競技場内に続く扉を開け、フィールドへと足を踏み入れる。
ふと周りを見渡すと、外からは分からなかったが観客席は満席だった。圧倒されそうになる空気を振り払い、正面に向き直る。そこには既に、烏廻さんと帝が立っていた。
「遅かったね。てっきり怖くなって逃げ出したのかと思ったよ」
帝が鼻で笑いながら、憎たらしい声で挑発してくる。
「……誰がお前みたいな坊ちゃんにビビるかよ。お前こそ、怖がってんじゃねぇのか?」
売り言葉に買い言葉。俺も負けじと睨み返してやった。
「なんだと! この僕を馬鹿にしたこ――」
「あー、口喧嘩はそのへんにしろ。そろそろ始めないといけないからな」
烏廻さんが面倒くさそうに頭を掻きながら、二人の間に割って入った。
そういや、今は試合前だったな。帝は何か言いたげに顔を歪めたが、口を噤んで俺を睨みつけてきた。
「準備はいいな?」
烏廻さんが俺と帝を交互に見る。俺が頷くと、帝も無言のまま烏廻さんに視線を向けた。
「試合開始!」
合図と共に、帝は武具召喚を行った。手には洗練された一本の刀が握られている。
しかし、帝は刀を下段に構えたまま、ピタリと動きを止めた。
「どういう気だ?」
「君は武具召喚をせず、召喚獣を武器に変えて戦うんだろう?」
「……つまり、俺が召喚するまで待つってことか?」
問いかけに対し、帝は余裕たっぷりの薄笑いを浮かべた。
「……舐めやがって」
俺は懐から召喚印を描いた札を取り出し、魔力を込めて詠唱する。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ――来たれ、《サラマンダー》!」
札から真紅の炎が噴き出し、サラマンダーが姿を現した。
「……またかよ」
「出てきたとこ悪いけど、早速頼むわ」
「はあー、まったく人使いの荒い奴だ……《形態変化》!」
文句を垂れつつも、サラマンダーは炎に包まれながら剣の姿へと変わる。っていうか、お前は人じゃねぇだろ。
「いつも悪いな、サラマンダー」
俺は熱を帯びた柄を握り締め、帝を見据えた。
「遅いね。待ちくたびれたよ」
「攻撃すれば良かっただろ。それに、そこまで待ってねぇよ」
「ふん……武器も持っていない者を攻撃しても、虐めているみたいだからね。それと、先に攻撃してきても構わないよ」
どこまでも上から目線の態度。
「……そうかよ」
短く呟き、俺は思い切り石畳を蹴った。
「だったら、そうさせてもらうぜ!」
「!?」
一気に間合いを詰めた斬撃に、帝は一瞬目を見開いたが、即座に刀を盾にして防ぐ。
だが、俺の狙いはそれだけじゃない。剣を押し込んだ反動を利用し、帝の無防備な腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「グッ……!」
吹き飛ばされた帝は、闘技場の壁に背中を打ち付けた。
腹を押さえ、怒りを露わにしてこちらを睨みつけながら立ち上がる。
「まあ、そんな簡単にはいかねぇよな」
試合が長引けば、俺にとっては不利になる。短期決戦だ。
「炎剣弐ノ型【火燕】!」
剣を鋭く振り抜き、鳥の形をした炎の斬撃を飛ばす。
「フン……【暴君の風】!」
帝は炎の軌道を読み切って身を躱すと、そのまま魔法で反撃に出た。
圧縮された風の塊が、石畳を削り、砂煙を上げながら迫ってくる。
「炎剣壱ノ型【火柱】!」
下から上に剣を振り上げ、炎の壁を作り出して風を相殺した。
(やっぱり、遠距離戦じゃラチが明かない……!)
脚に魔力を集中させて部分強化を行い、再び地を蹴る。
「遅いね」
「!?」
斬りかかったはずの俺の目の前から、帝の姿が消えた。背後に回られたのだ。
(ヤバい!)
――ガキンッ!
