「おいおい、もう終わりか?」
土埃に塗れ、ピクリとも動かなくなった隼人を見下ろし、八雲はつまらなそうに吐き捨てた。
「……チッ、本当に終わりかよ。張り合いのねぇ」
まだまだ闘いの熱狂に浸っていたかった八雲は、持ち前の赤髪を苛立たしげに掻き毟る。その柄の悪い、不良めいた風貌には、明らかな不完全燃焼の苛立ちが浮かんでいた。
「ま、良いか。それなりに楽しめたし……さっさと時計壊して終わるか」
肩を竦め、八雲は無防備に倒れ伏す隼人の方へと歩み寄る。
「それにしても……この時計も、持ち主が気絶してんなら勝手に壊れれば良いのによ。――あー、まさか倒れたフリして機を窺ってたりすんのか?」
途中で、隼人の腕時計型デバイスがまだ破壊判定になっていないことに疑問を抱いた八雲は、ピタリと足を止め、隼人に対する警戒心を再び高めた。
「演技にしろ気絶してるにしろ、これでキッチリ終わりにしてやるよ!」
八雲は無慈悲に、隼人の時計――そしてその腕ごと叩き割る勢いで、如意棒を上段から振り下ろした。
――刹那。
八雲の身体が突然、後方へと弾き飛ばされた。
「……ッ!?」
受け身も取れないまま地面を転がり、八雲は咄嗟に顔を上げる。
(何が起きた!?)
八雲は、腹部に叩き込まれた重い衝撃以外、自身の身に一体何が起きたのか全く理解できなかった。
ただ、土を噛んで倒れ伏しながら、その原因である前方の存在を睨みつける。
そこには、先程まで気絶していたはずの隼人が、ゆっくりと立ち上がっている姿があった。
隼人は俯いていた顔を上げ、左手を首筋に当てて、ひどく気怠そうに首をコキ、コキと2、3度鳴らした。
「あー……久々の外だな」
まるで長い眠りから覚めたばかりのような、ひどく気怠げな、しかし芯に絶対的な力を持った声が響く。
そして、ゆっくりと八雲の方へ視線を向けた。
「それにしてもさっきの、直前で咄嗟に後ろに飛んで威力を軽減させたな? 完全に見えてなかったはずなのに、野生の勘ってやつか?」
やるじゃねえか、と。
その口元に、いつもの隼人なら絶対に浮かべないような、傲慢で不気味な笑みが張り付く。
「……テメェ、一体何者だ? 桐宮じゃねえだろ」
八雲はよろけながらも立ち上がり、鈍痛が激しく残る腹部を抑えながら低く唸った。
見た目も声も、間違いなく隼人そのものだ。だが、決定的な違いが二つあった。
一つは、その傍若無人な言動。
そしてもう一つは――爛々と輝く『金色の瞳』だ。
「オレが何者か? ……ハッ、そんなもん、お前に関係ねぇだろ?」
金眼の男は、八雲の警戒を嘲笑うかのように鼻で嗤った。
「あ?」
八雲は不機嫌の極みのような声で凄む。
「お前はただ、強い奴と闘いたいだけなんだろ? だったら、オレの中身が何者だろうが、大した問題じゃねぇんじゃないか?」
金眼の男が真理を突くようにそう答えると、八雲は一瞬ポカンとし――次の瞬間、腹の底から爆笑した。
「……ハハハハハッ! 確かにテメェの言う通りだ! テメェが何者とか、どうでもいい事だな!」
八雲は顔を天に向け、狂気すら孕んだ笑い声を響かせる。
「ほら、こいよ。少しは遊んでやる」
それを見た金眼の男もまた、底知れない強者の余裕を纏い、挑発するように片手で手招きした。
「おい、武器はどうした」
八雲が鋭く問う。金眼の男は無防備に突っ立っているだけで、双剣はおろか、何の武器も召喚していない。
「いらねぇよ。こんな遊び、素手で十分だ」
「チッ……良いぜ。だったら遠慮なく、その頭カチ割らせてもらうッ!」
あからさまに舐め腐った態度に苛立ち、八雲は鋭く舌打ちをした。
そして、八雲が如意棒を一気に伸ばす。
勢いを乗せた先端が、真っ直ぐアースへ迫った。
「実際に見ると、中々良いスピードだな……。だが、この程度、避ける必要すらねえ」
――ドッ!
