圧倒的な実力を見せつけたルイと入れ替わるように、玲奈の番が回ってきた。
「頑張れよ」
俺が声をかけると、彼女は一瞬足を止め、チラリとこちらを振り返った。だが、結局何も言わずに前を向き、凛とした足取りでフィールドへ向かった。
「……また無視かよ」
「照れてるんじゃねぇの?」
紘弥が肩をぶつけながらニヤニヤと小突いてくる。
「あいつが照れる? 槍が降ってもありえねぇよ」
あいつにそんな殊勝な感情があるなら、明日は大雨どころか雪が降るだろう。
フィールドに立った玲奈は、氷細剣〈ニヴルヘイム〉を抜いた。
相手の女子生徒も気合十分で片手剣を構えるが、玲奈が纏う「冷気」は、既に障壁越しでもわかるほど闘技場の温度を急降下させていた。
「試合開始!」
烏廻先生の合図と共に、二人が交錯する。キィィィィン! と、高音の金属音が鼓膜を刺す。
だが、互角の攻防が続いたのは最初の一撃だけだった。
玲奈の剣が触れるたび、相手の剣が、そして彼女が踏みしめる石畳が、見る間に白く凍りついていく。
「これで、終わりよ……」
玲奈が華麗な旋回と共に、ニヴルヘイムの切っ先を地面に突き立てた。
「〖氷結葬〗」
刹那、相手の女子生徒を中心に、巨大で鋭利な氷の結晶が美しく、そして残酷に咲き誇った。
「えっ……動けない!?」
女子生徒は全身を氷の檻に閉じ込められ、指一本動かせないまま、驚愕の表情で固定された。
「……試合終了! 勝者、西園寺 玲奈!」
数秒の沈黙の後、烏廻先生の声が響く。先生が急いで魔法を解除し、女子生徒を覆う氷を溶かしていく。
圧倒的。まさに蹂躙。玲奈は剣を鞘に納めると、優雅な足取りで観客席へ戻ってきた。
「おめでと~! 玲奈ちゃんかっこいい~!」
サラが待ってましたと言わんばかりに、また玲奈に抱きつく。
「ちょっ……抱きつかないでって言ってるでしょ! 離しなさい!」
顔を真っ赤にして抵抗する玲奈と、構わず頬ずりするサラ。この光景を見ていると、さっきまでの凍り付くような緊張感が嘘のようだ。
順調に勝ち進む仲間たちを頼もしく思いながらも、俺の心臓は少しずつ、確かな警鐘を鳴らし始めていた。
それから時間は過ぎ、予選の試合も半分を消化した。
フィールドでは熱戦が続いているが、観客席の俺たちの空気は少しずつ張り詰め始めていた。次の試合は、橘の番だ。
「瑞希~! 大丈夫、深呼吸して!」
サラが橘の肩を揉みながら励ます。
「……うん、大丈夫。……だと思う」
橘は弓を握りしめ、小さく頷いた。その指先がわずかに震えているのを、俺は見逃さなかった。
「――試合終了! 」
烏廻先生の声が響く。
「……行ってくるね」
橘が席を立った。
「いつも通りやれば大丈夫だ。一回戦と同じように橘のペースで戦え」
「瑞希なら絶対勝てるよ!」
「ありがとう、桐宮君、サラちゃん。……頑張ってくる」
俺たちの激励を受け、瑞希は少しだけ表情を和らげてフィールドへと向かった。
「試合開始!」
合図と同時に、橘は大きくバックステップを踏みながら武具召喚を行った。手元に現れるのは、桜色の光を帯びた優美な弓〈天ノ桜〉。
対する相手の男子生徒は、長槍を構えて一気に距離を詰めようとする。だが、橘の放つ矢がそれを許さない。
一射、二射。橘の矢は正確に相手の足元と肩を狙い、突進を阻害する。
「瑞希~! その調子よ!」
サラの大きな声が闘技場に響く。
男子生徒は苛立ちを見せ、槍を地面に突き立てて呪文を唱えた。
「【ファイヤー・ウォール】!」
橘と相手の間に、巨大な炎の壁が立ち上がった。