振り向くよりも早く、勘だけで剣を背後に回して刀の刃を弾き返す。だが、帝の魔法展開の方が一瞬早かった。
「【暴君の風】」
至近距離からの風の暴圧。目に見えないハンマーで殴られたような衝撃が全身を貫き、俺はボールのように弾き飛ばされて壁に激突した。
「さっきの借りは返したよ」
「ッ……痛ってぇ……」
肺から空気が押し出され、視界がぐらつく。後頭部を押さえながら、ふらつく足で立ち上がった。
(借りを返したって……俺はただの蹴りなのに、お前のは魔法じゃねぇか)
借りを返したどころか。
「……お釣りがくるぜ」
俺は小さく悪態をついた。
――観客席
壁に叩きつけられた隼人を見て、紘弥が身を乗り出した。
「おいおい……隼人のやつ、大丈夫かよ……」
「大丈夫みたいだね!」
後頭部を押さえながら立ち上がった姿を見て、サラは無邪気に声を上げる。
「うん……でも、どうするのかな?」
橘は祈るように手を握り合わせていた。
「分かりませんが……まあ、様子を見ますかね」
ルイが冷静に戦況を分析する。
「そうだな。さっきの攻防で、帝が相当強いってことは分かったしな」
誰もが手に汗握る中、フィールドの隼人は再び攻撃を仕掛けていた。
三度の斬撃。炎の刃が砂煙を巻き起こして帝へ向かうが、晴れた視界の先にいた帝は、額から一筋の血を流しているだけだった。
「かすったみたいだね」
「ああ……でも、かすっただけじゃ意味がねぇ。芯を喰わねぇと」
紘弥が舌打ちをする。
「そうですね。しかし、一つ気になることが……隼人君は、何故あんなに試合を焦っているように見えるのでしょうか?」
ルイの鋭い指摘に、仲間たちの視線が集まる。
「確かに。隼人の奴、なんか『時間がない』みたいな戦い方をしてるよな」
「時間がないって、試合は時間無制限だよね?」
「そうだ。けど、あいつはとにかく早く終わらせようとしてる」
「そういう戦い方じゃないの?」
サラが首を傾げると、紘弥は顔をしかめた。
「いや、俺も最初はそう思ってたんだけど……あいつの顔、焦燥感が見えるんだよ。なんでだ……?」
ふと、紘弥は隣で静かにフィールドを見つめる玲奈に目を向けた。彼女なら何か知っているのではないか。
「……」
玲奈はしばらく無言だったが、やがて重い口を開いた。
「……あいつは……隼人は、他の人に比べて魔力が極端に少ないのよ」
「……魔力が、少ない?」
紘弥だけでなく、その場にいた全員が驚きに目を見開いた。
「なんで……」
「分からないわ。あいつの魔力は、子供の頃からほんの少ししか成長していない」
サラの疑問を遮るように、玲奈が淡々と事実を告げる。
「……なるほどな。それで焦ってたのか。試合が長引けば、魔力が底を突いちまう」
「……ええ、そうよ」
「……一つ聞きたいのですが」
ルイが真剣な眼差しで玲奈に問う。
「何かしら?」
「隼人君の魔力は、あとどれくらいもつんですか?」
玲奈はフィールドで息を上げる隼人を見つめ、唇を噛んだ。
「……そうね。あと数分、といったところよ」
「! ……あと数分って、ヤバいじゃねぇか!」
紘弥が思わず大声を上げる。
「……隼人」
玲奈の小さな祈りのような声が、歓声にかき消されていった。
俺の斬撃は、帝の額を掠めただけだった。
帝は指先で血を拭うと、氷のように冷たい瞳でこちらを睨み据えた。その顔には、明確な殺意に近い怒りが張り付いている。
スッ、と帝が刀を天高く掲げた。刃の周囲に、異常なまでの風の魔力が渦を巻き始める。
(! ……あれはヤバい)
肌を刺すようなプレッシャー。俺の第六感が、絶対に受けてはいけないと警告のサイレンを鳴らす。
「……【真空の刃】」
帝が冷酷に刀を振り下ろした。
巨大な風の斬撃が、石畳を紙切れのように粉砕しながら、凄まじい速度で迫ってくる。
(避けられねぇ……防げるか……!)
「炎剣壱ノ型【火柱】!」
渾身の力を込めて下から剣を振り上げ、分厚い炎の壁を展開する。だが――。
炎の柱ごと、俺の体は斬撃に飲み込まれた。
「がはッ……!」
全身を鋭い刃で切り刻まれるような激痛。地面を転がり、俺は力なく倒れ込んだ。
足に力を込め、歯を食いしばってなんとか立ち上がるが、視界はブレて立っているのがやっとだ。
(ヤバい、今のはマジで効いた……)
火柱で威力を殺していなかったら、即死コースだった。
ふらつく体で前を向くと、帝が悠然とした足取りで歩み寄ってくるのが見えた。
「ふん。君もこれで終わりだ」
無慈悲に振り下ろされる刃。
這いつくばるようにして横へ跳び退いたが、着地の衝撃に耐えきれず、俺は再び地面に倒れ伏した。
「ハァッ……ハァッ……」
くそッ、もう魔力が……!