「なに!?」
アースは迫る如意棒を、右手一本で真正面から受け止めていた。
八雲は信じられないモノを見るように目を見開いた。
砲弾のごとき威力で迫った如意棒の先端を、あろうことか『右手の平』だけで真正面から受け止め、完全に静止させていたのだ。
「こんなもんか?」
「だったら……ッ!」
八雲はそのまま如意棒を押し込もうと渾身の力を込める。
だが――ビクともしない。金眼の男が片手で掴んでいる如意棒は、まるで巨大な岩盤にでも縫い止められたかのように、ミリ単位すら動かすことができなかった。
(このスピードの乗った如意棒を、純粋な腕力だけで止めやがるとは……どんなイカれた力してやがんだ、こいつ!)
「おいおい、どーした? 力比べはこれで終わりか?」
「んなわけねぇだろッ!」
押し引きが通じないと悟った八雲は、咄嗟に如意棒の『長さ』ではなく『太さ』を巨大化させた。
「おっと。流石に丸太みてぇに太くなられると、片手じゃ掴みきれねぇな。なかなか頭回るじゃねぇか」
急激に膨張した如意棒を掴みきれなくなり、金眼の男はあっさりと手からそれを離した。
拘束から逃れた八雲は、すぐさま如意棒を元の使いやすい大きさと太さに戻し、手元へと引き戻す。
「んで? 次はどーすんだ?」
「……そんなもん、決まってんだろ!」
八雲は遠距離からの直線的な攻撃を早々に諦め、自ら地を蹴って金眼の男の懐へと飛び込み、接近戦を仕掛ける。
「ま、そーだよなぁ……少しは俺を楽しませろよ?」
金眼の男は猛然と迫る八雲に対し、やはり余裕の笑みを崩さず、防御の構えすら取らなかった。
「オラァッ!!」
八雲は勢いよく跳躍し、脳天を目掛けて如意棒を冷酷に振り下ろす。だが、金眼の男はまるで風に柳が揺れるかのような最小限の動きで、それを軽々と躱す。
一撃目が避けられることなど元より想定済みの八雲は流れるような動きで二撃、三撃と攻撃を繋ぎ、息つく暇もなく如意棒を振るい続ける。
しかし――その全てが、金眼の男の身体を掠めることすらできない。
「クソがッ!」
八雲の攻撃を、最小限の動きだけで次々とかわしていく。全く攻撃が当たらず八雲が苛立ちの悪態をつく。
「ほら、防戦の褒美だ。お返しだぜ」
金眼の男は無慈悲な声と共に、八雲の隙だらけの腹部目掛けて、コンパクトで洗練された右拳を振り抜いた。
「……ッ!!」
八雲は咄嗟に如意棒を盾にしてその拳をギリギリで防ぐが、その規格外の威力に耐えきれず、靴底を激しく削りながら後方へ数メートルも押し込まれた。
「へぇ、今のを防ぐか……。ただの人間、それも学生にしては中々良い動きをしてるじゃねえか」
「はっ! 得体の知れねぇテメェみたいなバケモンに褒められるとは、光栄だぜ!」
強がりを口にする八雲の額には、冷たい汗が伝っていた。
「じゃあ、今度はこっちからいかせてもらうわ……死ぬ気で防げよ?」
言葉が終わると同時、アースが地面を蹴った。
「!?」
八雲が反応した時には、すでに目前まで距離を詰められていた。
(速ぇ……!)
