「……全然来ないわね」
玲奈は苛立ちを隠せない様子で、自身の腕を組んで足元をコツコツと鳴らした。
「まあいいじゃねえか。焦っても仕方ないだろ」
「私は、あいつと闘いたいのよ」
玲奈の瞳には、明確な怒りが宿っていた。以前、八雲に「女だから」という理由で戦うことを避けられ、馬鹿にされたように感じたことへの腹立たしさが、まだ腹の底で燻っているのだ。
「そんなこと言ったって、そう簡単に来るとも限らないだろ」
俺は周囲を警戒しながら言う。八雲たちもどこかで身を潜めているのかもしれないし。まあ、あの八雲の性格からして、コソコソ隠れているようなことはないと思うが。
「とにかく……あれは?」
玲奈が視線を向けた先、遠くの通路の向こうから二つの人影がゆっくりとこちらへ近づいてくるのが見えた。
「……やっと来たのね」
距離が縮まるにつれ、その姿がはっきりと輪郭を結ぶ。八雲と一ノ瀬のペアだ。
「よー。やっぱここに居たのか」
八雲は散歩にでも来たかのような軽い足取りで手を挙げた。
「相変わらず勘が鋭いわね」
こいつ、ただの勘でここまで真っ直ぐ来たのか。
「……無駄話は後にしてくれる?」
玲奈が一歩前に出て、鋭い声で遮った。
「あ? なんだ?」
「こいつは私が貰うわよ。いいわよね、隼人」
玲奈は俺の返事を待つことなく、魔力を解放した。
冷気を纏った美しい剣が、玲奈の右手に顕現する。
「さあ、あんたも早くして」
「はあ? 俺は闘うなんて一言も言ってねえだろ」
「そんなの知らないわよ」
なんて勝手なやつだ。まあ、玲奈のこの強引さはいつも通りか。
「だいたい、俺は女とは闘いたくないんでな……一ノ瀬、かわりに闘っといてくれ」
八雲は面倒くさそうに首を掻き、後ろの一ノ瀬の方を見て玲奈の相手を頼んだ。
「はあ、私? ……って、向こうはそんな気ないみたいよ」
一ノ瀬が呆れたように玲奈の方を指差した。
「ん?……うぉ! あっぶね」
八雲が振り向いた瞬間、玲奈はすでに地を蹴り、八雲の眼前にまで肉薄していた。鋭い踏み込みからの刺突。
しかし、八雲はそれを紙一重で、しかも最小限の動きで軽々とかわしてみせた。
「もう容赦しないわよ!」
「ちっ……めんどくせぇな」
「反撃しないと終わるわよ!」
玲奈が渾身の力で剣を振り下ろした。
――パキッ。
「な……んで」
玲奈の剣が空を切り、代わりに硬質な破砕音が響いた。
玲奈は信じられないという表情で、自身の腕を見下ろしている。彼女の腕にはめられていた時計の文字盤が、無残に砕け散っていた。
(今の攻撃……全く見えなかった。こいつ、やっぱり只者じゃないぞ)
俺は背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。
「感情的になりすぎだ。大振りになった隙に時計を壊すのなんて、簡単だったぜ」
八雲はいつの間にか玲奈の背後に立ち、つまらなそうに言った。
「ま、普段は『時計が壊されたら負け』なんて特殊なルールの闘いじゃねえからな。勝手が違ったんだろ」
「……ッ」
玲奈は悔しそうに唇を噛み、その場に膝をついて座り込んだ。
「……ごめん」
玲奈が消え入るような声で謝る。
「私がムキになって……」
「気にすんな。別にこれで負けが決まったわけじゃないだろ」
俺は玲奈の言葉を遮り、努めて平静な声で言った。
「……絶対、勝ちなさいよ」