橘の放った矢が炎に巻かれ、威力を削がれて燃え落ちる。橘の攻撃が一瞬、止まった。
「もらったぁ!」
男子生徒はその隙を見逃さず、炎の壁を突き抜けて一気に肉薄した。槍の鋭い突きが瑞希を襲う。橘は必死に避けるが、槍の穂先が制服の肩口をかすめ、わずかに血が滲んだ。
「……まずいな」
「弓使いに接近戦は致命的だぜ」
紘弥が苦々しく呟く。だが、橘の瞳はまだ死んでいなかった。
相手の攻撃は大振りになり、橘を追い詰めたという確信が隙を生む。橘はその一瞬の硬直を突き、至近距離から足元へ光弾を放って目くらましを仕掛けると、一気に後方へ跳んだ。
再び距離を取った橘だが、相手はまたも炎の壁を展開しようとする。
「これじゃあ、さっきと同じことに……」
サラが不安げに漏らした。だが、橘はもう正面からは狙わなかった。彼女は弓を、真上の空へと向けたのだ。
「……何をするつもりだ?」
橘は魔力を矢に込め、天高く放った。矢は空中で一度止まり、桜の花びらが舞うような光を放ったかと思うと、数百の光の矢へと分裂した。
「〖流星〗!」
瑞希の声と共に、空を埋め尽くした光の矢が、降り注ぐ流星群となって男子生徒の頭上へ降り注いだ。
前方の壁で守っていた相手は、まさか真上から攻撃が来るとは予想だにしていなかった。無数の光の矢が防壁を無視して男子生徒に突き刺さり、その場に崩れ落ちる。
「試合終了! 勝者、橘 瑞希!」
「いや……すごかったな」
「ああ、あれは避けようがねぇわ」
空から降る魔法の矢。広範囲かつ高精度の狙撃に、観客席からもどよめきが上がった。
戻ってきた瑞希を、サラが力いっぱい抱きしめる。
「瑞希~! 心配したんだから!」
「う、うん……ありがとサラちゃん。でも、ちょっと苦しいかな……」
その後、数試合を挟んで紘弥の番が来た。
「よし、次は俺だな」
紘弥が軽く首を鳴らして立ち上がる。
「頑張れよ」
「おう! サクッと終わらせて、お前に最高のバトンを繋いでやるよ!」
紘弥は不敵に笑い、跳ねるような足取りでフィールドへ向かった。
「あいつ、本当に緊張しねぇな」
俺が呆れたように言うと、隣のサラが、羨ましそうに溜息をついた。
「想像できないよね。一回戦の時もそうだったけど、ずっと『いつも通り』っていうか……むしろ楽しそう」
「それはサラも一緒だろ」
「えーっ!? 私はあんなに余裕ないよ! 隼人君、私があの日どれだけ噛み倒したか忘れたの!?」
サラが不満げに頬を膨らませている間に、試合が始まった。
「試合開始!」
紘弥は愛用の双銃〈麒麟〉を構える。相手の男子生徒は片手剣。開始早々、相手は銃撃を警戒して蛇行しながら突っ込んできた。
だが、一回戦と同様、紘弥は接近されても動じない。剣の連撃を最小限の動きで避け、懐に入り込んだ相手の腹部に強烈な蹴りを見舞った。
「ぐっ……!?」
弾き飛ばされる男子生徒。だが、紘弥は追撃の銃弾を放たなかった。
「……接近戦には接近戦だ。こいつの本領、見せてやるよ」
紘弥が低く呟くと、双銃がまばゆい雷光に包まれた。
「いくぜ、《形状変化》!」
光が収まった時、紘弥の両手から銃は消えていた。代わりに握られていたのは、バチバチと青白い火花を散らす、身の丈ほどもある巨大な雷剣だ。
「……大剣!? 銃だけじゃなかったのかよ」
紘弥は雷剣を肩に担ぎ、一気に地を蹴った。その速さは銃使いの時を遥かに凌駕している。
「はあああ!」
振り下ろされる大剣。相手は剣で防ごうとしたが、重戦車のような質量と雷の衝撃に耐えきれず、武器ごと弾き飛ばされて壁に激突した。