アースの拳が顔面へ迫る。
金眼の男が八雲の顔面を無造作に殴りつける。八雲は動物的な反射神経で首を捻り、それを間一髪で避ける。
だが、金眼の男の攻撃はそこで終わらない。空ぶった勢いをそのまま利用し、今度は八雲の脇腹目掛けて強烈な回し蹴りを放つ。
八雲はそれを左腕で強引にガードする。
「ガ……ッ」
凄まじい衝撃に腕の骨が軋み、思わず苦悶の表情を浮かべる。
その後も、金眼の男の猛攻は止まることを知らなかった。
初めのうちこそなんとか如意棒や腕で致命傷を防げていた八雲だが、金眼の男はまるでギアを上げるように、徐々に、しかし確実に攻撃のスピードと威力を引き上げていく。
やがてその速度に肉体が対応しきれなくなり、八雲は次々と無情な打撃をその身に受け始めた。
「ほらほら! どうしたぁ! さっきまでの勢いはこんなモンか!?」
金眼の男は心底楽しそうに、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら八雲をサンドバッグのように殴りつける。
八雲はもはや反撃の糸口すら掴めず、ただ一方的に攻撃を浴びるしかなかった。
そして――金眼の男の重い右拳が、八雲の腹部を完璧に捉えた。
ドスッ!という鈍い音が響き渡る。
八雲の身体は激痛にくの字に折れ曲がり、膝から崩れ落ちるようにして、前のめりに金眼の男の肩へと重くもたれ掛かった。
「ま、人間にしてはよく耐えた方だ……。楽に終わりにしてやるよ」
意識を刈り取られたかに見える八雲の身体を肩で支えながら、金眼の男は退屈そうに呟き、腕時計を壊すべく手を伸ばす。
掠れた、しかし確かな殺意を持った声。
「お前がな……【インフェルノ・フレイム】ッ!!」
その瞬間、八雲は残された全ての魔力を振り絞り、金眼の男に密着したゼロ距離の状態から最上級魔法をぶっ放した。
ドゴォォォォォンッ!!!
業火が弾け、二人を中心に巨大な爆発が巻き起こる。
「……ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
放つと同時に後方へ跳び、爆発から逃れるように距離を取った。八雲は、両膝に手をついて荒い息を吐いた。
「流石に俺も今の爆発でダメージは受けるが……ゼロ距離で最上級魔法を直撃させたんだ。いくらあいつがバケモンでも、ただじゃ済んでねぇだろ……ッ!」
八雲は祈るような気持ちで、魔法の衝撃で巻き起こった巨大な黒煙のドームを睨みつける。
数秒が経ち、夜風に吹かれて黒煙が徐々に晴れていくと、その中から――。
「ハハハハハハッ!!」
大仰な笑い声が響き渡った。
土煙が完全に晴れたそこに立っていたのは、制服こそ爆炎で所々焼け焦げて破れているものの、肉体には目立った傷一つ負っていない、ほぼ無傷の金眼の男の姿だった。
「いや~、驚いた! オレはてっきり、お前は魔法が不得意な脳筋タイプだと思ってたんだが……まさかあんな至近距離から、躊躇なく最上級魔法をブッパなしてくるとはな!」
金眼の男は服についた砂埃をパンパンと払いながら、極上のエンターテインメントを見たかのように八雲に向かって嗤う。
「んで? 次は何を見せてくれんだ? もっとオレを楽しませてくれよ!」
金眼の男は、新しくて頑丈な玩具を見つけた子供のように、無邪気に、そして残酷に笑う。
「くそが……マジで化け物かよ……」
絶対的な力の差を見せつけられ、八雲にはもはや驚く気力すら残されていなかった。絶望と疲労が全身を支配し、ただそう悪態を呟くことしかできない。
「その化け物相手に、最後まで無様に足掻いてみせろよ? 人間」
尊大な神のようにそう言い放つと、金眼の男は獲物を狩るべく、再び力強く地面を蹴った。