そう言い残した玲奈の拳は、白くなるほど力強く握られていた。
「ああ。絶対勝つ」
玲奈の身体が淡い光の粒子に包まれ、その場からふっと消えていった。転送装置が作動したのだ。
「それじゃあ、邪魔者もいなくなったことだし、始めるとするか」
八雲は俺の方へと向き直り、不敵に笑った。
「あ~、でもお前よりさっきの女の方が魔力は強そうだったけどな。楽しめねえかもな」
わざとらしくため息をつく八雲。
「そうだな。確かに玲奈の方が強いかもな。でも……俺がお前より弱いとは限らないだろ」
俺はそう言い返し、自身の武器を喚び出した。
「来い、〈レーヴァテイン〉」
灼熱を帯びた剣が俺の手に握られる。
「ハハッ、いいね~。おい一ノ瀬、手ェだすなよ。こいつは俺の獲物だ」
「わかってるわよ、そんなこと」
一ノ瀬は後方に下がり観戦を決め込んだようにため息をついた。
「暴れろ、〈如意棒〉」
八雲が短く呼びかけると、その右手に一本の武器が顕現した。
赤と金を基調とした、装飾のある長い棒。
俺は刃すらついていないその地味な得物を見て、思わず怪訝な顔をしてしまった。
「なんだ? 変な顔しやがって」
「いや、なんでもない」
「もしかして、武器が意外だとか思ったのか?」
「ま、まあ、そんなとこだ」
(どいつもこいつも、なんで俺が思ってることわかるんだよ……)
「確かによく言われるなー。なんかもっとえげつない武器だと思ってたとかどうとか」
八雲は自分の手にある棒をクルクルと回しながらそう言った。
「つか、お前も早くもう一本召喚しろよ」
「……え?」
「確かお前の武器、双剣だろ? 召喚獣に武器になってもらうやつ」
「そうだけど……」
こいつ、わざわざ俺が万全の状態になるのを待ってくれるのか?
「心配すんなって。詠唱中に不意打ちで攻撃したりしねえよ」
「……だったらお言葉に甘えて」
俺は深呼吸をし、魔力を練り上げる。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ、来たれ――《サラマンダー》!」
詠唱に応え、足元の地面から猛烈な炎が噴き出し、炎の化身たるサラマンダーが姿を現した。サラマンダーに剣になってもらい俺はその炎を掴み取り、二振り目の剣として両手に構えた。
「お、なかなかいい雰囲気じゃねえか。面白そうだ」
八雲の瞳に、好戦的な光が宿る。
「それじゃあいくぜ? ……伸びろ」
八雲が短く呟いた瞬間。
ヒュンッ!! と空気を裂く鋭い音が鳴った。
「ッ!?」
俺の視界の中で、ただの棒切れだったはずの『如意棒』の先端が凄まじい勢いで伸び、俺の顔面めがけて真っ直ぐに迫ってきた。
(棒が……伸びた!?)
俺は驚愕で目を見開きながらも、反射的に首を捻ってなんとかその一撃をかわした。頬すれすれを如意棒が通り抜け、肌がヒリつくような感覚が残る。
(っぶねぇ! あの武器、自在に長さを変えられるのか……!)
「流石に当たんねえか!」
八雲は八雲は伸びた如意棒を素早く元の長さへ戻すと、その縮む力に引かれるように、一気に俺との距離を詰めた。
そのまま、遠心力を乗せた如意棒を上段から躊躇なく振り下ろしてくる。
「ッ……!」
俺は咄嗟に双剣を交差させ、その重い一撃を防御した。
――ガァンッ!!
重い衝撃が腕から全身へと抜け、踏ん張った両足が地面の上をわずかに滑る。
(こいつ……速いだけじゃなく、とんでもない馬鹿力だ……!)