「仕上げだ。〖獅子雷雷〗!」
紘弥が大剣を振り抜くと、獅子の咆哮のような雷鳴と共に、極太の雷光が斬撃となって放たれた。直撃を受けた相手は、防御デバイスが弾ける間もなく気絶し、勝負が決した。
「試合終了! 勝者、九条 紘弥!」
「さっすが紘弥君!」
観客席へ戻ってくる紘弥。銃と剣を使い分ける変幻自在の戦い。あいつもまた、底の知れない実力者だったのだ。
「……さて」
俺はゆっくりと立ち上がり、軽く肩を回す。
仲間の勝利を見届け、俺の心は驚くほど静かだった。
「隼人君、頑張ってね!」
「応援してるよ、桐宮君」
サラと瑞希の声に頷き、一歩踏み出した。すると。
「……隼人」
呼び止められ振り返ると、そこには玲奈がいた。彼女は視線を少し逸らしながら、蚊の鳴くような声で言った。
「……その、頑張りなさいよ。……負けは許さないから」
「! ……ああ、分かってる」
柄にもない言葉に驚いたが、俺は笑って返した。
フィールドへの通路を歩いていると、向こうから試合を終えた紘弥が歩いてきた。
「隼人!」
紘弥が立ち止まり、真剣な目で俺を見た。
「相手はあの帝だ。かなり強い……けど、お前なら絶対に大丈夫だ」
「……サンキューな、紘弥」
俺は紘弥の横を通り過ぎ、光の射すフィールドへと足を踏み出す。
「……勝てよ、隼人!」
後ろから飛んできた紘弥の叫び声に、俺は片手を挙げて応えた。
これで、仲間たちは全員が代表入りへ王手をかけた。
残るは、俺の試合だけ。
視線の先、フィールドの中央に一人の男が立っていた。
圧倒的な威圧感を放ち、周囲の空気さえも物理的に重く変えてしまう男――帝 竜二。
俺たちの視線が、空中で激しくぶつかった。
観客席の喧騒が遠のき、世界から音が消える。
魔闘祭予選二回戦。
俺の、そして俺たちの意地を懸けた戦いが、今始まる。
「頑張れよ」
俺が声をかけると、彼女は一瞬足を止め、チラリとこちらを振り返った。だが、結局何も言わずに前を向き、凛とした足取りでフィールドへ向かった。
「……また無視かよ」
「照れてるんじゃねぇの?」
紘弥が肩をぶつけながらニヤニヤと小突いてくる。
「あいつが照れる? 槍が降ってもありえねぇよ」
あいつにそんな殊勝な感情があるなら、明日は大雨どころか雪が降るだろう。
フィールドに立った玲奈は、氷細剣〈ニヴルヘイム〉を抜いた。
相手の女子生徒も気合十分で片手剣を構えるが、玲奈が纏う「冷気」は、既に障壁越しでもわかるほど闘技場の温度を急降下させていた。
「試合開始!」
烏廻先生の合図と共に、二人が交錯する。キィィィィン! と、高音の金属音が鼓膜を刺す。
だが、互角の攻防が続いたのは最初の一撃だけだった。
玲奈の剣が触れるたび、相手の剣が、そして彼女が踏みしめる石畳が、見る間に白く凍りついていく。
「これで、終わりよ……」
玲奈が華麗な旋回と共に、ニヴルヘイムの切っ先を地面に突き立てた。
「〖氷結葬〗」
刹那、相手の女子生徒を中心に、巨大で鋭利な氷の結晶が美しく、そして残酷に咲き誇った。
「えっ……動けない!?」
女子生徒は全身を氷の檻に閉じ込められ、指一本動かせないまま、驚愕の表情で固定された。
「……試合終了! 勝者、西園寺 玲奈!」
数秒の沈黙の後、烏廻先生の声が響く。先生が急いで魔法を解除し、女子生徒を覆う氷を溶かしていく。
圧倒的。まさに蹂躙。玲奈は剣を鞘に納めると、優雅な足取りで観客席へ戻ってきた。
「おめでと~! 玲奈ちゃんかっこいい~!」
サラが待ってましたと言わんばかりに、また玲奈に抱きつく。