「よくそんなボロボロの状態で避けられたね」
動け! 動けよ、俺の体……!
「僕に刃向かわなければ、もっと楽に終わらせてあげたのにね。だいたい……何故君は、あの女を助けたんだい?」
「……サラのことか」
「そうだ。何故あんなのを助けたんだい」
「俺は、普通のことをしただけだ……」
「……君はあの女のことを知らないようだね。教えてあげるよ。あれは、呪われた一族なのさ」
……呪われた?
「君も聞いたことぐらいはあるだろう?」
確かに噂程度には聞いたことがある。だが、俺はそんな下らない迷信で差別なんかしない。それに……。
「その話は昔のことだろ」
今はもう誰も気にしていないはずだ。一部の凝り固まった貴族を除いては。
「……僕には理解できないね、君たちの考えが。あの一族は滅びていいんだよ。あの女も、生まれてこなくてよかったんだ」
「生まれてこなくて良かった、だと……!」
「ああ、そうだよ」
「ふざけんな!!」
腹の底から、どす黒い怒りがマグマのように込み上げてきた。
「! ……なんだ、それは」
急に帝が顔を強張らせ、後ろへ大きく跳び退いた。
どうした? ――その時だった。
心臓の奥底で、何かが『パツン』と弾けるような音がした。
空っぽになっていたはずの体内に、圧倒的な熱量を持った魔力が、まるでダムが決壊したかのように一気に逆流してくる。
「もうこれで終わりにする。――【真空の刃】!」
帝が再び刀を振り下ろした。巨大な風の刃が迫る。
くそっ! もう魔力が……いや、ある?
なんでだ? 理由は全く分からない。だが、全身の血管が焼き切れるかと思うほど、無限の魔力が溢れ出てくるのを感じる。
両足に力強く踏ん張り、上体を起こした。目前まで迫る死の刃。
(間に合え……!)
「武具召喚!!」
ふと周りを見渡すと、外からは分からなかったが観客席は満席だった。圧倒されそうになる空気を振り払い、正面に向き直る。そこには既に、烏廻さんと帝が立っていた。
「遅かったね。てっきり怖くなって逃げ出したのかと思ったよ」
帝が鼻で笑いながら、憎たらしい声で挑発してくる。
「……誰がお前みたいな坊ちゃんにビビるかよ。お前こそ、怖がってんじゃねぇのか?」
売り言葉に買い言葉。俺も負けじと睨み返してやった。
「なんだと! この僕を馬鹿にしたこ――」
「あー、口喧嘩はそのへんにしろ。そろそろ始めないといけないからな」
烏廻さんが面倒くさそうに頭を掻きながら、二人の間に割って入った。
そういや、今は試合前だったな。帝は何か言いたげに顔を歪めたが、口を噤んで俺を睨みつけてきた。
「準備はいいな?」
烏廻さんが俺と帝を交互に見る。俺が頷くと、帝も無言のまま烏廻さんに視線を向けた。
「試合開始!」
合図と共に、帝は武具召喚を行った。手には洗練された一本の刀が握られている。
しかし、帝は刀を下段に構えたまま、ピタリと動きを止めた。
「どういう気だ?」
「君は武具召喚をせず、召喚獣を武器に変えて戦うんだろう?」
「……つまり、俺が召喚するまで待つってことか?」
問いかけに対し、帝は余裕たっぷりの薄笑いを浮かべた。
「……舐めやがって」
俺は懐から召喚印を描いた札を取り出し、魔力を込めて詠唱する。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ――来たれ、《サラマンダー》!」
札から真紅の炎が噴き出し、サラマンダーが姿を現した。
「……またかよ」
「出てきたとこ悪いけど、早速頼むわ」
「はあー、まったく人使いの荒い奴だ……《形態変化》!」
文句を垂れつつも、サラマンダーは炎に包まれながら剣の姿へと変わる。っていうか、お前は人じゃねぇだろ。
「いつも悪いな、サラマンダー」
俺は熱を帯びた柄を握り締め、帝を見据えた。
「遅いね。待ちくたびれたよ」
「攻撃すれば良かっただろ。それに、そこまで待ってねぇよ」