「そういや言い忘れてたが!」
鍔迫り合いのまま、八雲がニヤリと笑う。
「俺がさっきお前を待ったのは、別になめてるからじゃねえ! 本気のお前と闘いたかったからだ。勘違いすんなよ?」
八雲は楽しそうに話しながらも、息もつかせぬ連撃を繰り出してくる。
「ッらぁ!」
俺は八雲の重い連撃をレーヴァテインで弾き返し、生まれた僅かな隙にサラマンダーの炎を纏わせた反撃を叩き込んだ。
「ハハッ、いい攻撃じゃねえか! そうこなくっちゃ面白くねぇ!!」
火の粉が舞い散る中、八雲は凶暴な笑みを浮かべ、さらに踏み込んできた。
玲奈は苛立ちを隠せない様子で、自身の腕を組んで足元をコツコツと鳴らした。
「まあいいじゃねえか。焦っても仕方ないだろ」
「私は、あいつと闘いたいのよ」
玲奈の瞳には、明確な怒りが宿っていた。以前、八雲に「女だから」という理由で戦うことを避けられ、馬鹿にされたように感じたことへの腹立たしさが、まだ腹の底で燻っているのだ。
「そんなこと言ったって、そう簡単に来るとも限らないだろ」
俺は周囲を警戒しながら言う。八雲たちもどこかで身を潜めているのかもしれないし。まあ、あの八雲の性格からして、コソコソ隠れているようなことはないと思うが。
「とにかく……あれは?」
玲奈が視線を向けた先、遠くの通路の向こうから二つの人影がゆっくりとこちらへ近づいてくるのが見えた。
「……やっと来たのね」
距離が縮まるにつれ、その姿がはっきりと輪郭を結ぶ。八雲と一ノ瀬のペアだ。
「よー。やっぱここに居たのか」
八雲は散歩にでも来たかのような軽い足取りで手を挙げた。
「相変わらず勘が鋭いわね」
こいつ、ただの勘でここまで真っ直ぐ来たのか。
「……無駄話は後にしてくれる?」
玲奈が一歩前に出て、鋭い声で遮った。
「あ? なんだ?」
「こいつは私が貰うわよ。いいわよね、隼人」
玲奈は俺の返事を待つことなく、魔力を解放した。
冷気を纏った美しい剣が、玲奈の右手に顕現する。
「さあ、あんたも早くして」
「はあ? 俺は闘うなんて一言も言ってねえだろ」
「そんなの知らないわよ」
なんて勝手なやつだ。まあ、玲奈のこの強引さはいつも通りか。
「だいたい、俺は女とは闘いたくないんでな……一ノ瀬、かわりに闘っといてくれ」
八雲は面倒くさそうに首を掻き、後ろの一ノ瀬の方を見て玲奈の相手を頼んだ。
「はあ、私? ……って、向こうはそんな気ないみたいよ」
一ノ瀬が呆れたように玲奈の方を指差した。
「ん?……うぉ! あっぶね」
八雲が振り向いた瞬間、玲奈はすでに地を蹴り、八雲の眼前にまで肉薄していた。鋭い踏み込みからの刺突。
しかし、八雲はそれを紙一重で、しかも最小限の動きで軽々とかわしてみせた。
「もう容赦しないわよ!」
「ちっ……めんどくせぇな」
「反撃しないと終わるわよ!」
玲奈が渾身の力で剣を振り下ろした。
――パキッ。
「な……んで」
玲奈の剣が空を切り、代わりに硬質な破砕音が響いた。
玲奈は信じられないという表情で、自身の腕を見下ろしている。彼女の腕にはめられていた時計の文字盤が、無残に砕け散っていた。
(今の攻撃……全く見えなかった。こいつ、やっぱり只者じゃないぞ)
俺は背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。
「感情的になりすぎだ。大振りになった隙に時計を壊すのなんて、簡単だったぜ」
八雲はいつの間にか玲奈の背後に立ち、つまらなそうに言った。
「ま、普段は『時計が壊されたら負け』なんて特殊なルールの闘いじゃねえからな。勝手が違ったんだろ」
「……ッ」
玲奈は悔しそうに唇を噛み、その場に膝をついて座り込んだ。
「……ごめん」
玲奈が消え入るような声で謝る。
「私がムキになって……」
「気にすんな。別にこれで負けが決まったわけじゃないだろ」
俺は玲奈の言葉を遮り、努めて平静な声で言った。
「……絶対、勝ちなさいよ」