「ちょっ……抱きつかないでって言ってるでしょ! 離しなさい!」
顔を真っ赤にして抵抗する玲奈と、構わず頬ずりするサラ。この光景を見ていると、さっきまでの凍り付くような緊張感が嘘のようだ。
順調に勝ち進む仲間たちを頼もしく思いながらも、俺の心臓は少しずつ、確かな警鐘を鳴らし始めていた。
それから時間は過ぎ、予選の試合も半分を消化した。
フィールドでは熱戦が続いているが、観客席の俺たちの空気は少しずつ張り詰め始めていた。次の試合は、橘の番だ。
「瑞希~! 大丈夫、深呼吸して!」
サラが橘の肩を揉みながら励ます。
「……うん、大丈夫。……だと思う」
橘は弓を握りしめ、小さく頷いた。その指先がわずかに震えているのを、俺は見逃さなかった。
「――試合終了! 」
烏廻先生の声が響く。
「……行ってくるね」
橘が席を立った。
「いつも通りやれば大丈夫だ。一回戦と同じように橘のペースで戦え」
「瑞希なら絶対勝てるよ!」
「ありがとう、桐宮君、サラちゃん。……頑張ってくる」
俺たちの激励を受け、瑞希は少しだけ表情を和らげてフィールドへと向かった。
「試合開始!」
合図と同時に、橘は大きくバックステップを踏みながら武具召喚を行った。手元に現れるのは、桜色の光を帯びた優美な弓〈天ノ桜〉。
対する相手の男子生徒は、長槍を構えて一気に距離を詰めようとする。だが、橘の放つ矢がそれを許さない。
一射、二射。橘の矢は正確に相手の足元と肩を狙い、突進を阻害する。
「瑞希~! その調子よ!」
サラの大きな声が闘技場に響く。
男子生徒は苛立ちを見せ、槍を地面に突き立てて呪文を唱えた。
「【ファイヤー・ウォール】!」
橘と相手の間に、巨大な炎の壁が立ち上がった。
橘の放った矢が炎に巻かれ、威力を削がれて燃え落ちる。橘の攻撃が一瞬、止まった。
「もらったぁ!」
男子生徒はその隙を見逃さず、炎の壁を突き抜けて一気に肉薄した。槍の鋭い突きが瑞希を襲う。橘は必死に避けるが、槍の穂先が制服の肩口をかすめ、わずかに血が滲んだ。
「……まずいな」
「弓使いに接近戦は致命的だぜ」
紘弥が苦々しく呟く。だが、橘の瞳はまだ死んでいなかった。
相手の攻撃は大振りになり、橘を追い詰めたという確信が隙を生む。橘はその一瞬の硬直を突き、至近距離から足元へ光弾を放って目くらましを仕掛けると、一気に後方へ跳んだ。
再び距離を取った橘だが、相手はまたも炎の壁を展開しようとする。
「これじゃあ、さっきと同じことに……」
サラが不安げに漏らした。だが、橘はもう正面からは狙わなかった。彼女は弓を、真上の空へと向けたのだ。
「……何をするつもりだ?」
橘は魔力を矢に込め、天高く放った。矢は空中で一度止まり、桜の花びらが舞うような光を放ったかと思うと、数百の光の矢へと分裂した。
「〖流星〗!」
瑞希の声と共に、空を埋め尽くした光の矢が、降り注ぐ流星群となって男子生徒の頭上へ降り注いだ。
前方の壁で守っていた相手は、まさか真上から攻撃が来るとは予想だにしていなかった。無数の光の矢が防壁を無視して男子生徒に突き刺さり、その場に崩れ落ちる。
「試合終了! 勝者、橘 瑞希!」
「いや……すごかったな」
「ああ、あれは避けようがねぇわ」
空から降る魔法の矢。広範囲かつ高精度の狙撃に、観客席からもどよめきが上がった。
戻ってきた瑞希を、サラが力いっぱい抱きしめる。
「瑞希~! 心配したんだから!」
「う、うん……ありがとサラちゃん。でも、ちょっと苦しいかな……」
その後、数試合を挟んで紘弥の番が来た。
「よし、次は俺だな」