土埃に塗れ、ピクリとも動かなくなった隼人を見下ろし、八雲はつまらなそうに吐き捨てた。
「……チッ、本当に終わりかよ。張り合いのねぇ」
まだまだ闘いの熱狂に浸っていたかった八雲は、持ち前の赤髪を苛立たしげに掻き毟る。その柄の悪い、不良めいた風貌には、明らかな不完全燃焼の苛立ちが浮かんでいた。
「ま、良いか。それなりに楽しめたし……さっさと時計壊して終わるか」
肩を竦め、八雲は無防備に倒れ伏す隼人の方へと歩み寄る。
「それにしても……この時計も、持ち主が気絶してんなら勝手に壊れれば良いのによ。――あー、まさか倒れたフリして機を窺ってたりすんのか?」
途中で、隼人の腕時計型デバイスがまだ破壊判定になっていないことに疑問を抱いた八雲は、ピタリと足を止め、隼人に対する警戒心を再び高めた。
「演技にしろ気絶してるにしろ、これでキッチリ終わりにしてやるよ!」
八雲は無慈悲に、隼人の時計――そしてその腕ごと叩き割る勢いで、如意棒を上段から振り下ろした。
――刹那。
八雲の身体が突然、後方へと弾き飛ばされた。
「……ッ!?」
受け身も取れないまま地面を転がり、八雲は咄嗟に顔を上げる。
(何が起きた!?)
八雲は、腹部に叩き込まれた重い衝撃以外、自身の身に一体何が起きたのか全く理解できなかった。
ただ、土を噛んで倒れ伏しながら、その原因である前方の存在を睨みつける。
そこには、先程まで気絶していたはずの隼人が、ゆっくりと立ち上がっている姿があった。
隼人は俯いていた顔を上げ、左手を首筋に当てて、ひどく気怠そうに首をコキ、コキと2、3度鳴らした。
「あー……久々の外だな」
まるで長い眠りから覚めたばかりのような、ひどく気怠げな、しかし芯に絶対的な力を持った声が響く。
そして、ゆっくりと八雲の方へ視線を向けた。
「それにしてもさっきの、直前で咄嗟に後ろに飛んで威力を軽減させたな? 完全に見えてなかったはずなのに、野生の勘ってやつか?」
やるじゃねえか、と。
その口元に、いつもの隼人なら絶対に浮かべないような、傲慢で不気味な笑みが張り付く。
「……テメェ、一体何者だ? 桐宮じゃねえだろ」
八雲はよろけながらも立ち上がり、鈍痛が激しく残る腹部を抑えながら低く唸った。
見た目も声も、間違いなく隼人そのものだ。だが、決定的な違いが二つあった。
一つは、その傍若無人な言動。
そしてもう一つは――爛々と輝く『金色の瞳』だ。
「オレが何者か? ……ハッ、そんなもん、お前に関係ねぇだろ?」
金眼の男は、八雲の警戒を嘲笑うかのように鼻で嗤った。
「あ?」
八雲は不機嫌の極みのような声で凄む。
「お前はただ、強い奴と闘いたいだけなんだろ? だったら、オレの中身が何者だろうが、大した問題じゃねぇんじゃないか?」
金眼の男が真理を突くようにそう答えると、八雲は一瞬ポカンとし――次の瞬間、腹の底から爆笑した。
「……ハハハハハッ! 確かにテメェの言う通りだ! テメェが何者とか、どうでもいい事だな!」
八雲は顔を天に向け、狂気すら孕んだ笑い声を響かせる。
「ほら、こいよ。少しは遊んでやる」
それを見た金眼の男もまた、底知れない強者の余裕を纏い、挑発するように片手で手招きした。
「おい、武器はどうした」
八雲が鋭く問う。金眼の男は無防備に突っ立っているだけで、双剣はおろか、何の武器も召喚していない。
「いらねぇよ。こんな遊び、素手で十分だ」
「チッ……良いぜ。だったら遠慮なく、その頭カチ割らせてもらうッ!」
あからさまに舐め腐った態度に苛立ち、八雲は鋭く舌打ちをした。
そして、八雲が如意棒を一気に伸ばす。
勢いを乗せた先端が、真っ直ぐアースへ迫った。
「実際に見ると、中々良いスピードだな……。だが、この程度、避ける必要すらねえ」
――ドッ!