そう言い残した玲奈の拳は、白くなるほど力強く握られていた。
「ああ。絶対勝つ」
玲奈の身体が淡い光の粒子に包まれ、その場からふっと消えていった。転送装置が作動したのだ。
「それじゃあ、邪魔者もいなくなったことだし、始めるとするか」
八雲は俺の方へと向き直り、不敵に笑った。
「あ~、でもお前よりさっきの女の方が魔力は強そうだったけどな。楽しめねえかもな」
わざとらしくため息をつく八雲。
「そうだな。確かに玲奈の方が強いかもな。でも……俺がお前より弱いとは限らないだろ」
俺はそう言い返し、自身の武器を喚び出した。
「来い、〈レーヴァテイン〉」
灼熱を帯びた剣が俺の手に握られる。
「ハハッ、いいね~。おい一ノ瀬、手ェだすなよ。こいつは俺の獲物だ」
「わかってるわよ、そんなこと」
一ノ瀬は後方に下がり観戦を決め込んだようにため息をついた。
「暴れろ、〈如意棒〉」
八雲が短く呼びかけると、その右手に一本の武器が顕現した。
赤と金を基調とした、装飾のある長い棒。
俺は刃すらついていないその地味な得物を見て、思わず怪訝な顔をしてしまった。
「なんだ? 変な顔しやがって」
「いや、なんでもない」
「もしかして、武器が意外だとか思ったのか?」
「ま、まあ、そんなとこだ」
(どいつもこいつも、なんで俺が思ってることわかるんだよ……)
「確かによく言われるなー。なんかもっとえげつない武器だと思ってたとかどうとか」
八雲は自分の手にある棒をクルクルと回しながらそう言った。
「つか、お前も早くもう一本召喚しろよ」
「……え?」
「確かお前の武器、双剣だろ? 召喚獣に武器になってもらうやつ」
「そうだけど……」
こいつ、わざわざ俺が万全の状態になるのを待ってくれるのか?
「心配すんなって。詠唱中に不意打ちで攻撃したりしねえよ」
「……だったらお言葉に甘えて」
俺は深呼吸をし、魔力を練り上げる。
「我は汝の力を欲する者なり。我が声に応えよ、来たれ――《サラマンダー》!」
詠唱に応え、足元の地面から猛烈な炎が噴き出し、炎の化身たるサラマンダーが姿を現した。サラマンダーに剣になってもらい俺はその炎を掴み取り、二振り目の剣として両手に構えた。
「お、なかなかいい雰囲気じゃねえか。面白そうだ」
八雲の瞳に、好戦的な光が宿る。
「それじゃあいくぜ? ……伸びろ」
八雲が短く呟いた瞬間。
ヒュンッ!! と空気を裂く鋭い音が鳴った。
「ッ!?」
俺の視界の中で、ただの棒切れだったはずの『如意棒』の先端が凄まじい勢いで伸び、俺の顔面めがけて真っ直ぐに迫ってきた。
(棒が……伸びた!?)
俺は驚愕で目を見開きながらも、反射的に首を捻ってなんとかその一撃をかわした。頬すれすれを如意棒が通り抜け、肌がヒリつくような感覚が残る。
(っぶねぇ! あの武器、自在に長さを変えられるのか……!)
「流石に当たんねえか!」
八雲は八雲は伸びた如意棒を素早く元の長さへ戻すと、その縮む力に引かれるように、一気に俺との距離を詰めた。
そのまま、遠心力を乗せた如意棒を上段から躊躇なく振り下ろしてくる。
「ッ……!」
俺は咄嗟に双剣を交差させ、その重い一撃を防御した。
――ガァンッ!!
重い衝撃が腕から全身へと抜け、踏ん張った両足が地面の上をわずかに滑る。
(こいつ……速いだけじゃなく、とんでもない馬鹿力だ……!)
「そういや言い忘れてたが!」
鍔迫り合いのまま、八雲がニヤリと笑う。
「俺がさっきお前を待ったのは、別になめてるからじゃねえ! 本気のお前と闘いたかったからだ。勘違いすんなよ?」
八雲は楽しそうに話しながらも、息もつかせぬ連撃を繰り出してくる。
「ッらぁ!」
俺は八雲の重い連撃をレーヴァテインで弾き返し、生まれた僅かな隙にサラマンダーの炎を纏わせた反撃を叩き込んだ。
「ハハッ、いい攻撃じゃねえか! そうこなくっちゃ面白くねぇ!!」
火の粉が舞い散る中、八雲は凶暴な笑みを浮かべ、さらに踏み込んできた。