「ふん……武器も持っていない者を攻撃しても、虐めているみたいだからね。それと、先に攻撃してきても構わないよ」
どこまでも上から目線の態度。
「……そうかよ」
短く呟き、俺は思い切り石畳を蹴った。
「だったら、そうさせてもらうぜ!」
「!?」
一気に間合いを詰めた斬撃に、帝は一瞬目を見開いたが、即座に刀を盾にして防ぐ。
だが、俺の狙いはそれだけじゃない。剣を押し込んだ反動を利用し、帝の無防備な腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「グッ……!」
吹き飛ばされた帝は、闘技場の壁に背中を打ち付けた。
腹を押さえ、怒りを露わにしてこちらを睨みつけながら立ち上がる。
「まあ、そんな簡単にはいかねぇよな」
試合が長引けば、俺にとっては不利になる。短期決戦だ。
「炎剣弐ノ型【火燕】!」
剣を鋭く振り抜き、鳥の形をした炎の斬撃を飛ばす。
「フン……【暴君の風】!」
帝は炎の軌道を読み切って身を躱すと、そのまま魔法で反撃に出た。
圧縮された風の塊が、石畳を削り、砂煙を上げながら迫ってくる。
「炎剣壱ノ型【火柱】!」
下から上に剣を振り上げ、炎の壁を作り出して風を相殺した。
(やっぱり、遠距離戦じゃラチが明かない……!)
脚に魔力を集中させて部分強化を行い、再び地を蹴る。
「遅いね」
「!?」
斬りかかったはずの俺の目の前から、帝の姿が消えた。背後に回られたのだ。
(ヤバい!)
――ガキンッ!
振り向くよりも早く、勘だけで剣を背後に回して刀の刃を弾き返す。だが、帝の魔法展開の方が一瞬早かった。
「【暴君の風】」
至近距離からの風の暴圧。目に見えないハンマーで殴られたような衝撃が全身を貫き、俺はボールのように弾き飛ばされて壁に激突した。
「さっきの借りは返したよ」
「ッ……痛ってぇ……」
肺から空気が押し出され、視界がぐらつく。後頭部を押さえながら、ふらつく足で立ち上がった。
(借りを返したって……俺はただの蹴りなのに、お前のは魔法じゃねぇか)
借りを返したどころか。
「……お釣りがくるぜ」
俺は小さく悪態をついた。
――観客席
壁に叩きつけられた隼人を見て、紘弥が身を乗り出した。
「おいおい……隼人のやつ、大丈夫かよ……」
「大丈夫みたいだね!」
後頭部を押さえながら立ち上がった姿を見て、サラは無邪気に声を上げる。
「うん……でも、どうするのかな?」
橘は祈るように手を握り合わせていた。
「分かりませんが……まあ、様子を見ますかね」
ルイが冷静に戦況を分析する。
「そうだな。さっきの攻防で、帝が相当強いってことは分かったしな」
誰もが手に汗握る中、フィールドの隼人は再び攻撃を仕掛けていた。
三度の斬撃。炎の刃が砂煙を巻き起こして帝へ向かうが、晴れた視界の先にいた帝は、額から一筋の血を流しているだけだった。
「かすったみたいだね」
「ああ……でも、かすっただけじゃ意味がねぇ。芯を喰わねぇと」
紘弥が舌打ちをする。
「そうですね。しかし、一つ気になることが……隼人君は、何故あんなに試合を焦っているように見えるのでしょうか?」
ルイの鋭い指摘に、仲間たちの視線が集まる。
「確かに。隼人の奴、なんか『時間がない』みたいな戦い方をしてるよな」
「時間がないって、試合は時間無制限だよね?」
「そうだ。けど、あいつはとにかく早く終わらせようとしてる」
「そういう戦い方じゃないの?」
サラが首を傾げると、紘弥は顔をしかめた。
「いや、俺も最初はそう思ってたんだけど……あいつの顔、焦燥感が見えるんだよ。なんでだ……?」
ふと、紘弥は隣で静かにフィールドを見つめる玲奈に目を向けた。彼女なら何か知っているのではないか。
「……」
玲奈はしばらく無言だったが、やがて重い口を開いた。
「……あいつは……隼人は、他の人に比べて魔力が極端に少ないのよ」
「……魔力が、少ない?」
紘弥だけでなく、その場にいた全員が驚きに目を見開いた。
「なんで……」
