魔力の少ない魔法使い

八雲達との死闘から数日が経ち、お祭り騒ぎだった魔闘祭もあっという間に最終日、つまり、すべての勝敗が決する運命の日に至った。
 それまでの間、自分のクラスの出し物を手伝ったり、優斗さんのクラスが主催している本格的なお化け屋敷に冷やかしに行って絶叫させられたり、色々と濃いイベントはあったのだが……そのあたりの日常は、長くなるので一旦割愛させて頂く。
「ついに、今日が本番だな!!」
 朝一番、いつも通りの大声で教室の空気を震わせたのは紘弥だった。
「もう少し静かに喋れないのか、君は。朝から鼓膜が痛む」
 やれやれといった風に耳を押さえながら、帝が呆れたようにため息をつく。
 今俺たちがいるのは、自分達のホームであるC組の教室だ。そこには決勝に出場する代表メンバーだけでなく、クラスの全員が集結して独特の緊張感と熱気に包まれていた。
 魔闘祭最終日の日程は、午前中に1年生の決勝戦、お昼休憩を挟んで午後から2年生、その後に3年生――という風に、全学年の頂点を決める試合が順次行われることになっている。
 そして俺達は、これから全校生徒と一般客が詰めかける大闘技場へと移動し、ついに決勝戦の舞台に立つ。
 ちなみに、決勝戦の対戦相手はG組。八雲のように突出して「化け物」と呼ばれるような特別強い奴はいないらしいが、ここまで勝ち上がってきた以上、チームワークと総合力が高い堅実なクラスなのだろう。
「……よし、そろそろ時間だし行くか」
 俺が代表メンバーを見回して声をかけると全員頷いて歩き出す。
「お前ら頑張れよ! 絶対に優勝してこいよなー!」
「私達も特等席で応援するからね! C組の底力、見せてやりなさい!」
 決勝戦に出場するクラスは、今日に限っては店を出さずに観客席で全力応援することが許されている。教室に残るクラスメイトたちが、俺たちの背中に向かって惜しみない声援を投げかけてくれた。
「おう、任せとけって!」
 みんなの期待を背負い、紘弥が我が物顔で親指を立てて答える。
 ん?「普通はリーダーのお前が言え」って? いやいや、俺はこういう時に気の利いたセリフを叫ぶようなキャラじゃないしな。こういう熱い役割は、全部紘弥に任せておけば万事解決なんだ。
 俺達は温かい声援に送り出されながら教室を後にし、決戦の地である大闘技場へと向かった。
 重厚な石造りの闘技場に到着し、観客席からの地鳴りのような歓声を聞きながら、選手控え室へと続く薄暗い廊下を歩いていると――ふと、前方に妙に見知った連中が並んで立っているのが目に入った。
「よっ!」
 そいつらを代表して、まず片手を上げて気さくに声をかけてきたのは雨宮だった。
 今、俺たちの目の前に並んでいるのは、雨宮、水無姉妹、そして八雲と一ノ瀬の5人だ。
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
「何って、これから決勝戦でしょ? 戦友として、一言くらい声をかけにきてもバチは当たらないんじゃない?」
 俺の疑問に、一ノ瀬がいつものお淑やかな笑みを浮かべて返してくる。
「あ~、なるほどな」
「『あ~』じゃないですわよ! 私達を破って決勝に上がったんですから、無様に負けることなんて万に一つも許されませんわ! 絶対に優勝しなさい!」
 ツンとそっぽを向きながら発破をかけてくる水無(姉)の言葉に、後ろで腕を組んでいる八雲以外のメンバーが深く同意するように頷く。
「へへ、任せとけって! 今の俺らに『敗北』の2文字はねえよ!」
 またしても俺たちを代表して、紘弥が胸を叩いて自信満々に答えてくれた。
 その頼もしい(ちょっと調子に乗りすぎな)言葉を聞いて、雨宮達はどこか安心したように小さく笑みを浮かべる。
 あ、ちなみに八雲だけは、さっきからずーっと顔を不機嫌そうに歪めたままだ。まあ、本人は別に怒っているわけではなく、単に顔つきが凶暴で怖いだけなんだろうけど……それにしても迫力がありすぎる。
 軽く言葉を交わし、俺らは「じゃあな」と彼らの横をすり抜けて、再び控え室への歩みを進める。
「……おい。油断すんじゃねぇぞ、桐宮」
 八雲のすぐ横を通り過ぎるその一瞬、低く鋭い声が俺の耳に届いた。
 その言葉に込められた不器用な信頼を感じ取り、俺は前を向いたまま口角を上げる。
「ああ、分かってる」
 俺は短くそう答えると、足を止めることなく、光の射す闘技場の入り口へと突き進んでいった。
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「あいつら、本当に優勝できっかな~」
 隼人たちの背中が廊下の奥へと見えなくなり、静まり返った通路で雨宮がぽつりと呟いた。
「もし負けて帰ってきたら、その時は俺が直接ぶっ殺す」
 八雲が低く唸るように吐き捨てると、雨宮は肩をすくめて苦笑する。
「おー、こわ。相変わらず血の気が多いねぇ」
「本当に、どこまでも野蛮人ですわね」
「あぁん? なんだとお前もう一回言ってみろ」
 涼子の容赦ない煽りに、八雲が青筋を立てて凄んでみせる。
「まあまあ、二人ともそこまでにしなさいな。それより、私達も早く観客席に行きましょ?」
 一ノ瀬がすかさず八雲の前に割って入り、宥めるようにそう提案した。
「一ノ瀬さんの言う通りね。早く行かないと、一般客の人たちで席が全部埋まっちゃうかもしれないし」
「だな。じゃ、急ぐか」
 雨宮は京子の言葉に頷くと、さっさと歩き出す。
「あ! ちょっと待ちなさいよ、俊!」
「そうですわ! 主人である私達を置いて先に行くなんて不敬ですわよ!」
 水無姉妹は慌てて声を上げながら、小走りで雨宮の後についていく。
 賑やかに去っていく3人の背中を見送った後、八雲と一ノ瀬もゆっくりと歩き出した。
(――直接、警告はしたけれど。桐宮君、本当に気をつけてね……)
 一ノ瀬は歩きながら、ふと大闘技場の天井を見上げる。その脳裏には、先ほど見た隼人の姿と……そして、あの底知れない笑みを浮かべるルイ・エスクードの姿が不穏に交錯していた。
(ルイ・エスクード……。あなた、一体何を隠しているの?)