しているのか、俺には当然分かった。みんな、俺の身体に起きている異常事態を、タイムリミットのことを知った上でここに集まったんだ。
「……そうか」
俺は小さく息を吐き、みんなを拒絶するように視線を冷たく尖らせた。
「それで? そんな絶望的な状態の俺に、一体なんの用なんだよ」
「何の用って!隼人君、そんな言い方……!」
トゲのある俺の言葉に、サラが思わず反応する。 だが、俺のあまりに冷酷な視線と目が合った瞬間、怯えたように口を閉ざしてしまった。
今の俺の表情は、きっと相当ひどいものなんだろう。自分でも、自分がどれだけ余裕のない、醜い顔をしているかが嫌というほど分かる。
このままここに居続けても、みんなに理不尽な八つ当たりをしてしまうだけだ。
みんなの気持ちは当然分かっている。俺だって反対の立場なら、大切な仲間のために何かできないかって必死になっていたはずだ。
そんなの分かっている。分かっているけど……だからって、俺はどうすればいいんだよ。
「……私が隼人君に初めて会ったのは、今から3年ほど前のことです」
張り詰めた空気の中、突然、鈴の鳴るような澄んだ声が静かに響いた。
あの後、俺はいつの間にか医務室を後にし、自分の部屋に戻っていた。
正直、頭の中は完全にパニックを起こしていて、これからどうすればいいのか全く分からなくなっていた。
いや、どうするべきかなんて、闘うしかないってことは本当は分かっている。
だけど、あの化け物じみた『アース』に、今の俺が勝てるイメージなんて一ミリも湧いてこないのだ。
この五日間、俺は学園の授業にも一切出ず、薄暗い部屋に一人で籠ってずっと考え続けていた。けれど、どれだけ時間をかけても、アースと闘う覚悟なんてこれっぽっちもできなかった。
烏廻さんに言われた一週間の期限まで、あと二日か。
二日後には、俺の身体はあいつに乗っ取られて、俺という自我は死ぬ。……そういうことだよな。
「烏廻さんはああ言ってたけど……父さんは本当に、俺ならあの化け物に勝てるって思って、こんな呪いみたいなもんを託したのかよ……」
押し寄せる恐怖から逃げるように、もういっそ何も考えずに、残された時間をこのまま静かに過ごそうか。
俺が膝を抱え、そんな後ろ向きな思考に沈んでいた、その時だった。
――ピンポーン。
突然、静まり返った室内にインターホンの無機質な音が鳴り響いた。
誰だ? こんな時に。正直、今の俺は誰とも会いたくないし、喋りたくもない。
「……居留守を使おう」
布団を頭から被り、気配を殺す。
しばらく沈黙が流れた後、またインターホンが鳴った。
――ピンポーン。
そして数秒後、まるでこちらの居留守を確信しているかのように、執拗に連打され始める。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
「あ~!! もう、誰だよクソッ!!」
こっちはどん底まで落ち込んで誰とも会いたくないって言ってるのに!
執拗な呼び出しにとうとう耐えきれなくなり、俺はイライラを爆発させながら乱暴に立ち上がってドアを開けた。
すると、インターホンを連打していた犯人が、悪びれもせずに目の前に立っていた。
「……よっ」
そいつは片手を軽く上げ、いつものように能天気で気楽な挨拶をしてきた。
「……なんだよ、紘弥」
俺の返事は、自分でも自覚できるほどかなり不機嫌で冷たいトーンだったと思う。
しかし、そんな俺の最悪な態度を気にする風でもなく、紘弥はいつも通りの調子で話を続けてくる。
「飯、食いに行かねえ?」
「はあ?」
あまりにも予想外すぎる誘いに、俺は思わず間の抜けた声を上げて聞き返してしまった。
「いやだから、晩飯食いに行こうぜって。それともお前、もう部屋で食べたのか?」
「いや、まだだけど……」
「だったら決まりだろ? ほら、さっさと行こうぜ」
「おい、ちょっと待てって!」
行く気なんて全くなかったはずなのに、紘弥の妙な勢いに気圧され、俺は何故か慌てて制服に着替えてしまっていた。
俺が再びドアを開けて外に出ると、紘弥は何も言わずに前を歩き始める。
お互いに何も喋らず、ただ夜の学園の敷地内を歩く。気まずい沈黙のまましばらく歩くと、目的地である広大な学園食堂に到着した。
この学園の食堂は、昼だけでなく夜も開放されている。
俺は夜は基本的に自分の部屋で自炊しているから、この時間に食堂へ来たことはなかった。
食堂の中にはポツポツと学生たちの姿があり、それぞれ晩飯を食べていた。昼間のあの戦場のような混雑と比べれば随分と席は空いているが、それでもそれなりに人はいるんだな、とぼんやり思う。
空いている席はいくらでもあるというのに、紘弥はそこには目もくれず、食堂の奥へと真っ直ぐ突き進んでいく。
「……おう、待たせたな」
紘弥がそう言って足を止めた席。そこを見た瞬間、俺の身体がぴたりと固まった。
その大きめのテーブルには、魔闘祭の代表メンバーであるクラスのみんなが全員揃って座っていたのだ。
「……」
みんなの顔を見ても、今の俺には何を話せば良いのか全く分からず、ただ無言で立ち尽くすことしかできない。
みんなも同じように、気まずそうに視線を彷徨わせて何も喋らない。ただ、食堂の遠くから聞こえる他の生徒たちの楽しげな話し声だけが、虚しく耳を通り過ぎていく。
その重苦しい静寂を、最初に破ったのはやっぱり紘弥だった。
「――お前の中の奴のこと、烏廻先生から話を聞いたぜ」
その『話』が何を意味しているのか、俺には当然分かった。みんな、俺の身体に起きている異常事態を、タイムリミットのことを知った上でここに集まったんだ。
「……そうか」
俺は小さく息を吐き、みんなを拒絶するように視線を冷たく尖らせた。
「それで? そんな絶望的な状態の俺に、一体なんの用なんだよ」
「何の用って!隼人君、そんな言い方……!」
トゲのある俺の言葉に、サラが思わず反応する。 だが、俺のあまりに冷酷な視線と目が合った瞬間、怯えたように口を閉ざしてしまった。
今の俺の表情は、きっと相当ひどいものなんだろう。自分でも、自分がどれだけ余裕のない、醜い顔をしているかが嫌というほど分かる。
このままここに居続けても、みんなに理不尽な八つ当たりをしてしまうだけだ。
みんなの気持ちは当然分かっている。俺だって反対の立場なら、大切な仲間のために何かできないかって必死になっていたはずだ。
そんなの分かっている。分かっているけど……だからって、俺はどうすればいいんだよ。
「……私が隼人君に初めて会ったのは、今から3年ほど前のことです」
張り詰めた空気の中、突然、鈴の鳴るような澄んだ声が静かに響いた。