「分からないわ。あいつの魔力は、子供の頃からほんの少ししか成長していない」
サラの疑問を遮るように、玲奈が淡々と事実を告げる。
「……なるほどな。それで焦ってたのか。試合が長引けば、魔力が底を突いちまう」
「……ええ、そうよ」
「……一つ聞きたいのですが」
ルイが真剣な眼差しで玲奈に問う。
「何かしら?」
「隼人君の魔力は、あとどれくらいもつんですか?」
玲奈はフィールドで息を上げる隼人を見つめ、唇を噛んだ。
「……そうね。あと数分、といったところよ」
「! ……あと数分って、ヤバいじゃねぇか!」
紘弥が思わず大声を上げる。
「……隼人」
玲奈の小さな祈りのような声が、歓声にかき消されていった。
俺の斬撃は、帝の額を掠めただけだった。
帝は指先で血を拭うと、氷のように冷たい瞳でこちらを睨み据えた。その顔には、明確な殺意に近い怒りが張り付いている。
スッ、と帝が刀を天高く掲げた。刃の周囲に、異常なまでの風の魔力が渦を巻き始める。
(! ……あれはヤバい)
肌を刺すようなプレッシャー。俺の第六感が、絶対に受けてはいけないと警告のサイレンを鳴らす。
「……【真空の刃】」
帝が冷酷に刀を振り下ろした。
巨大な風の斬撃が、石畳を紙切れのように粉砕しながら、凄まじい速度で迫ってくる。
(避けられねぇ……防げるか……!)
「炎剣壱ノ型【火柱】!」
渾身の力を込めて下から剣を振り上げ、分厚い炎の壁を展開する。だが――。
炎の柱ごと、俺の体は斬撃に飲み込まれた。
「がはッ……!」
全身を鋭い刃で切り刻まれるような激痛。地面を転がり、俺は力なく倒れ込んだ。
足に力を込め、歯を食いしばってなんとか立ち上がるが、視界はブレて立っているのがやっとだ。
(ヤバい、今のはマジで効いた……)
火柱で威力を殺していなかったら、即死コースだった。
ふらつく体で前を向くと、帝が悠然とした足取りで歩み寄ってくるのが見えた。
「ふん。君もこれで終わりだ」
無慈悲に振り下ろされる刃。
這いつくばるようにして横へ跳び退いたが、着地の衝撃に耐えきれず、俺は再び地面に倒れ伏した。
「ハァッ……ハァッ……」
くそッ、もう魔力が……!
「よくそんなボロボロの状態で避けられたね」
動け! 動けよ、俺の体……!
「僕に刃向かわなければ、もっと楽に終わらせてあげたのにね。だいたい……何故君は、あの女を助けたんだい?」
「……サラのことか」
「そうだ。何故あんなのを助けたんだい」
「俺は、普通のことをしただけだ……」
「……君はあの女のことを知らないようだね。教えてあげるよ。あれは、呪われた一族なのさ」
……呪われた?
「君も聞いたことぐらいはあるだろう?」
確かに噂程度には聞いたことがある。だが、俺はそんな下らない迷信で差別なんかしない。それに……。
「その話は昔のことだろ」
今はもう誰も気にしていないはずだ。一部の凝り固まった貴族を除いては。
「……僕には理解できないね、君たちの考えが。あの一族は滅びていいんだよ。あの女も、生まれてこなくてよかったんだ」
「生まれてこなくて良かった、だと……!」
「ああ、そうだよ」
「ふざけんな!!」
腹の底から、どす黒い怒りがマグマのように込み上げてきた。
「! ……なんだ、それは」
急に帝が顔を強張らせ、後ろへ大きく跳び退いた。
どうした? ――その時だった。
心臓の奥底で、何かが『パツン』と弾けるような音がした。
空っぽになっていたはずの体内に、圧倒的な熱量を持った魔力が、まるでダムが決壊したかのように一気に逆流してくる。
「もうこれで終わりにする。――【真空の刃】!」
帝が再び刀を振り下ろした。巨大な風の刃が迫る。
くそっ! もう魔力が……いや、ある?
なんでだ? 理由は全く分からない。だが、全身の血管が焼き切れるかと思うほど、無限の魔力が溢れ出てくるのを感じる。
両足に力強く踏ん張り、上体を起こした。目前まで迫る死の刃。
(間に合え……!)
「武具召喚!!」