「なに!?」
アースは迫る如意棒を、右手一本で真正面から受け止めていた。
八雲は信じられないモノを見るように目を見開いた。
砲弾のごとき威力で迫った如意棒の先端を、あろうことか『右手の平』だけで真正面から受け止め、完全に静止させていたのだ。
「こんなもんか?」
「だったら……ッ!」
八雲はそのまま如意棒を押し込もうと渾身の力を込める。
だが――ビクともしない。金眼の男が片手で掴んでいる如意棒は、まるで巨大な岩盤にでも縫い止められたかのように、ミリ単位すら動かすことができなかった。
(このスピードの乗った如意棒を、純粋な腕力だけで止めやがるとは……どんなイカれた力してやがんだ、こいつ!)
「おいおい、どーした? 力比べはこれで終わりか?」
「んなわけねぇだろッ!」
押し引きが通じないと悟った八雲は、咄嗟に如意棒の『長さ』ではなく『太さ』を巨大化させた。
「おっと。流石に丸太みてぇに太くなられると、片手じゃ掴みきれねぇな。なかなか頭回るじゃねぇか」
急激に膨張した如意棒を掴みきれなくなり、金眼の男はあっさりと手からそれを離した。
拘束から逃れた八雲は、すぐさま如意棒を元の使いやすい大きさと太さに戻し、手元へと引き戻す。
「んで? 次はどーすんだ?」
「……そんなもん、決まってんだろ!」
八雲は遠距離からの直線的な攻撃を早々に諦め、自ら地を蹴って金眼の男の懐へと飛び込み、接近戦を仕掛ける。
「ま、そーだよなぁ……少しは俺を楽しませろよ?」
金眼の男は猛然と迫る八雲に対し、やはり余裕の笑みを崩さず、防御の構えすら取らなかった。
「オラァッ!!」
八雲は勢いよく跳躍し、脳天を目掛けて如意棒を冷酷に振り下ろす。だが、金眼の男はまるで風に柳が揺れるかのような最小限の動きで、それを軽々と躱す。
一撃目が避けられることなど元より想定済みの八雲は流れるような動きで二撃、三撃と攻撃を繋ぎ、息つく暇もなく如意棒を振るい続ける。
しかし――その全てが、金眼の男の身体を掠めることすらできない。
「クソがッ!」
八雲の攻撃を、最小限の動きだけで次々とかわしていく。全く攻撃が当たらず八雲が苛立ちの悪態をつく。
「ほら、防戦の褒美だ。お返しだぜ」
金眼の男は無慈悲な声と共に、八雲の隙だらけの腹部目掛けて、コンパクトで洗練された右拳を振り抜いた。
「……ッ!!」
八雲は咄嗟に如意棒を盾にしてその拳をギリギリで防ぐが、その規格外の威力に耐えきれず、靴底を激しく削りながら後方へ数メートルも押し込まれた。
「へぇ、今のを防ぐか……。ただの人間、それも学生にしては中々良い動きをしてるじゃねえか」
「はっ! 得体の知れねぇテメェみたいなバケモンに褒められるとは、光栄だぜ!」
強がりを口にする八雲の額には、冷たい汗が伝っていた。
「じゃあ、今度はこっちからいかせてもらうわ……死ぬ気で防げよ?」
言葉が終わると同時、アースが地面を蹴った。
「!?」
八雲が反応した時には、すでに目前まで距離を詰められていた。
(速ぇ……!)