紘弥が軽く首を鳴らして立ち上がる。
「頑張れよ」
「おう! サクッと終わらせて、お前に最高のバトンを繋いでやるよ!」
紘弥は不敵に笑い、跳ねるような足取りでフィールドへ向かった。
「あいつ、本当に緊張しねぇな」
俺が呆れたように言うと、隣のサラが、羨ましそうに溜息をついた。
「想像できないよね。一回戦の時もそうだったけど、ずっと『いつも通り』っていうか……むしろ楽しそう」
「それはサラも一緒だろ」
「えーっ!? 私はあんなに余裕ないよ! 隼人君、私があの日どれだけ噛み倒したか忘れたの!?」
サラが不満げに頬を膨らませている間に、試合が始まった。
「試合開始!」
紘弥は愛用の双銃〈麒麟〉を構える。相手の男子生徒は片手剣。開始早々、相手は銃撃を警戒して蛇行しながら突っ込んできた。
だが、一回戦と同様、紘弥は接近されても動じない。剣の連撃を最小限の動きで避け、懐に入り込んだ相手の腹部に強烈な蹴りを見舞った。
「ぐっ……!?」
弾き飛ばされる男子生徒。だが、紘弥は追撃の銃弾を放たなかった。
「……接近戦には接近戦だ。こいつの本領、見せてやるよ」
紘弥が低く呟くと、双銃がまばゆい雷光に包まれた。
「いくぜ、《形状変化》!」
光が収まった時、紘弥の両手から銃は消えていた。代わりに握られていたのは、バチバチと青白い火花を散らす、身の丈ほどもある巨大な雷剣だ。
「……大剣!? 銃だけじゃなかったのかよ」
紘弥は雷剣を肩に担ぎ、一気に地を蹴った。その速さは銃使いの時を遥かに凌駕している。
「はあああ!」
振り下ろされる大剣。相手は剣で防ごうとしたが、重戦車のような質量と雷の衝撃に耐えきれず、武器ごと弾き飛ばされて壁に激突した。
「仕上げだ。〖獅子雷雷〗!」
紘弥が大剣を振り抜くと、獅子の咆哮のような雷鳴と共に、極太の雷光が斬撃となって放たれた。直撃を受けた相手は、防御デバイスが弾ける間もなく気絶し、勝負が決した。
「試合終了! 勝者、九条 紘弥!」
「さっすが紘弥君!」
観客席へ戻ってくる紘弥。銃と剣を使い分ける変幻自在の戦い。あいつもまた、底の知れない実力者だったのだ。
「……さて」
俺はゆっくりと立ち上がり、軽く肩を回す。
仲間の勝利を見届け、俺の心は驚くほど静かだった。
「隼人君、頑張ってね!」
「応援してるよ、桐宮君」
サラと瑞希の声に頷き、一歩踏み出した。すると。
「……隼人」
呼び止められ振り返ると、そこには玲奈がいた。彼女は視線を少し逸らしながら、蚊の鳴くような声で言った。
「……その、頑張りなさいよ。……負けは許さないから」
「! ……ああ、分かってる」
柄にもない言葉に驚いたが、俺は笑って返した。
フィールドへの通路を歩いていると、向こうから試合を終えた紘弥が歩いてきた。
「隼人!」
紘弥が立ち止まり、真剣な目で俺を見た。
「相手はあの帝だ。かなり強い……けど、お前なら絶対に大丈夫だ」
「……サンキューな、紘弥」
俺は紘弥の横を通り過ぎ、光の射すフィールドへと足を踏み出す。
「……勝てよ、隼人!」
後ろから飛んできた紘弥の叫び声に、俺は片手を挙げて応えた。
これで、仲間たちは全員が代表入りへ王手をかけた。
残るは、俺の試合だけ。
視線の先、フィールドの中央に一人の男が立っていた。
圧倒的な威圧感を放ち、周囲の空気さえも物理的に重く変えてしまう男――帝 竜二。
俺たちの視線が、空中で激しくぶつかった。
観客席の喧騒が遠のき、世界から音が消える。
魔闘祭予選二回戦。
俺の、そして俺たちの意地を懸けた戦いが、今始まる。
