魔力の少ない魔法使い

『それでは! 両チーム入場して下さい!』
 闘技場に響き渡る実況アナウンスの合図に従い、俺たちは光の射すゲートから入場する。
 それと同時に、鼓膜を揺らすような地鳴りのごとき大歓声が会場を包み込んだ。
「……すげぇな」
 流石は決勝戦といったところか。今までの予選の盛り上がりと比べても、観客の熱気は段違いだった。
「ここまで人がいると、流石に緊張しちゃうな~……」
 サラがすり鉢状になった広大な観客席を見渡し、圧倒されたように苦笑いを浮かべている。
「大丈夫だよ、サラちゃん……今まで通りやろう」
 すかさず橘がサラを安心させるように声をかけたが、その橘自身の声も僅かに上ずっており、流石に緊張しているのが伝わってきた。
 というか、この状況で緊張しない奴なんているのか?
「こんなに大勢から注目されるなんて……」
 流石の紘弥も緊張して――
「ここで良いとこ見せたら、モテモテ間違いなしだな!!」
 ――などと鼻息を荒くしており、全くしていなかった。馬鹿はやっぱり緊張とは無縁な生き物なんだなと感心する。
 まあ紘弥以外にも、玲奈や帝も特に気負っているようには見えない。こいつらは元々、人から注目されることに慣れているのだろう。
 じゃあ、ルイはどうだろう。相変わらずヘラヘラとニコニコして……していない?
 ふと視線を向けると、ルイは今まで見たことがないくらい真剣で、どこか険しい顔をして一点を見つめていた。
 その視線の先を追うと、向かい側に整列しているG組の生徒たちを見ているようだった。
「……どうしたんだ? G組がどうかしたのか?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
 俺が声をかけると、少しの間があった後、ルイはいつものように人当たりの良い笑みを浮かべてこちらを向いた。
「そうか? なら良いんだけど」
 俺はルイから視線を外し、数日前に一ノ瀬から言われた言葉を思い出す。
 ――『ルイ・エスクードには、気をつけなさい』
 正直、あの言葉の真意は未だに全く分からない。ただ、一ノ瀬が、何の意味もなくあんな警告をしてくるとは思えなかった。
『それでは、只今より魔闘祭1年生の部! C組対G組の決勝戦を行いたいと思います!』
 俺が考え事をしていると、決勝戦開始のアナウンスが高らかに鳴り響いた。
 いよいよ試合開始か。
『では、選手の皆さんには闘いのフィールドまで転移して頂きましょう!』
 そのアナウンスと共に、俺たちの足元に巨大な転移の魔法陣が浮かび上がる。
 緊張していても仕方ない。始まってしまえば、頭を空っぽにして全力で戦うだけだ。俺達とG組の生徒がそれぞれの魔法陣の上に立つと、陣が眩い光を放ち始めた。
『それでは両クラス、死力を尽くして頑張って下さい!』
 さて、決勝のフィールドはどこになるかな。
「……ここは」
 転移の光が収まり、辺りを見回すと、見渡す限りの木、木、木。
「森だな」
「森だね」
 決勝戦の舞台はどうやら深い森の中らしい。
「こりゃあ、かなり闘いにくそうな場所だな」
「だね~。木々が邪魔で、動きも結構制限されそうよね」
 周囲の木々を見上げながらぼやく紘弥の言葉に、五十嵐が同意する。
「とりあえず、作戦でも練るか?」
「今まで通りでいいでしょ」
 俺が提案した直後、玲奈に食い気味にバッサリと斬り捨てられた。
 まあ、確かにこいつの言う通り、俺たちの作戦なんて「臨機応変に暴れる」の一択なんだけどさ。
「……なら、今まで通りで」
「隼人、弱えなぁ」
 うるせえ紘弥。所詮、俺はクラスの仮初のリーダーにすぎないんだよ。
「……とりあえず、試合が始まるまでどうすっかな」 俺たちの作戦会議(?)は数秒で終了してしまったため、試合開始までかなり時間が余ってしまった。
「テキトーに喋ろうぜ。その方が無駄な緊張もなくなるだろ?」
 紘弥が珍しくまともな提案をしてくれた。
「紘弥君の言う通りかも……うん、何か喋ろ、瑞希!」
 おそらくこの中で一番緊張していたサラが紘弥の意見に賛同し、すぐさま隣にいた橘に話しかける。俺もテキトーに誰かと話して気を紛らわせるか。
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「昨日はさ、星5のクエストまで余裕でクリアしてよー」
『――残リ、十秒デス』
 紘弥とゲームの話で盛り上がっていると、空中に響き渡る無機質な声で、試合開始までのカウントダウンが流れ始めた。
「っと、もうすぐ試合だな……この続きは、優勝してから打ち上げで聞くよ!」
「そーだな! ……気ぃ抜くなよ、隼人」
「おう」
『――五、四』
 さて、泣いても笑っても、これが本当に最後の試合だ。
『――三、二』
 絶対に勝つ。
『――一、ゼ――』
「皆さん、下がってください!!」
 カウントダウンが終わろうとしたその瞬間――突如、突如、ルイが張り裂けんばかりに声を張り上げた。
 いつも飄々としている彼からは想像もつかない、切羽詰まったその叫び声が、静かな森の空気を不穏に震わせた。