アースの拳が顔面へ迫る。
金眼の男が八雲の顔面を無造作に殴りつける。八雲は動物的な反射神経で首を捻り、それを間一髪で避ける。
だが、金眼の男の攻撃はそこで終わらない。空ぶった勢いをそのまま利用し、今度は八雲の脇腹目掛けて強烈な回し蹴りを放つ。
八雲はそれを左腕で強引にガードする。
「ガ……ッ」
凄まじい衝撃に腕の骨が軋み、思わず苦悶の表情を浮かべる。
その後も、金眼の男の猛攻は止まることを知らなかった。
初めのうちこそなんとか如意棒や腕で致命傷を防げていた八雲だが、金眼の男はまるでギアを上げるように、徐々に、しかし確実に攻撃のスピードと威力を引き上げていく。
やがてその速度に肉体が対応しきれなくなり、八雲は次々と無情な打撃をその身に受け始めた。
「ほらほら! どうしたぁ! さっきまでの勢いはこんなモンか!?」
金眼の男は心底楽しそうに、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら八雲をサンドバッグのように殴りつける。
八雲はもはや反撃の糸口すら掴めず、ただ一方的に攻撃を浴びるしかなかった。
そして――金眼の男の重い右拳が、八雲の腹部を完璧に捉えた。
ドスッ!という鈍い音が響き渡る。
八雲の身体は激痛にくの字に折れ曲がり、膝から崩れ落ちるようにして、前のめりに金眼の男の肩へと重くもたれ掛かった。
「ま、人間にしてはよく耐えた方だ……。楽に終わりにしてやるよ」
意識を刈り取られたかに見える八雲の身体を肩で支えながら、金眼の男は退屈そうに呟き、腕時計を壊すべく手を伸ばす。
掠れた、しかし確かな殺意を持った声。
「お前がな……【インフェルノ・フレイム】ッ!!」
その瞬間、八雲は残された全ての魔力を振り絞り、金眼の男に密着したゼロ距離の状態から最上級魔法をぶっ放した。
ドゴォォォォォンッ!!!
業火が弾け、二人を中心に巨大な爆発が巻き起こる。
「……ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
放つと同時に後方へ跳び、爆発から逃れるように距離を取った。八雲は、両膝に手をついて荒い息を吐いた。
「流石に俺も今の爆発でダメージは受けるが……ゼロ距離で最上級魔法を直撃させたんだ。いくらあいつがバケモンでも、ただじゃ済んでねぇだろ……ッ!」
八雲は祈るような気持ちで、魔法の衝撃で巻き起こった巨大な黒煙のドームを睨みつける。
数秒が経ち、夜風に吹かれて黒煙が徐々に晴れていくと、その中から――。
「ハハハハハハッ!!」
大仰な笑い声が響き渡った。
土煙が完全に晴れたそこに立っていたのは、制服こそ爆炎で所々焼け焦げて破れているものの、肉体には目立った傷一つ負っていない、ほぼ無傷の金眼の男の姿だった。
「いや~、驚いた! オレはてっきり、お前は魔法が不得意な脳筋タイプだと思ってたんだが……まさかあんな至近距離から、躊躇なく最上級魔法をブッパなしてくるとはな!」
金眼の男は服についた砂埃をパンパンと払いながら、極上のエンターテインメントを見たかのように八雲に向かって嗤う。
「んで? 次は何を見せてくれんだ? もっとオレを楽しませてくれよ!」
金眼の男は、新しくて頑丈な玩具を見つけた子供のように、無邪気に、そして残酷に笑う。
「くそが……マジで化け物かよ……」
絶対的な力の差を見せつけられ、八雲にはもはや驚く気力すら残されていなかった。絶望と疲労が全身を支配し、ただそう悪態を呟くことしかできない。
「その化け物相手に、最後まで無様に足掻いてみせろよ? 人間」
尊大な神のようにそう言い放つと、金眼の男は獲物を狩るべく、再び力強く地面を蹴った。
